6.あたしは反撃できるらしい。④
「なにをですの?」
いぶかしげに聞き返してくるシビリアーナ。
あたしはとうとう我慢できずに、ぷぷっと吹き出した。
「あんた……あんたさ……五歳過ぎてもおねしょしてたらしいじゃーん!」
「なっ……」
「高貴な高貴なシビリアーナちゃん。兄姉たちからは、チビリアーナって呼ばれてからかわれてたんだってねー♪」
「なっそっなっ、ななななななんっ……」
紅潮してた顔色がせっかく元に戻りかけてたのに、一瞬にして彼女の顔が再び、ぼっと朱に染まる。
周りの神官たちはできるだけ平静を装っているようだが、所在なさげに視線をそらす者、吹き出すのをこらえている者、引き気味な者とそれぞれ色が違っている。
やっば。マジ楽しいわこれ。
タルタラ様のように読心術を使えるようになりたくて、シビリアーナの姉で実践した成果がこれだけなのはしょぼくれてるけど、その内容はあたしにとっては格好のいじりどころだった。
あたしはシビリアーナに近寄って、彼女の肩に腕を回した。
「まあこればっかりは体質とかもあるもんねえ、気に病むことないと思うよチビリアーナちゃん♪ あたしは軽蔑しないよチビリアーナちゃん♪」
「う、うるさいですわ! いえそもそも、よくもそんなデタラメぬけぬけとっ……」
突き飛ばすようにあたしから離れるシビリアーナ。
それと逆行するように、神官たちが詰め寄ってきた。
「ネフェリア様」
「お願いでございます、加護をお与えください」
「せめて次なる白神子を見つけるまでは……」
もみ手の彼らに向かってあたしは唇を突き出した。
「えー、嫌だよ。チビリアーナちゃんに加護を与えるなんて」
「そ、それでは神子をすげ替えますから、それで何卒……」
「な、なんですって⁉」
シビリアーナが悲鳴を上げる。
「そうだそれがいい」
「こやつは愚かな見栄から役割を偽った嘘つき女。別のふさわしい神子を探すべきだ」
「なにを馬鹿なことを言ってますの⁉ 許されませんわよそんな横暴っ!」
そうだそうだと同調が広がる中、シビリアーナだけがきんきんと金切り声を上げている。
そんな様子をたっぷり満足いくまで視界に収めた後、あたしは切り捨てるように言い放った。
「何度頼まれたって同じ。あたしはいかなる黒神子にも加護を与えないよ」
「しかしそれでは――」
「でもね、そっちにはもっといい話」
神官の言葉を遮り、にっこり笑う。
「黒神子なしで、あたしが直に加護を届けてあげる」
「直にですと?」
「そ。つまりは介在なしのダイレクト加護。おお、お得だねえ!」
「わう!」
合いの手ありがとパトリック♪
「幸いにも家は近所だし? あたしが毎日通って仕事をこなしてあげるよ」
「お、おお……」
「それなら……」
「いやむしろその方が、国の繁栄には望ましい……」
「ちょ、ちょっと皆さん! 冷静に考えてくださいな!」
「口を慎め、貴様はもう神子ではない。ただのチビリアーナだ」
「シビリアーナですわっ!」
神官たちにすげなく扱われ、シビリアーナはちょっと涙目だ。
「あ、ちなみにだけど」
あたしは頃合いを見計らって口を開いた。
「白神子は復活させるつもりなんでよろしくね。こっちも御使いが代わったんで、心機一転みんなで頑張るつもりだよ」
「なに、光の御使いも代わられたのか⁉」
「一体どの天使様に……?」
ざわめく神官たち。
あたしはふふんと顎を上げ、付き人のローブを剝ぎ取った。
その一瞬で、少年であったはずの者が姿を変える。