6.あたしは反撃できるらしい。③
ずびしぃっと、親指を下向ける。
「シビリアーナ、いくらなんでもそれは虫が良過ぎるんじゃないの? あたしを殺そうと――いえ、あたしを殺しておいてさあ!」
「なんじゃと⁉」
「どういうことじゃシビリアーナ⁉」
「し、知らないですわ! ちょっとネフェリアさん! 人が下手に出ていれば、嘘八百を並べ立てて……! 第一あなた生きてるじゃありませんの! 死んだなんて明らかな嘘、よくも吐き出せますわね!」
言葉とは裏腹に「どうして生きているんですの⁉」という驚愕を顔に張りつけて、シビリアーナ。
あー。これはあたしと同じ、完全に失念しちゃってた系か。
「殺されたから、こうして転化したんでしょ?」
言うとシビリアーナは「あうっ……」と痛恨にうめいた。やっぱり転化の話、忘れていたらしい。それともあたし程度では、転化できないと高をくくっていたのかな?
まあどっちでもいいけどね。
「納得できたかな? それでも嘘って言い張るのなら……」
ぱちんと指を鳴らす。
天井近くの空間から突然人影が現れ、落ちてきた。落下地点にいた付き人が、さっとよける。
召喚されたのは、あたしを殺した三人組の最後のひとり、タルタラ様の返り討ちにあった男だった。
背中を打ちつけて、げふげふっと咳き込んでいる男の腹を、あたしは容赦なく踏みつける。背徳的な高揚感が身を包んだ。
「ほら言いなよ。そしたら約束通り見逃してあげる。言わなかったら虫の息に逆戻りだよ。また数カ月前の苦痛を味わいたい?」
「……お、俺たちは白神子の依頼を受けて……」
ぎろりと見下ろすあたしの視線を受けて、男が慌てて言い直す。
「黒神子シビリアーナの依頼を受けて、白神子ネフェリア様を殺した」
「そう。で、あたしは殺されめでたく堕天使に転化ってわけよ。分かった? ぼんくら共」
ようやくシビリアーナの邪悪さを白日の下にさらすことができて、あたしのテンションは絶好調だった。
だけどシビリアーナも負けていない。
「で、ですがそういうことなら……あなたは天界人へと転化できたのですから、よかったじゃありませんの。そうよ、結果的に祝福へと導いたのだから、むしろ感謝していただきたいくらいですわ!」
ものすごい論法で攻めてきた。
すごい。すごいけど馬鹿だ。殺されてありがとう路線は、どうアピールしても神官たちの琴線には触れないよ。
シビリアーナは続ける。
「それをあろうことか、祈祷の間という神聖な場で騒ぎ立てて……ほんとこれだから、田舎育ちは言動が下品で嫌なのよ」
「あらあら言うじゃんシビリアーナ様」
再びぱちんと指を鳴らすと、出現した時同様に忽然と、足元の男が姿を消した。
約束通り逃がしてあげたのだ。ただし行き先は、死の砂漠と名高い『断絶の砂海』。まあ逃がした先で死んじゃっても、あたしの責任じゃないよね。
「そうだよね。シビリアーナ様は、あたしと違って高貴なお生まれだったもんね」
「え、ええそうよ。ですから――」
「でもあたし知ってるんだよね」