第13話「圧勝してやる」
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フェルトでの職業説明会を終えた俺たちは、その日の夜のうちにカッツェへと戻ってきた。
どうやらこちらの職業説明会も無事に終了したようで、既にかなりの数の面接を行っているようだ。
面接といっても基本的に採用するかどうかを見極めるものではない。
それよりはその人の適正を見て、どの仕事に振り分けるかを決めるためのものだ。
もちろん100%全員採用かと言われたらおそらく答えはNOではあるが、元々それぞれが治めていたトップ、またはそれに近しい人間の面接だ。
人を見る目に間違いはないだろうし、国民のことを親身になって考えられるだろうからな。
そこからは忙しい日々が続いた。
毎日多くの面接をするイルシャやナージャを労いつつ、それぞれに割り振った仕事を覚えてもらえるように細かい説明をしに回る。
合間を見て植えた種の世話をアーニャと共にしたり、国営の知識を得たルミエの後任育成も始めた。
ルミエにはこれから出てくる国益の管理という大きな任務を与えている。
俺と出会ってからというもの、こと数学に関しては彼女の右に出るものはいないと自他共に認めるほどには成長してくれた。
ただ、1人だけ突出していても意味がない。
きっちりその技術、知識を後世に継いでいかねばならないのだ。
少なくとも3人はルミエの見ている景色と同じ景色を見れる人が居なければ、後には続けたとはいえない。
3人からまた3人ずつ、といったようにどんどん広げていかねば。
そのうえで来る戦のための準備もしておかなければならない。
時間のない中ではあるが、今まで以上にシャーリーと会って話す機会が多くなった。
当然のように、武器や防具についての注文も多くなる。
しかし仕事が増えて収入を得られる人が増えてきたおかげで、自作の陶器やらの販売実績が上向いたこと。
そして鉱山の近くのカッツェを本拠地としていることが大きなプラスになっているようで、以前よりも多くの武器や防具の在庫を抱えることができた。
やはりこの人なくして、フェルト・カッツェ同盟国の発展はあり得ないだろう。
「本当にアンタは毎度毎度無茶を言うね。この前ようやくお椀300個作り終えたってのに。」
「心から感謝してるよ。シャーリーに頼むと完全再現してくれるから、ついお願いしたくなるんだ。」
「まあ技術者としてはそれは嬉しいけどさ。私ももうじき20になるし、恋の1つでもしてみたいものだけどな。」
「今は粘土や鉄が彼氏ですもんね。」
「毎日すすだらけでも、この子たちは嫌がらないし嫌な顔もしないからな。」
笑いながらベーと舌を出すシャーリー。
この人は身なりさえ整えれば絶対にモテると思う。
最初に会った時の感想は、今でも変わっていない。
変わったというか驚いたことがあるとすれば、出会った時に感じていた見た目の年齢だろうか。
初めて出会ったとき、22歳くらいの印象を受けたが実際は15歳だった。
つまりこの世界の俺の5つ上だ。
実年齢を知ったのは最近になってからだが、本当に驚かされた。
今の見た目も25歳くらいと、だいぶ大人びて見えるというのに。
「まあでも、シャーリーさんの魅力に気づいてくれる人が見つかるといいですね。」
「毎日すすだらけで、家事もろくにできない女なんて需要ないだろ。」
「そうですか?俺はシャーリーさん充分魅力的だと思いますけどね。」
「・・・アンタもそろそろそういう年齢なんだから、あんまりそういうこと言わない方がいいわよ。」
そういえば来年には16歳になり、この世界では成人を迎えることになっている。
結婚などの話も考えていかなくてはならない時期なのだろうか。
現世では年齢イコール彼女いない歴だった俺にとって、大きなハードルではある。
しかしこちらの世界では人生を踏み外す前からやり直すことができ、今となっては周りに俺を慕ってくれている女性は居る。
そんな人たちと、今後そういう関係になる未来はあるのだろうか。
「先のことはこれから考えますよ。今日はありがとうございました、また来ます。」
「おう、いつでも来てくれな。」
俺のお辞儀に手を挙げて答えるシャーリーに見送られ、俺は工房を後にした。
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外に出ると、もう時間は夜になっていた。
フェルトと違って山が近いからか、同じ時間でも比較的日の沈みが早い気がする。
そんなことを思いながら工房から帰宅していると、後ろからイルシャに声をかけられた。
どうやら今の今まで面接をしていたらしい。
朝早くから何件こなしたことやら。
カッツェではすでに多くの国民を職に紹介できているようで、まもなく面接地獄も終了するらしい。
ナージャにも手伝ってもらっている分、フェルトより早く進んでいる。
前にも思ったが、本当にいいコンビだ。
他愛のない会話をしながら家に帰る。
こんな平穏な日常がこれからも続いていくためにも、フリードとの戦は絶対に負けられないな。
「今日はカツドゥーンなるメニューに挑戦してみました。」
「かつ丼か!丼ものレシピ増えてきたなあ。」
家に着き晩御飯をイルシャと共に待っていると、キッチンからアルシェがどんぶりを2つ乗せたおぼんを持ってきてくれた。
牛丼にかつ丼、そして親子丼もマスター済み。
あとは生姜焼きやら定食として出せるメニューも組み込んでもいいだろう。
牛丼屋を作るにあたり、ダッカスとアルシェ2人には丼ものメニューの作り方を徹底的に教えている。
2人が作り方を完璧にマスターし、調理担当に教え込むといった流れだ。
ただ心配なのは超一流の料理人と化している2人の技量を、どこまで教えられるか。
といっても肉の量に対して調味料の量を決めたレシピを作って貼り出す予定ではあるので、誰でもできるような仕組みにはなるはずだ。
それならそこまで心配する必要もないか。
「これめちゃくちゃ美味いな!今度作り方教えてくれ!」
「もちろんいいですよ。」
とイルシャも大満足のようだ。
俺たちが食べ終わってしばらくすると、今日は別行動をしていたアーニャ、そして面接を終えたナージャが帰ってきた。
といってもナージャはご飯を食べたらイルシャを引き連れて帰ってしまうだろうけど。
「とてもいい匂いがするわね!これは今日のご飯も期待していいかしら。」
「そうですね。ここのご飯を食べないと1日が終わった気がしなくなってきました。」
「うははは!ナージャも舌が肥え始めたな!」
「イルシャ様ほどではないと思います。」
そんな会話を聞きながら、作戦を考える。
フリードほどの大国ともなると、歩兵というのはあまりいないかもしれないな。
だが、今までイルシャが打ち取られていないのを見るに銃はこの世にはまだ存在していない。
となると馬がメインで武器は剣と、あっても弓だろう。
弓ならイルシャに効かないのは、タロー隊で実証済みだしな。
今までの闘いの大体は見えてきた。
こちらが追い込まれて籠城戦になるまでは攻城兵器を持ちだしてくるとは思えないしな。
ただの移動力のない木の車って感じだし、白兵戦には向かな過ぎる。
ということでこちらから奇襲で追い込む作戦でいこう。
地の利はこちらにある。
どんな地図も地形も、このパソコンの前には丸裸というわけだ。
画像付きで360度見渡せるのだから。
戦場にすべきはカッツェの西端にあるクロース川周辺がベストだな。
こちらの戦力を削ることなく、圧勝してやる。
検索っと。
後に語り継がれることになる、フェルト王国の成り上がりの序章。
クロース川の戦い。
小さな国に現れたたった1人の男の名が、全国に知れ渡る時。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




