6.あたしは反撃できるらしい。②
「その点についてはふたつ、訂正させてほしいんだけど」
まずは一本指を立てる。
「ひとつ。あたしが黒神子の座に就くのは無理。なぜなら黒神子はあたしじゃなく――」
「っ⁉ ちょっとネフェリアさん⁉ なにを――」
ようやく言葉を発したシビリアーナを、あたしは当然ガン無視した。
「――あたしじゃなく、そこの腹黒陰険女だから。彼女が黒神子。真っ黒々」
「なっ……」
「まことかそれは⁉」
「どういうことだシビリアーナ!」
ざわめく神官たち。
彼らの注目を浴びて、シビリアーナは紅潮した顔を引きつらせた。
「なっ……そっ……ちょ、ちょっとネフェリアさん! いきなり戻ってきたかと思えば、なんて無礼なことを!」
「無礼もなにも事実だから。あたしが白神子であんたが黒神子。最初からずっとそうだった。あんたのぶりっ子に付き合って、あたしが見た目の役割を代わってあげてただけ」
あたしはくるくると指を回しながら、「ねー?」とパトリックに同意を求める。パトリックは「わっふ!」と大きくうなずいてくれた。
「で、もうひとつ」
ぴっと指を一本、追加で立てる。二本の指でくるくると空気を混ぜながら、
「あたしは白だろうと黒だろうと、神子の座に就く気は更々ない。だってあたしは御使いの堕天使だから」
胸元に手をやり、ここぞとばかりに外套を脱ぎ捨てる。
同時に背中からはじける解放感。
「おおっ……」
「まさか……」
感嘆と畏怖の声。実に心地いい。
あたしは漆黒の翼を存分に伸ばし――なんか後ろにいた人っぽいなにかを痛烈にはたいてしまった気がするけど、まあ気にしない――シビリアーナお得意の優雅な一礼を真似してみせた。
「傾聴傾聴ー。タルタラ様は諸事情により、御使いの座を降りられました。その後継はタルタラ様直々のご指名をいただいた、あたしネフェリアが務めさせていただきまーす」
「え……?」
「つまりはシビリアーナ。黒神子のあんたはあたしに加護を乞わねばならないってわけ」
「な……そんな馬鹿なことっ……」
口をぱくぱくさせるシビリアーナ。
「信じられない? じゃあ共鳴してみよっか」
付き人の少年の肩にもたれながら、あたしはぞんざいに右手を振る。するとシビリアーナの金髪が、純白に輝き始めた。御使いと神子のつながりを示す印だ。
「これは……本物じゃ! 本物の御使いじゃ!」
「ええいシビリアーナ! 早く契約を交わさぬか!」
「そんな……でも……」
「早く!」
ぐずぐずと「でも」を連発するシビリアーナに、神官たちが「早く早く」と契約を迫る。
さすがのシビリアーナも、その流れには逆らえなかったようだ。発光の収まった髪をなでつけ、渋々……といった様子でまぶたを下ろす。
「では……お願い、します」
「ごめん小さくて聞こえない!」
「お願い……しますわネフェリアさん――」
「さん⁉」
「……ネフェリア様。わたくしと契約して、加護をお与えてください」
ふふっ……ふふふっ。
あたしは少年から、ゆらりと身体を離し――歓喜を爆発させた。
「ぶぁっかじゃないのぉ! そんなのお断りぃっ!」