6.あたしは反撃できるらしい。⑤
「じゃじゃーん! 天使タルタラ様でございまーすっ!」
あらわになった姿は、妖艶な美女タルタラ様。
その危なげな美しさは不思議と、清廉の象徴である純白の翼と調和が取れている。
「な、なんと!」
「あの爪剝ぎのタルタラ様が天使とな⁉」
「その二つ名はやめい!」
タルタラ様が犬歯をむく。失言をした神官が、ひっと息をのんだ。
少年の姿は窮屈だったのか、タルタラ様はこきこきと肩を鳴らし、祈祷の間を見回した。
「うむ。この場所は居心地がいい。光の御使いというのも悪くないな」
「先代のハッカル様が、いい人でよかったですよね」
光の御使いを代わってほしいとハッカル様の元へ頼みに行った当初は、転化したばかりの者に任せられるわけないだろうと、やんわり断られ追い返された。
だからタルタラ様は天使として、あたしはもちろん堕天使として数カ月みっちり修行したんだ。その間も何度もハッカル様の元へ足しげく通い、お願いし続けた。
タルタラ様とあたしのふたりで、世界のために尽くしたいのだと。
あたしたちの切実な熱意(本音はもちろん、修行で鍛えた耐読心の術式で隠した)が伝わったのか、ハッカル様は光の御使いの座を、タルタラ様へと譲ってくれた。
タルタラ様が光の御使いになってくれたら、あたしが力及ばぬときも指導してもらえるし、白神子だって任意に選べる。
さてさて、新たな白神子はっと……
思っていると、タイミングを見計らったかのようにシビリアーナが手を上げた。
「で、ではわたくしが白神子の座を務めましょう!」
「ほう。主が? 闇の御使いや黒神子を散々おとしめた主が、またわらわの加護を受けたいと申すのか?」
すっと細められたまなざしで見据えられ、シビリアーナがたじろぐ。
「タ、タルタラ様も、そのわたくしの心意気を買ってくださってたのでしょう? だからわたくしの神通力は強力になった……」
「確かにな。主の傲慢さ・腹黒さは堕天使の身体には心地良かった」
脈ありとみたのか、シビリアーナは畳みかける。
「わたくしは柔軟ですの。黒神子なら黒神子、白神子なら白神子にふさわしい人間になりますわ。タルタラ様とは長い付き合いですし、共鳴深度も期待できるでしょう? 第一わたくしほどの徳もちなら、本来白神子となるのがふさわしいものですし――」
「ううむ。しかし……ネフェリアはどうじゃ? 闇の御使いとしての意見が聞きたい」
タルタラ様は顎に手を当て、思慮深げにあたしに振ってきた。
シビリアーナが「くっ……」とうめく。さすがにいい結果は期待できないと踏んだのだろう。
だけど、
「そうですねえ……シビリアーナの言うことも一理ありますし、いいんじゃないですか?」
「え?」
あたしの推薦に、シビリアーナがぽかんと口を開ける。
散々鞭は与えたし、そろそろ飴をあげてもいいよね。
「という訳でえ、新生チームで頑張っていきまっしょう♪」
あたしは腕を突き上げた。
なーんてね。
◇ ◇ ◇