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萩の一夜  作者: 坂本梧朗
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第4話


 夏休みの間に県の教育界に一つの事件が起きた。ある女子高校で生徒の体罰死事件が起きたのだ。それはマスコミによって全国的に報じられ、体罰に対する世間の批判は高まった。県の教育委員会は各学校に対し体罰厳禁の通達を出した。私立学校にも私学振興局から同趣旨の指示文書が出された。

 その直後、照義の勤める学校を大手新聞社の女性記者が訪れた。彼女は二、三カ月前に校内で起きた体罰事件を取材に来たのだ。それは教師が持っていた竹刀で生徒が指の骨を折ったという事件だった。そんな事件があったことを照義は同じ学校に居りながら知らなかったのだが、当事者の教師が職員会議で報告した内容では、授業時間中、テストの成績が悪かった生徒の尻を竹刀で叩いた時、生徒の手が竹刀に触れたらしかった。教師は生徒本人、さらに家に出向いて保護者に謝り、許しを得て事件は既に落着していた。それを体罰死事件が起きた機会に新聞社に通報した者がいたのだ。何度か学校を訪れた女性記者は教頭に、この学校の先生方はなぜ授業をしに行くのに竹刀とか竹の棒などを持って行くのかと執拗に尋ねた。確かに学校では教師の多くがそんなものを持って教室に赴いていた。照義も竹刀を解体した一本の竹を短く切ったものを携帯して授業をしていた。それは確かに黒板を指す指示棒としての用途より生徒の尻を叩くのに使われることが多かった。しかしそれは教師達には必要なものだった。掃除をサボッた時、提出物を忘れた時、遅刻をした時など予告しておいて叩くのだ。予告しているのだから生徒も文句を言わなかった。授業中態度の悪い生徒を注意する場合でも、感情的になって手で叩くよりはるかに冷静な処罰法だった。尻を叩くことが可能になるのは生徒がその姿勢を取った時であり、そこにはわずかでもその罰を受容しようという生徒の意思が存在しているのだった。しかも尻は叩く場所として最も害のない部分だった。しかし教頭がいくら教育現場での必要性を説明しても女性記者は納得しなかった。

 夏休み中に臨時の職員会議が開かれた。校長は現在はどんな理由をつけようと体罰は正当化され得ない情勢だと述べ、今後は体罰を廃止すると宣告した。教師が竹刀や竹の棒などを持つことは禁止され、生徒を床に座らせることも止めるように指示された。代りに、体罰を用いなくても指導が行われるよう、生徒や保護者との日常的な意思疎通をよくすることが要請された。

 教師達には不安と戸惑いが見られた。数十年の指導スタイルを変えることになるのだ。必ずしも素直な生徒ばかりではない男子だけの集団を、果してそれでうまく指導管理していけるだろうかという危惧を抱く教師は少なくなかった。


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