表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

1.あたしはもう要らないらしい。

◇ ◇ ◇


「……は?」

「あらあら、耳が遠いのかしら。まあもう(よわい)十八ですものね。後は衰えていくだけかしら」


 あたしと一歳しか違わないくせに、どの口がそれを言うか。

 思うも、そんな不満を口に出している場合ではない。あたしは周りを見回した。


 天使たちの加護を求めて祈る、神聖な()(とう)の間。

 その中心にいるあたしをずらっと取り巻いているのは神官たちだ。ただしその取り巻きは好意的な群がりではなく、ごみ虫を追い詰めようと包囲する者たちのそれだった。


 そしてその取り巻きを率いるようにしてあたしの前に立っているのが、()()()()()()シビリアーナ様だ。

 彼女は優越感の絶頂にあるような笑みを浮かべ、つんと顎を上げた。ご自慢の金髪が(つや)やかにゆれる。


「ではネフェリアさん。あなたのためにもう一度言いますからね。よく聞いてくださいな」

「はあ」


 あたしは困惑しながら、今度は足元に目を落とした。

 ふわふわの白い獣毛――どこぞの金髪より、こっちの毛の方が絶対最高にして至高だね!――をもつ大型犬が、すりすりとあたしのすねに身を寄せている。この場において唯一のあたしの味方、最強にかわいい愛犬のパトリック。


「この世界を統べる神。神に仕える()使(つか)い。()使(つか)いに見いだされし()()。三層の加護を経て、ヒトは安寧を得てきました」


 ほっそりとした指を見せびらかすように言ってるとこ悪いけど、知ってるから。

 常識だから。そんで光の()使(つか)いである天使の加護を受ける(しろ)()()と、闇の()使(つか)いである堕天使の加護を受ける(くろ)()()。両者の神通力を合わせて、このエスメラルダ(しん)(こく)は発展してきたんだよね。

 うん、知ってる知ってる。だから早いとこ本題に入ってくれないかな。


「ですがわたくしはその徳の高さ故に、歴代でも(まれ)にみる、強力な神通力を身につけました。そうなれば神に仕えるとはいえ、闇に携わる者に連なる薄汚い(くろ)()()など不要……あ、気を悪くしないでくださいな。別にあなたが(けが)れてると言ってるわけじゃないんですのよ」


 言ってんじゃん。

 それに。

 それにそれにそれに。

 あたしはもう少しで口を突いて出そうになった言葉をのみ込み、心の中でそれを爆発させた。


 (くろ)()()は……(くろ)()()はあんたの方じゃんっ!!!!


 選別の儀で()()であることが分かった時、「堕天使の加護を受けるなんて、性格悪いと()()されそうで嫌なの!」ってぴーぴーぴーぴー泣くもんだから、あたしが(くろ)()()ってことにしてあげたんじゃないのよ。役割はふたりで担うから、表面上入れ替えてもバレないだろうってことで。


 それを……言うに事欠いてあたしが薄汚いとな⁉

 てか神通力が増大したってことは、要は堕天使に――聖なる悪魔と名高い堕天使様に気に入られたってことでしょ? その性格の悪さ故に。

 (たぐ)(まれ)な神通力って、あんたどんだけ邪悪なのさ! 歴代の(くろ)()()もびっくりだよ! もういっそ魔王とか目指してみたらいーんじゃないかな!


 やけくそに持ち上げていると、目の前のシビリアーナが舞踏会での挨拶のように、優雅な辞儀をひとつした。


「そういう訳でネフェリアさん。あなたはもう不要です。()()ではなくただの愚民です。この毛玉と一緒に出てってくださいまし」

「パトリックをそんなふうに言わないで!」

「あらごめんなさい。毛皮だったかしら」


 ほほほと、口に手を当てるシビリアーナ。

 こっの……いつもいっつもパトリックを馬鹿にして……!


「ほらほら、さっさと荷造りに入ってくださいまし。どうせしょぼくれた持ち物しかないでしょうから、準備なんてすぐ済むでしょう?」


 あたしは窮して、改めて神官たちを見回した。


「み、みんなもシビリアーナと同じ考え?」

「……(しろ)()()様がそうおっしゃるのなら、我々は従うのみです」


 多少後ろめたそうに言う神官に、


「もとより(くろ)()()などは、仕方なく据えていたもの。必要なければ据える道理もなし」


 と、これは反(くろ)()()の派閥か。この時を待っていたとばかりに、目を陰湿な(よろこ)びに光らせている。


「……分かりました。(くろ)()()の座を降ります」


 あたしは観念した。よっぽど「今あんたらが担ぎ上げているのが(くろ)()()だよ」と言ってやりたかったが、やめた。決して優しさではない。一度代わると決めた以上、自分なりに筋を通したいという意地だった。


 それによくよく考えれば()()なんて、半ば強制されて務めていたようなものだ。そこまで固執するものでもない。


「でも当然――辞めるにあたって、なにがしかの保障はありますよね? ()()だのなんだの言われていきなり田舎から引っ張って来られて、散々こき使われてお払い箱なんて、(しゃ)()にもなりませんよ?」


 淡々と述べると、神官たちが沸き上がった。


「な……神聖なる役割に、今更見返りを要求すると言うのか!」

「さすがは(くろ)()()といったところだな! なんたる腹黒さ!」

「今まで衣食住を保障されてきただけでも(ぎょう)(こう)だというのに、これ以上なにを望むのか!」


 労働者の権利だよボケ。

 てか、純度百パーセントの漆黒の腹なら、あんたらのすぐそばにあるじゃないですか。気づけよ。


「まあまあ皆さん。ネフェリアさんのおっしゃることにも一理ありますわ。それに白き()()としては、()()()()()()をいたしませんとね」


 言ってシビリアーナ様は、慈愛に満ちた(ほほ)()みを浮かべた。


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ