3.あたしは復活したらしい。①
◇ ◇ ◇
「ネフェリアさん、少しよろしいかしら」
「うんいいよ。なに?」
「公開祈祷の件ですけど。終了後に民衆と握手するの、やめていただけます?」
「どうして?」
「わたくしが握手しないのにあなただけが握手していたら、なんだかわたくしがお高くとまった嫌な神子みたいじゃないですの」
「……じゃあシビリアーナも握手すれば?」
「嫌よ。そんな愚民とわざわざ握手だなんて。手が穢れるわ」
「……そう。でもあたしは握手したいよ。いろんな人と交流もつのは楽しいし」
「ですからあ、そういったことをされると、わたくしの白神子としてのイメージが、相対的に悪くなるじゃありませんの。わたくしは、天使ハッカル様に仕えてるんですのよ。イメージは大事でしょう」
「それはあたしの――」
「なにか言いまして⁉」
「……いや、ごめん。そうね、あんたは白神子ね。変なこと言ってごめん」
「いえ、別によろしくてよ。愚昧な者に赦しを与えるのも、白神子の務めですもの」
「……で、なんだっけ。つまりあたしが握手することで、握手をしないあんたの評判が相対的に下がってしまう。だけど評判だけのために握手はしたくないから、あたしにも握手をしないでほしいと?」
「まあそういうことになりますわね。本当はこんなこと、言わなくても自ら察して対処してほしいところですけど。あなたは腐っても、堕天使タルタラ様の加護を受ける黒神子なのですし」
◇ ◇ ◇
「超むかつくんですけどぉぉぉぉっ!」
グーパン入れてやりたいような澄まし顔を思い出しながら、あたしはがばっと身を起こした。その際はねのけてしまったらしい布団かなにかが、一瞬視界を遮りすぐさま退散していく。
「って、あれ⁉」
なんであたし生きてるのっ⁉
てっきり死んだと思ってたのに……気のせいだった? 夢? にしてはやたらめったらリアルな痛みだったけど……
混乱しながら、あたしははねのけた布団を引き寄せる(寒かったのだ)。
状況確認状況確認。
どうやらあたしが今いるのは、粗末な小屋のベッド上だった。壁も天井も内装も、どれをとっても見覚えがない。
身体に痛みは欠片もなく、手当てされた形跡どころか、傷痕すら残っていない。
……ってことは、やっぱり夢? どこからどこまで夢だった?
考えるため記憶をさらい、はっとする。
「そうだパトリック!」
あれが夢なら、どこかで元気に生きてるはずだ。
とにもかくにもそれを確かめたくて、あたしはベッドから抜け出した。
「パトリック! パトリック⁉」
切羽詰まった声で呼びかけると――
「わふ!」
奥の扉を勢いよく開け、白い獣が飛び込んできた。
「あ……あ……」
あたしはふらふらとパトリックに歩み寄り、
「よかったぁ、パトリックぅ~……」
すがりつくようにして抱きついた。
よかった。やっぱり夢だったんだ。
安堵の波に任せて、いつもみたいに白い獣毛へと顔をうずめる。包帯があるせいで所々ごわごわしてるけど、やっぱりパトリックはふわふわで――
「……ん?」
あたしはパトリックから顔を離し、彼の身体をまじまじと見つめた。
包帯が巻いてある。夢で、パトリックが血を流していた辺りだ。
つまりはパトリックは、本当に怪我したわけで。
つまりあの生々しい出来事は、夢などではなく……
「夢などではなく、主は本当に死んだということになるな」
「⁉」
思考に割って入った言葉に、あたしはばっと振り返った。