6.あたしは反撃できるらしい。①
◇ ◇ ◇
天気は快晴。すがすがしい空気に肺も心も喜ぶ。
こんな気持ちのいい日に、誰をも気にすることなく大手を振って歩けるというのは、実に爽快だった。
そしてそんなあたしを、
「ネフェリア……⁉ なぜここに!」
「これは神の導きか……⁉」
唖然とした顔で見つめ、ささやき合っている神官たちを素通りしていくのは、実に痛快だった。
タルタラ様が天使化してから、数カ月が過ぎた。
国は御使いの加護を失い、衰退の一途をたどっている。今や神殿の権威もがた落ちだ。
だからなのだろうか。あたしの目の前にそびえる神殿が、雨に震える子犬のようにはかなく見える。
「じゃ、入りますか」
あたしは鼻歌交じりに、同道者に話しかけた。
パトリックが「ばう」と鳴き、ローブ姿の少年が静かにうなずく。
そう、あたしは帰ってきたのだ。この神殿に。
どうしてかって?
そりゃあもちろん、機が熟したからだ。
もう、あの人に会いたくてたまらない。
ふふっ……ふふふっ。
漏れ出ようとする笑いを抑えきれない。
待っててねシビリアーナちゃん。
今会いに行くからねーっ♪
◇ ◇ ◇
神聖な祈祷の間。
かつてのあたしはここで、追い詰められた鼠のように、神官たちに囲まれていた。
それが今ではどうだろう。
同じ囲まれているとはいっても、包囲する側される側、両者の立場は完全に逆転していた。
「困ってるみたいじゃん?」
仲間ふたりを連れたあたしは腕を組み、にやにやと問いかけた。
ぐぅ……と窮した声を上げる神官たち。
でもそんなおっさん軍団なんて、正直もうどうでもいいんだよね。見飽きちゃった。
大切なのは目の前。目の前にいる、神子シビリアーナ様の怨嗟のうめきこそ、あたしが聞きたい声だった。
シビリアーナは顔面蒼白であたしを見ている。まるで幽霊でも見たかのように。
そりゃそっか。なにせ彼女の中では、あたしは死んでるはずなんだから。突然現れれば度肝も抜かれるだろう。
対面以来一度も言葉を発していないシビリアーナに、あたしはにっこりと微笑む。
彼女はびくっと身をすくませた(あー面白い!)。
「大変だよねー。神子をひとり追い出してみたものの、突然加護が得られなくなっちゃったんだもん。お気の毒さま」
ふふんとご機嫌なあたしをどう勘違いしたのか、神官たちが口々に話しかけてくる。
「いやいやまこと、ちょうどよい時に戻ってこられたものだ」
「やはり黒神子は必要であった。私の主張通りだった」
「また黒神子の座に就いてはもらえないだろうか?」
「我々も本当は、黒神子――いや、黒神子様の力を尊んでおるのじゃ」
「主もそのために戻ってきたのであろう?」
がやがやとおだてつつ自己保身もちゃっかり交える彼らに、あたしはぷっと息を漏らした。