第10話「畑づくりは大変」
上機嫌なアーニャに連れられるがままにフェルトを後にし、カッツェに戻ってきた。
特にこれといった問題もなく滞りなく作業が進められており、順調と言っていいだろう。
シャーリーに今回の遠征に何も言わずに出てしまったため、機嫌を直してもらうのに時間を費やしたくらいだ。
畑の次の工程を始めるのは明後日なので、代わりに明日は大量の新作工芸品を見定める日に設定しよう。
本当に仕事の早い人だ。
その日の夜、寝ようとしていると部屋にイルシャが枕を持って現れた。
遠征直前にも同じことがあったが、明日俺は生きて目を覚ませるかどうか心配だ。
イルシャに抱き枕にされつつも、なんとか生きて翌朝を迎えることができた。
本当に可愛い寝顔の子が、無意識で人を殺めてしまいそうになっているなんて誰が信じるだろうか。
仲介所建設の指揮を執るために向かうイルシャを見送り、ジャーク、アーニャと共に畑の様子を窺っているとシャーリーが大量の新作を持って訪ねてきた。
12人が座れるかなり大きいと思っていたテーブルに、これでもかと並べられた食器や器。
なんでもコツをつかんだようで、イメージできたものを片っ端から作ったようだ。
それを自信満々で持ってきたら遠征していた、と。
軽く小言を言われる程度には拗ねられている。
申し訳ないので次からはきちんと伝えるようにしよう。
木の模様がついたままの光沢がある食器や、ガラスで作られた綺麗な花瓶など、どれをとっても素晴らしい出来だ。
そんな中でシャーリーが自信作だと取り出したのは、現世ではよく目にしていた形のものだった。
「これは・・・どんぶりか。」
「どんぶりっていうのか?
呼び方は分からないけど、今回の自信作だ。
これならスープを入れてもよし、多い量を入れてもよし、皆で取り分けるもよしだろう。」
ラーメン屋には必ずある、あの大きいやつだ。
俺が教えたわけではなく、シャーリーが自分で考えてそこに至ったのだ。
やはりこの人は天才だ。
これなら丼もののレシピを教えてもいいな。
待てよ、牛丼や豚丼の店を作るのはどうだろうか。
テイクアウト容器は用意が難しいか。
鍋を持って来れば量り売りに対応ってところだろうな。
現世であれだけの繁盛店ができるくらいだ。
この世界ではもちろん吉〇家なんてないし、作ってみるのもいいかもな。
そうと決まればシウバ様に相談だ。
食用の牛と豚の安定供給元の確保が必須だし、流通ルートも確保しなければならない。
やることは山積みだな。
シャーリーには、お茶碗よりも一回り大きめのどんぶりを大量に作ってもらうように依頼した。
どんぶりはどんぶりで、小麦の安定供給ができるようになったらラーメン屋にでも使わせてもらうとしよう。
食は文化だからな。
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そんなこんなしているうちに午後になっていた。
シャーリーを見送り、シウバ様に手紙を書き、イルシャ達の仕事の進展状況の確認と大忙しだった。
ようやく落ち着いたので、ダッカスの料理を食べてひと段落。
今週はアルシェがカッツェ城に呼ばれている番だ。
食べ終えた後、今後に備えてダッカスに牛丼のレシピを教えておいた。
アーニャが我先に味見をと食い付くくらいだったので、この案は成功しそうだと自信がもてた。
さて、ようやく時間が空いたので朝の続きだ。
ジャークとアーニャに次の工程を説明しよう。
「これで土の作成はほぼ完了だ。
明日は畝という野菜を育てる部分を作る。
土を盛り上げて畝を作ることによって、野菜の根が伸びやすくなったり排水もよくなる。」
そこでアーニャが無言で手をあげた。
話を遮らないようにしてくれている配慮が嬉しいもんだ。
「はい、アーニャ君。」
「砂場の山みたいな感じのをたくさん作るってこと?」
「山というよりは、テーブルをイメージしてもらった方が良いッスかね。
植える面を平らにしないと日当たりが均等にならないから、不ぞろいになっちゃうんスよ。」
ジャークがすぐさま補足してくれた。
全体的に20~30センチ程掘りながら混ぜ、平らにする。
そこから山と谷の谷になる部分を掘り下げていく。
広い庭に大きな畑を作っただけに大変な作業だろうが、頑張っていこう。
「しかし本当、そのパソコンってのは凄いッスね。
農家出身の僕ですら、端的にしか理解できない部分があるくらいッスよ。」
「ここにあるのは俺の知識ってわけじゃないさ。
俺が居た世界の沢山の人たちの叡智の結晶だ。」
「それでも、この世界でその知識を知れるのはタマタローだけだもの。
それがどれだけ凄いことか分からないほどじゃないでしょ。」
まあそうなんだけども。
確かに世界で俺しか知らない知識が大量にあるのだから、浮かれたくなる気持ちはある。
しかし俺は既にフェルト王国の人たちを見て、知ってしまった。
平和な世界という志を、身体で感じてしまった。
そんな人たちのために自分の力、ここでは知識だが。
それを使って、共に歩んでいきたいと思ってしまったんだ。
「知識を個人的に使うことで大金を稼げたりもするんだろうけど。
どうせ同じ大金を得られるのであれば、この国のために使いたい。
それしか考えてないよ。」
「・・・ありがとう。」
大きく目を見開き驚いた顔をしたのち、頬を赤く染めて嬉しそうにお礼を言うアーニャ。
その本当に嬉しそうな笑顔から、目を離せなかった。
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翌日、家に住んでいるタロー隊総動員で畑作業を行った。
それでも朝から初めて昼休憩のみで、夕方近くまでかかった。
疲労困憊のメンバーに申し訳なく思うが、俺自身も疲労困憊だ。
順に風呂で汗を流して夕飯にするとしよう。
今日はぐっすり眠れそうだ。
その夜、シウバ様から手紙の返事が届いた。
入手及び流通ルートに関しては国で管理して、不足することのないよう努めるとのことだ。
そこまでしてくれるなんて嬉しい限りだな。
売り上げに関してはどのみち国益にするつもりだし、財布が別になるようなこともなく安心だ。
これだけやるべきことが増えてしまっているとなると、そろそろ人手が必要な職業のリストアップ、求人をしなくてはならない。
それを管理して人手を振り分けて、教育する。
言葉にするだけなら簡単だが、本当に大変な仕事だ。
仲介所の建設を待っている間に、アーニャ画伯にポスターの作成カッツェバージョンをお願いしなくては。
そして完成次第、各国の仲介所で採用及び人事の振り分けだ。
これに関してはイルシャとナージャに話を通してあり、各国の採用は任せてある。
人事の振り分けはタロー隊で行う予定だ。
ということで明日はイルシャとナージャを含めて、職業のリストアップをしよう。
仲介所運営、鉱山の発掘、資源運搬、牛丼屋の調理販売など、今浮かぶだけでも大量の人員は必要だ。
しかし仕事さえきちんとできれば年齢は不問であることは大きい。
年齢的に肉体労働が厳しい人には仲介所の事務や、牛丼屋の調理などをおすすめできる。
幼く金銭を触らせるのに不安があれば、在庫管理などを任せればいい。
そして肉体労働には発掘と運搬、と割と融通は利く。
それぞれに勤怠の管理をさせるためのシステムを作るのも必要だな。
これに関しては、ナージャと話して考えておこう。
あの子が一番柔軟な頭を持っているので、相談事はナージャにするに限る。
力仕事はイルシャが得意だし、あの2人は中々いいコンビだな。
話が脱線した。
ひとまず未だに居たイルシャにそのことを伝え、了承を得た。
これで明日は良し。
それがひと段落する頃にはフェルトの仲介所が完成するだろうから視察に行って。
そのついでに明日まとめる職業を説明できるようにしておこう。
会社説明会みたいなものだな。
仕事内容を説明することによって、より理解が深まると思う。
段取りはこちらでやるつもりだが、先立って告知をシャンドラ様にお願いしておこう。
やることが山積みだ。
休みという休みなんて、この先当分ないかもしれない。
それでもこの充実感を楽しめている自分が居る。
ふと、リビングで舟をこいでいるアーニャを見る。
この子が大切にしてきた国、そして志のために頑張ろう。
それが俺に出来る、フェルトへの恩返しだと思うから。
アーニャに毛布をかけ、俺も寝るために部屋へと向かった。
拙い作品ですが、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




