5.あたしは役立たずらしい①
◇ ◇ ◇
振りつける雨は、こちらに恨みでもあるのかというくらい激しく、窓ガラスをたたいてくる。
「あーあ。雨ってなんでこんなに気が滅入るんだろ」
スツールに腰掛けて窓縁に頰杖を突きながら、あたしは吐息を漏らした。
暇だった。今日はタルタラ様が擬人化期に入っちゃったから、実践授業もお休みだ。だったら自主練でもしようかとも思ったんだけど……
恨みを忘れないよう、毎日毎日シビリアーナへの悪感情を念に込めているから、どうしても精神的に参ってしまう。それを癒やしてくれるのがパトリックとの散歩だったんだけど、あの一件以来こそこそとせざるを得なくなり、どうにも羽が伸ばせない。
「パトリックー、早くまたボール遊びとかしたいねー」
外を見つめたまま、部屋の対角で寝そべっているパトリックに声をかけるが。
「……パトリック?」
あたしは違和感を覚えて振り返った。
いつもなら「わぅ」なり「ばう!」なり、なにかしら返事をしてくれるパトリックが、全くの無反応だったからだ。
寝ているだけなのかもしれないけど……
「パトリック?」
あたしは立ち上がり、部屋の隅に移動した。
パトリックの背中にそっと触れると――少し、いつもより熱いような。
「パトリック⁉」
顔をのぞき込む。
起きてはいるようだが、目はとろんとしていて、どこか焦点が定まっていない。
恐らく発熱している。
「ごめんね、全然気づかなくて!」
あたしは慌てて立ち上がり、近くの椅子に引っかけてあった膝掛けを引っつかんだ。
それをパトリックの身体にかけながら、頭を巡らす。
えっと、あとは水……そして、薬!
確かパトリックが怪我の影響で熱を出した時、タルタラ様がくれた薬があったはず。
パトリックが「くぅん……」と鳴いて頭を上げる。窓の方を見ているようだ。雨音の激しさが煩わしいのだろうか。
なんにしても、早く治してあげないと。
「待っててねパトリック。すぐに戻ってくるから!」
水飲み皿にたっぷりと水をつぎ足して、あたしは部屋を飛び出した。
◇ ◇ ◇




