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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

処刑の身代わりなんて冗談じゃない、逃げよう。幽霊の力を借りて。

「処刑は三日後だ、それまで大人しくしていろ!」


「処刑!? 私が何をしたっていうんですか!」

  

 牢屋の鉄格子を掴んで叫んでみたけど、答えは返ってこなかった。

 人を牢屋に入れるなら、最低限の説明ってものがあるよね!? 処刑されるような悪事なんて働いて無……え、もしかしてあの事バレた? バレちゃってる?  牢屋の壁一面にびっしりと描かれた魔法陣って、それ対策? 全く何も感じないけど。

 いやいや、でも処刑は三日後、今は夕暮れだから十分間に合う。よし、逃げよう。


 そんなことを考えていたら、突然隣の壁から声が聞こえてきた。


「貴女はわたくしの代わりに処刑されるのですよ」


「処刑の身代わり、でございますか?」


 大声でもないのに思わず背筋を正してしまう凛とした女性の声、これ間違いなくお貴族様だよ! それも高位の!


「えぇ、処刑の身代わりですわ。

 簡潔に纏めますと、『色ボケ王子との婚約を破棄せざるを得ないような悪女を野放しに出来ないので処刑するしかないが、能力的に優秀なので惜しい。代わりを立てて処刑したことにしよう。』というこの世の愚かさを凝縮した愚案のお手本を素でいく迂愚(うぐ)愚昧(ぐまい)な暗愚王族でなければ到底思いつかない大愚の集大成ですの」 


 わぁ、ご令嬢様のお怒りが凄い。『愚か』ってこんなにも言い換えることができるんだねー。

 王家への不敬罪とか、王子様と婚約できるような身分の高いご令嬢様がこの粗末な牢屋の隣にいるとか、悪女と呼ばれて婚約破棄されたって何したのご令嬢様とか、親なら真っ先に色ボケ息子を叱れというツッコミはひとまず置いといて。


 今大事なのは、ただ一つ。

 訳も分からないまま、私が牢屋に入れられているのは全て国王陛下の所為だということのみ!


「とんでもない下愚王でございますね」


「あら、物分りが良いのね、貴女」


「貴様ら、不敬であるぞ!」


 見張りの兵士がうるさいけど無視。先に無視したのそっち。

 片や処刑の身代わりを立てたいほど優秀なご令嬢、片やその貴重な身代わりである私。おいそれと手出しできないよねー。ふふん、この頑丈な鉄格子の前ではただの見張りなんて恐るるに足らず!


「でもね、突然一方的に婚約破棄を言い出したのは愚鈍王子ですの。ですから、至愚親子が正しいわね」


 ……え? 王子様にそんな決定権、無いよね?

 


 



 詳しく話を聞こうとしたら、当然のごとく見張りの兵士が騒いで邪魔しようとしてきたけど、ご令嬢様の「お黙りなさい」というたった一言で押し黙った。

 うんうん、怖いよね。なんせ王子様と婚約できる身分のお方だから、気圧されて当然。

 代わりとばかりに私の方を睨んできたので嘲笑ってあげたら顔が真っ赤かになってたけど、兵士様ったらどうしたのかしらね?


 ……なんて余裕はすぐに吹き飛んで、私の顔が真っ青になった。


 なんと隣の牢屋に入れられているご令嬢様は、あの四大侯爵家にして魔法の名門一家であるハリス家のご息女、クリスティ・ハリス様。

 王子様の婚約者になるぐらいだから高位貴族だとは思っていたけど、思っていたけれども! よりによって建国に尽力した四大侯爵家をないがしろにするって、まさか陛下ば内乱でも起こしたいの? しかも、婚約破棄騒動が起きてからハリス様が牢屋に入れられたのがたった数時前のお昼頃って、処刑の身代わりを探す暇なんて無いよね。いつから計画してたの?

 

 いや、そんなことよりも!

 なんで四大侯爵家のご息女を、こんな粗末な牢屋に入れたの!? 貴人用の牢屋ぐらいあるでしょ!? 下位貴族の私はともかく、ハリス様は駄目って考えるまでも無く分かるよね、たとえ牢屋に入るような罪を犯していたとしても! 

 ……まぁ、壁の魔法陣が、魔法封じだとは分かったけど。魔法の名門一家のご息女を収容するには、必須だよねー。でも、なんで私まで? 魔法は使えないのに。 


「わたくしがこの牢屋に入れられているのは、精神的に追い詰めるためではないかしら? 我が侯爵家の権力を削ぎつつ、わたくしを人質に取りながら自分の手駒にする算段らしいですからね、愚計陛下の。

 ……我が家も随分と侮られたものだわ」


 さっむい! すっごく寒い! 此処が地下牢だからとか、今が春先で日が暮れたから肌寒くなってきたとかの物理的要因以外の理由で絶対に寒い! 具体的には隣からの冷気で!


 ほら見て、牢屋の外! 

 ハリス様の冷気という名の怒りに反応して、いつの間にかいた身体が透けちゃってる人たちが怨み言を吐きながら隣の牢屋に集まりつつあるよ! 

 その事にハリス様も見張りの兵士も気付いた様子が無いし、歩くというより滑るように移動してるし、俗に言う幽霊ってやつだね! 私も知りたくなかったな、幽霊なんて!


 それにしても流石王城の牢獄、上品な服装の幽霊しかいない。怨み言も豊富な語彙で論理的だから聞き飽きないし、何かに役立つかもしれないから覚えておこうっと。特に王族が怨みを買ってるみたいだし。


 さてと。

 幽霊が出た――つまり夜がきたということ。よし、逃げよう。そろそろ二人が起きる筈。 

 いつまでも、ハリス様の冷気に震えて両腕をさすっている場合じゃ無……って、右手首にある腕輪が淡白く光ってる。

 ナイスタイミング! 


 そう思った時だった、遠くの方でする爆発のような轟音が聞こえてきたのは。

 見張りの兵士が急いで何処かへ駆けていったけど、たぶん確認に行ったんだろうね。やけにタイミングが良すぎるけど、混乱している方が逃げやすいから良しとしよう。


<お前、下っ端お嬢サマから囚人にジョブチェンジしたんだなー>


<アナタは全うな人生を送ると思ってたんだけどねぇ。何があったの、お姉さんに話してごらん?>


(幽霊二人は黙って。ジョブチェンジしてないし、私自身は全うに人生歩んでるから、免罪に巻き込まれただけだから)


 腕輪の淡白い光と共に現れた二人の男女――ギルとサーラが、ぷかぷかと暢気に宙に浮いていた。

 人が牢屋に入れられている時にかける言葉じゃないよね、デリカシーって言葉を覚えてほしい、デリカシーって言葉を。十年来の付き合いといえ、親しき仲にも礼儀ありっていうでしょ。 

 ちなみに、私は念話を使って話しているからハリス様に聞かれる心配は無い!


<んで、何してんだ、こんなトコで。趣味?>


(人の話聞いてた!? 冤罪に巻き込まれたって言ったよね、ギル!)


<ハイハイ、アタシは聞いてたからね。それで、冤罪ってなんなのよ?>


(簡潔に言うと、隣の牢屋にいる優秀な侯爵令嬢様を処刑するのは惜しいからって、代わりに処刑されることになった。

 酷すぎるよね、サーラ)


<<うわぁー……>>


 ちょっと、二人して可哀想なものを見る目でみないで。心配するならともかく、なんで(あわ)れみの視線なの!?


「まぁ、凄い音でしたわね。何があったのかしら?」


<隣の牢屋のお嬢サマか!>


<あら、どんな子かしら?>


 好奇心のままに、急いで隣の壁をすり抜けていくギルとサーラ。

 うん、知ってた、この二人がマイペースなことなんて。

 あんなのでも幽霊としては上位の存在なので、ハリス様に惹かれていた王族への怨みを持つ幽霊たちが波のように引いていく。え、そんなにいたの?


 王家の闇深さを目の当たりにしつつ、ハリス様に「見張りの兵士が戻ってきたら、さっきの轟音について教えてくれますかね?」ということを上品言葉で返していたら、マイペース幽霊二人の大笑いが聞こえてきた。嫌な予感しかしない。


<ねぇねぇアン、アナタ本っ当にこのお嬢様の身代わりになるの?>


<プッ、ムリだろ。だってアンだぞ、お子ちゃまアンだぞ>


 誰かこの幽霊たちに、愛称で呼ぶ仲にも気遣いは必須って言葉を叩き込んでくれないかな。

 二人して「見てみて!」とばかりに壁から腕だけ出して私を招いているけど、壁しか見えないから。壁から腕が生えているのは、何回見ても気持ち悪いからやめて。


 ただ、なんで私が侯爵令嬢様の身代わりに選ばれたかは気になる。仮にも父は王家派なのに、なんで身内から処刑の身代わりを出したんだろう? 普通は敵対派閥――今回だとハリス家派の人間を使うと思うんだけど……。


 ……いや、末端過ぎて認知されてない可能性が一番高そう。

 『王都の街を出てすぐに広がっている農村地帯の端っこの方を治める王家派の男爵』。

 わぁ、改めて言葉にすると下っ端度合いがよく分かるね! 魔法の素質がある義妹から、浮気男たる父を切り離すのにもちょうど良いし。

 流石王様、無駄がない。三流貴族って、トカゲの尻尾切りに最適すぎるね。


 でも、あの失礼幽霊たちが手を叩いて笑っているのは、絶対に別の理由――それも外見だろうから確認しておこう。脱獄した後に逃げ切るには、ハリス様に似ないように変装しないと。

 

「あの、ハリス様。どうしてわたくしが身代わりに選ばれたのでしょうか?

 恐れながら、ハリス様とわたくしには何らかの外見的共通点があると愚考いたしますが、わたくしの緑の瞳と茶色の髪はこの国では珍しいものではございません。強いて特徴的なことといえば、年の割りに背が低いことぐらいかと存じます」


<いや、お前より背はあるな>


<アンに比べればねぇ>


(誰の所為で身長が伸びないと思ってるの!?)


「あら、アンジェラ様は慧眼をお持ちですのね」


 今すぐハリス様の爪の垢を頂いて、お世辞って言葉を覚えようねー、幽霊組は!


「十八歳にもなるというのに、わたくしも背がとても低いのです。

 わたくしの瞳は橙、髪は赤色ですが、髪は染めてしまえば誤魔化せますし、国家反逆罪の者に与える光など無いなどと適当な理由を付けて眼球を取り出してしまえば、瞳の色など関係ありませんもの。身長の合う者を優先して探したのでしょうね」


 瞳や髪の色は勿論、見た目を変えるような魔法は無いからねー、魔法は。さらっととんでもない事が聞こえた気がするけど、精神衛生上の為に無視しよ、無視!


「わたくしなど、伸び盛りの十四歳だというのに少しも背が伸びないのです」


 どこぞの失礼マイペース幽霊たちのお陰で! 


「その頃は必死に背を伸ばそうと、様々な食材を取り寄せましたわね……」


<十八歳と十四歳じゃ、そりゃぁ違うよな。

 ……アン、お嬢サマは金とコネを使ってコレなんだ。嫌なら好きなだけ変えてもらえ……無ぇんだったな、諦めろ>


<大丈夫よアン、女は見た目だけじゃないわ、大事なのは愛嬌よ>


(今日一番の失言につき、一番面倒な役割は二人に決定。

 あと黙ってて、侯爵家秘伝の身長伸ばし法をご教授いただくんだから!)


「身長が伸びる食材といえば魚やミルクが定番でございますが、それ以外になりますと、どのような物がございますか? 差し支えなければ、是非お教えいただきたく存じます」


「そう畏まらないで、アンジェラ様。元はといえば、わたくしが原因で巻き込んでしまったのですから。

 そうですわね、わたくしが調べたところによりますと……」 






 文句を垂れる失礼幽霊たちに脱獄の準備を任せ、ハリス様と身長トークで盛り上がっていたら、また轟音が聞こえてきた。それも、前より音が大きく、地下牢がほんの少しだけ揺れたということは、割と近くで何かが起きたということだよね、この王城の地下牢の。

 

 最初の轟音を確認に行った見張りの兵士が未だに戻って来ないことといい、王城勤めの兵士として恥ずかしくないの? 警備の観点からも、騒音のない環境ぐらい維持してほしい。今、背が伸びる体操を教えていただいているんだから静かにして、本当に。


 そんなささやかな願いも虚しく、近くで争い合う音が聞こえてきた。

 ちょっと、まだ体操が終わってないから後にしてくれない!? 女の子は、今が最後の成長期なの! もしも、このまま背が伸びなかったらどう責任を取ってくれるの! だんだん騒音が大きくなって、ハリス様のお声が聞こえないじゃない!


 四大侯爵家のご令嬢様との会話を遮るなんて不敬にも程があると思っていたら、突然勢いよく扉が開く音がした。


「クリスティ様、いらっしゃいますか!? いらっしゃたら返事をしてください!」


「そのように大声を出さなくても聞こえているわ」


「今、お助け致します!」


 大事な大事な身長を伸ばす体操を邪魔した不届き者の男女――魔法使いと剣士が真っ直ぐにハリス様の牢屋へ駆けつける。美人しか似合わないベリーショートヘアの剣士のお姉さんが、剣を一振り、二振りすると、あら不思議。牢屋の鉄格子が切断されて、音を立てて地面に落ちたではありませんか。


 ……人間って、金属を剣で切れる生き物だっけ? 非常識幽霊ならともかく。


「切るのが遅い上に切れ味も悪すぎる、三点だな」


「国王!?」


 え、気付いてなかったの? 堂々と入ってきてたけど。王家に怨みを持つ幽霊たちが、<王が来た>って殺気立って出口の方になだれ込んでいたのに。

 楽しい身長トークを邪魔したことといい、よくそれでハリス様にお仕え出来ているね。


 あとそれ、王様じゃないから――中身が。


「よく見ていろ」 


 王様(中身は違う)は、連れてきた騎士や兵士は勿論、ハリス様を救出しに来た護衛たちの警戒を丸っと無視し、堂々とした歩みで私の牢屋の前に来て立ち止まる。

 さっきまで持っていなかった筈の剣を握って。


「これが手本だ」

 

 そう言った瞬間、カランと小気味良い音を立てて鉄格子が落ちた。


 うん、非常識代表幽霊は黙ってて、ギル。

 王様の身体で人間離れした事したけど、その腕大丈夫?ということは良いとして。


 そのすまし顔、すっごく腹が立つから今すぐやめて。

 確かに、私には剣を振るった瞬間も見えなかったし、ハリス様の護衛だけでなく騎士や兵士たちも驚いているけども。自分の剣が気付かない内に無くなっていたことに驚いている騎士もいるけども。


 なんで、もっと高い位置から切り込まなかったの!? ひっくい! 低すぎる! 私の身長スレスレの高さに合わせて鉄格子を切り落とす必要無いよね!? 暗に身長が低いことを馬鹿にしてる? よし、その喧嘩買うから。今日のご飯抜きにするから!

 ……そういえば、今って晩ご飯の時間だったね。お腹減ってきたし、さっさと帰ろう。


 ようやく牢屋から出られると、魔法使いと剣士に守られているお嬢様と目が合い、同時に見開いた。 


「貴女がわたくしの身代わり!?」


「なんで私を身代わりに!?」


 ギルとサーラが言ってた通り、確かにハリス様の方が少しだけ背が高い。それは良い、ヒールで十分誤魔化せる範囲だから。ただ、明らかに私をハリス様の身代わりにするには無理な所があるでしょ!?


「ぺったんこだもんな、お前」

 

 本っ当に黙っててくれない、失礼幽霊! ギル、王様に憑依中なのに素の口調で喋ったことは許すから、渾身の回し蹴りを軽々と避けるな! 大人しく鳩尾に三発入れさせなさい! だいたい、身長も胸も無いのは、無遠慮幽霊たちに栄養を摂られてるのが原因って分かってる!?


 一向に攻撃が当たらないので、切り落とされた鉄格子を剣代わりにしようと手を伸ばした時だった。


「アンジェラ様、下がって!」


 鋭い声がした方を見ると、ハリス様が杖を構えて通路いっぱいの炎を放とうとしている。

 女の敵を焼いちゃってください、ハリス様!


 慌てて牢屋の中に逃げ込んだと同時に王様の目前まで炎の塊と熱が迫り、――消えた。

  

(なんで今戻ってきたの、エド!)


 ギルを助ける為……ではなく、通行の邪魔だからという理由で火の魔法を吸収したもう一人の非常識幽霊エドが、ハリス様をまじまじと見てから私を向いて頷く。


<サーラからの伝言だ。

 『悲しいぐらいまな板だものねぇ。どれだけ詰めれば良いのかしら?』>


(黙って! 今すぐ黙って! 無理なら今すぐ口を縫い付けてあげるから!

 だいたい、報告するなら頼んでいたお使いが先でしょ!?)


<…………>


(報告の為なら口を開いて良いというか、なんでそういうところだけは忠実に守ってくれるかな!? 

 忠実にするなら、まずその表情を止めて、その(あわ)れむ顔を!)


<…………>


(心底馬鹿にした顔に変えるな!) 


 エドは無口なのに、表情だけは生き生きとしてるよね、表情だけは!

 

 私がエドに猛抗議している間、牢屋の外では、ハリス様と護衛二人の攻撃を王様(中身はギル)が軽々と剣で切り裂いたり、かわしたりしていた。

 ……魔法って剣で切れるものだっけ? 王様が連れてきた騎士や兵士は手も足も出せずにいるけど、本当に王城勤めとして恥ずかしくないの?


 それにしても、ハリス様たちの攻撃はすごい。

 突然処刑したことにして駒にするだの言われて粗末な牢屋に入れた張本人がのこのこやって来たら、怒り心頭ですよねー。 中身はギルだから、真意を問いただしても心底分からない顔をされるだけ。爆発しちゃいますよねー、文字通り、物理的に火の魔法で。

 流石魔法の名門一家のご令嬢様、桁違いの威力であっつい! すっごく熱い! 王様に取り憑いて牢屋から出してってギルに頼んだのは私だけども!


 でもね、でもですよ? 

 穏便に事を運ぶには、これしかなかったんだから仕方ない。単に脱獄するだけなら、とっても簡単。

 威圧する。

 たったこれだけでいい。


 ほら、幽霊がいそうな所で寒気を感じたり、嫌な気配がしたりすることってあるでしょ。これって要は、防衛本能なんだよね、自分では絶対に敵わないモノが近くにいるぞっていう。

 上位幽霊のギルやサーラたちでも、膨大な霊力を持つ私でも、普通の人間相手に圧力を掛けて無力化するなんて朝飯前。


 問題は、ただ一つ。 

 脱獄の責任を取らされて、見張りの兵士の首が飛ぶんじゃうんだよね、物理的に。理不尽極まりない怪奇現象じみた事で死にたくないよね。冤罪を掛けられた身として、同じ轍を踏ませたくないし。


 最も穏便に脱獄するには、この王城の地下牢の最高責任者――王様自ら私たちを釈放すれば良い。途中にいる見張りの兵士や騎士たちは、どんなに可笑しくても王様が相手じゃ意見すらまともに出来ない。憑依されている間の記憶は無いから意識を取り戻した時に意味不明だろうけど、自分で釈放しちゃってたら何も言えないよねー。

 そもそも、処刑の身代わりを許した王様が悪い。責任者って大変だね。脱獄した後のことを考えても、王様のほうが都合が良かったし。


 ……まぁ、ハリス様が怒ることまで考慮してなかったは事実だけど。だってね、仕方ないよね? 身長トークに夢中だったんだから! 自業自得なのはよく分かってるけど、火の魔法で熱い。本っ当に熱いから、闘いをやめさせよう。


「お腹空いたなー」


 ぼそっと呟けば、反応したのが二人。


「ここまでだ」


 王様の言葉と同時に全ての魔法がエドに吸収されて消え、戦闘が止まった。当然ハリス様たちは納得いかない筈なのに、攻撃どころかその場から一歩も動かず抗議の声もあげない。

 厳密には、『出来ない』が正しいんだろうね、ギルに気圧されて。あれでも生前は裏社会のボスをやってたらしいし、睨まれたら怖いよねー。何千年前か知らないけど。

 みなさん真っ青な顔で震えてるけど、単にご飯の為にやる気出しただけだから、落ち着こう?


 私の霊力は、失礼マイペース非常識幽霊たちにとって最高級の食事らしい。他の人がどうかは知らないけど、私の場合、霊力を取られるとお腹が空く。それはもう、毎食五人前はペロリと。なのに、全く太らない、背が伸びない、胸は悲しいまま。


 これ絶対、霊力に栄養摂られているよね!? 膨大な霊力とか本っ当に要らないから、私の身長と胸を返せ! 


 そんな訳で、普段全く人の話を聞かないマイペース幽霊たちは、自分たちの美味しい食事――私の霊力を確保する為なら一致団結して勤しむ。人をご飯扱いするな!   


 ギルとエドが無駄に連携して闘いを止めたのはご飯のためだから、そんなに怯えないで、しんと静まり返らないで! 私が牢屋から出る為の足音だけが、いやに響くでしょ!? やめて、こっち見ないで、末端男爵令嬢は注目され慣れてないから!

 エド、便乗して王様の横でほくそ笑むのやめよっか! そんなに暇なら、次の頼み事あるからそっちに行きなさい!


「国王陛下、ハリス様とわたくしが無罪であることは証明されたと解釈してもよろしいのでしょうか?」


「あぁ。クリスティ・ハリスとアンジェラ・リベラには何の罪も無いことを、国王たる私が保証しよう」


 王様の証言ゲット!

 これで、後からとやかく言われる事は無いね!


「お待ちください陛下、その者達は罪人です!」


 ……世の中ってそう上手くいきませんよねー。さっきまで仕事を放棄してたのに、なんで今になって働き出しの、騎士様。


「恐れ多くも陛下に狼藉を働いた不届き者でございます。温情を与えることなど……」


「黙れ」


 王様――もといいギルの低い一声で封殺。

 うん、世の中って本当に上手くいかないね、騎士様。真面目に働いてるのに報われないことなんて多々あるって、どんまい!


 ハリス様たちは悔しそうにしてるけど、今は従ってくれるみたい。袋小路で騒いでも敵はどんどん出てくるだけだし、何より中身がギルである以上人間に勝てる訳がない。


 何処からも苦情が出ないから、ようやく王様先導の下で帰れる!

 ……その前に。

 

 王様に怨みがあるけど中身のギルに怯えてる、この王城の地下牢に縛られている幽霊たち。

 王家の暗部という有益な情報を貰った以上、ちゃんとお礼をしないと。

 

 他の人たちに気付かれないように、紙一枚分だけ口を開けて口笛を吹く。

 霊力を込めて普通の人には聞こえないようにした特別仕様だけど、歌はこの国の人間なら誰でも知ってる子守唄。 安らかな眠りに就いてもらうには、やっぱり子守唄が一番。怨みに取り憑かれた状態でも大切な人たちを思い出させ、心穏やかにさせるからね。


 ある程度聴かせて思い出に浸らせたら、あとは優しく語りかけるだけ。

 口笛を吹き続けながら出来ない事はないけど、強い怨みから短時間で全員を解放するのは私には無理。サーラが居れば私の出番無く歌声一つで済むけど、お使いを頼んだから居ない。

 だから、そっちは任せた、――ライラ。


(貴方には、大切な人たちがいるのでしょう?)


 穏やかな春の日の木漏れ日を思わせる優しい女性の声が地下牢の幽霊たちに語りかければ、一斉にこっちを見た気配が後ろからする。


(大切な人たちが天国で貴方を心配し、待っていますよ)


 母親が赤ちゃんを慈しむような声に抱かれ、感極まった幽霊たちが咽び泣き出した。  

 数が多くて耳を塞ぎたい。


(此処は貴方の居場所ではありません。

 さぁ、お行きなさい。貴方を待つ大切な人たちの元へ)


 まるで女神に導かれたかのように、一人、また一人と、怨みから解放されてあの世へ旅立っていくのが背後からでも分かる。

 ギルたちも、この程度で昇天してくれたら可愛げ気があるのに。


 さて、憂いも無くなったことだし、晩ご飯だ! 






「アンジェラ様、この後どうするか決めていますか?」


「ご飯にします」


「…………」


 右斜め向かいに座ったハリス様に即答すれば、なぜか困った顔を返された。

 え、お腹空くよね? 日没から結構時間経ってるし。

 中は快適な荷馬車で城下町まで送っていただける事に感激してるんで、そんな顔をしないでください。城門に着いたと同時にハリス家の荷馬車が来たこととか、獄中で聞いた轟音の関係とか、野暮なことは訊きませんので。折角の美貌が台無しですよ、ハリス様。

 

「それでも貴族令嬢か?」


 右隣に座っている護衛の魔法使いのお兄さんに呆れられたけど、令嬢以前に生き物として空腹は死活問題だよね。


「口を慎みなさい。うちの愚臣がごめんなさいね。

 アンジェラ様、よろしければ我がハリス家にいらっしゃらない? もちろんご家族もご一緒に。

 国王は不問にするなどと戯言を抜かしていましたが、こちらはそれを了承した覚えなどありませんもの。無関係だというのに処刑の身代わりをさせられそうになったのです、その程度の端金で許す必要などありませんわ」


 お金がぎっしり詰まった巾着袋二つは端金って言わないと思います、侯爵家って怖い。絶対零度の笑顔なハリス様と護衛二人により、車内が寒い!

 言えない、このお金を王様(中身はギル)に用意させたのは私の都合だなんて、絶対に言えない。


「過分なお心遣い、恐悦至極に存じます。

 ご厚意に甘えさせていただき、異母姉妹一家――ライト家以外の親族を保護していただければ幸いです。義妹は魔法学園に通っておりますので、既に王家の保護下に置かれているかと存じます。

 失礼であることは百も承知ですが、何分手持ちがありませんので、心ばかりではございますが、これをお納めください」


「そのような物は要りません」


 お金が詰まった巾着袋を一つを差し出せば、見事に怒られた。

 元はといえば、私の分だけだと可笑しいからハリス様にも用意した物なんだけど、受け取る訳ないですよねー。端金で王様の所業を許すわけが無い。

 でも、こっちにも譲れない理由はある。


「では、この馬車に置いていくことをお許しいただけないでしょうか?

 旅をするなら、身軽に越したことはございません」


「え? 旅をするならとは、どういう……」


「恥ずかしながら、ハリス様の賢臣が仰ったように、わたくしには貴族令嬢としての自覚が足りておりません。

 今後も我が男爵家の存続が許されるのであれば、魔法の才を持つ義妹が継いだ方がリベラ家の発展に繋がるでしょう。

 幸い纏まった旅行資金も手に入ったことです、この機会を逃すわけにはまいりません」

  

 その為だけに冤罪の慰謝料としてギルに手配して貰ったからね! 王様のポケットマネーから。管理者とか責任者って本当大変だね。

 

「お待ちになって!

 失礼なことをお訊きしますが、アンジェラ様は喪に服しているのでは?」


「はい、お母様の葬儀が終わり、一段落着いたところでございます」


「なんという時に……!」

 

 真っ黒なワンピースを着てれば、分かっちゃいますよねー。

 この中で私だけ場違い感がすごい。

 片や男爵家が身に付けられる質素な物、片や侯爵家に相応しい幾つもの魔石を使った装飾品や衣服。侯爵家がいかにハリス様を大切にされてるのか良く分かる。

 あの魔石――もといい魔道具は、魔法で攻撃を自動的に防いだりする代物だろうし。

 

 当然囚人が持つことは許されないので、装飾品は勿論、服の裏とか見えない所に隠し持っていることもあるから没収の上で着替えさせられる。

 実際、ハリス様の立派なマントの下は、平民でも着ないような薄汚れたワンピースが見え隠れするし。『粗末な牢屋に入れて精神的ダメージを与え、国王の手駒にする算段』とやらが関係してるんだろうね。


 私は、着替えを全力で拒否したから大丈夫。

 そもそも、末端男爵家の財力で当主でもない小娘が高価な魔道具は持ていないことを懇切丁寧に眼力込めて説明したら、私を連行した兵士様方は真っ青になりながらきちんと理解してくれた。

 ギルやサーラたちが出てきた腕輪も問題無し、相当霊感の強い人でないと見られないから。仮に見ることが出来ても外せない、私ですら。なんで呪いの腕輪を作ったの、ライラ。人の霊力を使っておきながら。

 

「自暴自棄になってはいけません!

 安心してください、我がハリス家が必ずリベラ家を保護致しましょう」


 ハリス様が、そっと優しく包み込むように私の両手を握ってくれた。

 是非、爪の垢を分けて優しさという概念を叩き込んでやってください、失礼幽霊たちに! 

 たとえその真意が、冤罪の被害者を保護することで大義名分を得ることだろうと。


「そのように過分なお言葉を頂戴し、身に余る光栄です。ですがご安心くださいませ、わたくしは悲観も諦観もしておりません。幼少の頃より、諸国を巡りたいと考えておりました。ハリス様がお気になさることはございません。ただ、わたくしは夢を叶えたいだけなのです」


 あんな失礼幽霊四人がいながら貴族令嬢らしく結婚とか、無理無理無理!

 お母様がいらっしゃったから今まで家に居たようなもので、今回の出来事はそうそう悪くないんだよね、余計な仕事を増やしてくれたこと以外は。 


「しかし、ハリス様のようなお優しい方には誤解を与えてしまうかもしれません。わたくしが姿を消したのは、今回の冤罪により家族まで巻き込んでしまったことに責任を感じた為だと」


 城下町まで送ってもらったお礼に、私の便乗家出旅行は好きに解釈してくださいねー。

 お父様の安全確保を頼んでいたエドが言うには、我が男爵領の乗っ取りも計画されてたらしいし、大義名分の獲得に死角は無し。勿論、お父様たちを助けてもらうお礼は後でするので、そろそろ降りますね。 


 快適荷馬車をひく馬だけにピンポイントで威圧すれば、はいこの通り、見事に停車。

 ハリス様たちが急に停まったことに驚いてるけど、大丈夫、私が降りたらすぐに動かしますので。


「まぁ、もう城下町に着いたのですね。

 ハリス様、此処まで送ってくださったことに心より感謝致します。何かとご迷惑をお掛けするとは思いますが、何卒お父様たちのことをよろしくお願いいたします」


 お礼は笑顔で、降車は速やかに、見送りは感謝を込めて最敬礼。

 ハリス様が慌てて引き戻そうとするけど、危ないですよー、馬への威圧の込め方を変えて急発車させるので。

 馬車が見えなくなるまでお辞儀をしてたから分からないけど、怪我してないよね、ハリス様。王様のサイン入り通行書を持ってるし、無事に門を抜けて王都を脱出できるはず。

 『実はハリス家が悪で、一芝居売って捕まえる作戦だった』なんて事では無いってギルが調べてくれたし、大丈夫でしょ。


 それにしても、王都の城下町の大通りなだけあって人も幽霊もすごい数。

 晩御飯の時間帯だけあって、美味しそうな匂いで充満している。屋台で焼かれているお肉から脂が落ちた音が食欲を誘うけど、もう少しだけ我慢。

 『荷馬車から突然出てきて、豪華なマントを羽織った女性に呼び止められていた喪服姿の少女。しかも、ぎっしり詰まった巾着袋を持って』。

 これ以上の面倒事に付き合う暇は無いね!


 こういう時は、角を曲がって路地裏に入れば、あら不思議。確かに角を曲がったはずの喪服少女が忽然と姿を消して、大通りからつけてた人たちも二度見間違い無し。

 姿を見えなくするなんて、ライラにかかればお手の物。同程度の力があれれば、見破れるだろうけど。目安としては、ギル・エド・サーラの規格外幽霊三人を、同時に軽く捻り潰せるぐらい。


 ……威圧されてショック死しなかった時点で人間辞めてるね! ギルの威圧で、騎士も兵士も身動きどころか、声も出せなかったぐらいだし。王様の連れてきた護衛たちが、たった三割程度の威圧で。

 

 お互いが同程度の力を持つ三人が私の言うことを聞いてくれるのは、ライラが私に取り憑いてるからだし。

 うん、実は私に取り憑いてるんだよね、ライラが、常に。物心付く前の幼児に何の契約させたの。


 最初は、この規格外幽霊たちを危惧して処刑されるのかと思ったけど、見当違いて良かった。

 関係者全員の記憶を消すとか面倒過ぎる。

 大通りからつけてた人たちの『荷馬車から降りた訳ありそうな喪服少女が角を曲がったら消えた』という記憶と、その人達を見ていた人たちの記憶を消すだけで済んで良かった。人が突然消えたなんて、お酒の肴にされて話が広まると絶対面倒事になる。

 ハリス家にとって、私は大義名分に欠かせない冤罪被害者。それも、逃げられたとなれば、ねぇ?

 持つべきものは、頼りになるライラだね!


(アン、新しい姿ができましたよ)


 ライラの言葉と同時に現れた姿見の中には、どこにでもいるような灰色の髪と青色の瞳を持つ、平民にしては小奇麗な服装の少年が手ぶらでいた。

 私と同じ背丈の。


(……なんで身長は変えられないの?)


(胸も変えれませんよ。

 一体どうしてでしょう? わたしが知りたいです)

 

 いつまでも姿を隠したままではいられないので、硬貨を二つポケットに入れて残りはライラに巾着袋ごと腕輪の中へ収納し、姿は少年に変えてもらった訳だけど。

 本来、ライラにかかれば容姿・服装・装飾品なんて変え放題。髪・瞳・肌の色は勿論、顔つきや骨格、性別、更には声まで好きに変えられる。私の霊力を使って。

 なのに、なんで私の身長と胸囲だけは変えれないの!?

 ……ライラに無理と言わせる私の身体って何だろう? 出来ないことの方が少ないのに。

 

 路地裏を出て、やっとご飯!……の前に、宿を取ってお金を崩さないと。王様のポケットマネーだけあって、額が大き過ぎる。


(今回の事、無かったことにしなくて良かったのですか?)


 『処刑の身代わり』。

 このこと自体を無かったことに――関係者全員から記憶と物証を消して捏造すれば、色々な問題は確かになくなる。

 お父様たち親族を任せたハリス家が、王家――国に勝てると決まったわけじゃない。義姉が冤罪といえど巻き込まれたとなれば、色々と邪推も飛び交い、魔法一家でも無いのに優秀な義妹を妬む輩たちにとって格好の的になる。  

 何より内乱の可能性が十分にある以上、ハリス家に保護されたお父様と、王家の保護下に置かれたと思われる義妹が対決することもあり得る。

 

 元々家出する予定だったし、無かったことにした方が多くの人にとって平和だと思う。

 あ、ハリス様を処刑しようとした事実は残したままだから、内乱は起きるかも。そこまで『無かったことにする』のは面倒過ぎるというか、義理は無いんで。


 だからこそ。


(ハリス家は必ず、ライト家を徹底的に調べ上げるでしょ?)


 大義名分の為にも、絶対に躍起になって私を捜索する。

 王都で姿を消したとなれば、真っ先に目を付けるのは、義妹の母親の実家――ライト家。王都に店を構えているから、秘密裏に私を匿える。

 そう、秘密裏に匿えることを念頭に、徹底して調べ上げるはず。色々と使えそうな不正も含めて。

 

(まぁまぁ、大変ですね。侯爵家が相手となれば、あの事は明るみになってしまうでしょう)


(義妹は優秀な魔法使いだから、魔法の名門ハリス家が必ず保護してくれる)


(危険なことに変わりありませんよ)


 ライラの言う通り、ハリス家と王家の対立が無くなる訳じゃない。

 

(ライト家の秘密が暴露されれば、いくら侯爵家が庇っても義妹の立場は無いからね。落ち着くまで一緒にグルメ旅行しても良いし)


 お父様は生まれたときから貴族として生きてきたから、平民になる事に耐えられるかどうか……。

 勿論、必要だと判断すれば、強制的にでも国外逃亡させるけど。お父様が望むなら、両祖父母を始めとした親族も含めて。


 領民たちは突然領主が居なくなって困るだろうけど、大丈夫でしょ。

 領地を乗っ取るつもりらしいから、領民(税収)に手出しするような馬鹿はしない……いや、世の中にはお祖父様という実例があったね!

 もし後任が酷かったら、ポルターガイストでも起こして穏便に交代してもらおう。美味しい農作物を作ってくれた領民たちが無下に扱われて黙ってるほど、恩知らずではないんで。

 

 そうこうしている内に、平民にしては少し良い宿屋に到着。

 元男爵令嬢なんで、多少グレードが高くないと無理。地元幽霊たちの評価を基に選んだから、間違い無いね! まだ空きがありますよーに。


(エドにライト家を保護させる必要は、ありましたか?)


(私の所為で巻き込むのは、借りをつくるみたいで絶っ対に嫌! 冤罪の首謀者によるリベラ家への企みは、全てフォローする。でも、そこから派生した問題までは、流石に無理。

 私はちゃんと『夢を叶える為の旅行』って丁寧に説明したんだから、それを侯爵家がどんな都合の下でどう解釈するかは、私の管轄外)


 まぁ、優秀な魔法使いの保護者として既に王家が手厚く保護してるだろうけど。

 エドには私の釈放が確定した時、両親の祖父母とその親族の安全確保、その後に学園にいる義妹とライト家の事もお願いした。

 

 ちなみに、サーラにはエドと交代でお父様の安全確保を。

 ギルには引き続き王様に憑依してもらって、冤罪の首謀者を割り出してもらっている。

 ハリス様は王様が企てたと言ってたけど、権力者の言葉を丸呑みするほど馬鹿じゃないんで。

 無実で善良な令嬢の命を自分たちの都合で奪おうとした上、家族まで巻き込んでくれたからね、お礼はきっちりしないと!


(本当に、貴方たち母娘(おやこ)はお人好しですね。

 ライト家を戯れ程度で許しましたし、今回の首謀者に至っては無罪放免も同然。貴族らしく、もう少しお灸を据えるべきでは?)


 いや、ライト家へのアレは十分生き地獄だから。生温いけど。割り切り力と隠蔽力が高ければ、確かに大したこと無いだろうけど、あの人たちには効いてるし。

 ライラって本当、言葉遣いだけは丁寧だよね、言葉遣いだけは。


(ただでさえ関わり合いたくないのに、追い詰め過ぎたら何を仕出かすか分からないから、ライト家へはアレが適切。

 今回の事だって、仮にも処刑を命令出来る身分の人だかね、やりすぎたら駄目。突然上が失態を晒して困るのは、その下にいる無関係な人たち。それをフォローしないなら、やってる事は首謀者と大して変わらないでしょ。

 それにね、ライラ。貴族は面子が命。弱みを握られただけで効果は抜群、権力が強いほどね)


(見たことも無い者など、気遣う必要はないでしょうに)


(巡り巡って、リベラ家に悪影響を与えることもあるの。

 何より、お母さまの娘だって胸を張って言えない事はしない) 


(それなら仕方ありませんね)


 ライラを説得しつつ、なんとかチェックインを済ませた。

 十四歳を十歳に間違えるって、失礼にも程がある! ハリス様に教えていただいた背を伸ばす体操と食材で、次に来る時には子供なんて言わせない!


でも本当、ライラたちの事が漏れてなくて良かった。

 人知れずに情報集出来たり、生き物に憑依出来るのは当たり前。やたら接近戦の強い幽霊とか、魔法を吸収出来る幽霊とか、歌だけで王都中の全ての生き物を永遠に眠らせたり出来る幽霊とか、そんな幽霊たちを纏め上げられる上に変装が得意とか、バレた瞬間に処刑確定間違い無しだね!

 ……良かった、本当にバレてなくて良かった。 


 よし、今日は念願の諸国巡り出発記念日だからね、資金もたっぷりあるし色々と食べ比べてご馳走にしよう!











「お待たせしました、大食いチャレンジメニューです」


 目の前に置かれたのは、野菜炒め定食、白身魚のフライ定食、お肉の串焼き定食。それぞれ、スープ、サラダ、小さなパンが一つ付いている。パンがもう少しだけ大きければ、どれも一般的な定食の量だね。


「改めて、ルールを確認しますね。

 制限時間は一時間、咀嚼は一口に付き二十回。最初の定食は必ず、スープ、サラダ、メイン、パンの順番で食べてください。後は好きなようにどうぞ。

 それでは、始めます!」


 店員のお姉さんが砂時計をひっくり返したのと同時に、フォークを手に取り、野菜炒め定食にあるスープの具を先に片付ける。

 ちゃんと咀嚼回数守るんで、そんなに見つめないで。……医療大国の大食いメニューって、ルール厳しすぎない?


 処刑の身代わりにされかけてから一年。

 二つ隣にある治安の良い医療大国にやっと着いて、お昼に此処を選んだ訳だけど。

 貴族令嬢から解放されて念願の大食いメニューに色々と挑戦してきたけど、ここまで健康的なメニューとルールは初めてだね! 流石医療大国、なんで大食いメニューをしようと思ったの?


 ささっとスープを片付けて、サラダに手を付ける。一口の咀嚼回数が決められているから、一度により多く口に運ばないと! あ、このドレッシング美味しい。お母様が好まれそう。


 結局、義妹の母親の実家は潰されなかったんだよね。内乱を回避した以上、ハリス家にとってメリットにならないから仕方ない。魔法使いは卒業するまで学園を出られないから、義妹が追い詰められるだけだし。

 まぁ、卒業してしまえば、立場を失くした優秀な魔法使いを保護できるっていうメリットがあるけど。四年後に里帰りして、もし義妹を酷く扱うなら助け出さないと。


 お父様といえば、元の領地でこれまで通り働いている。騒動の直後、爵位を剥奪された上に領地も没収されたけど、ハリス家にお願いされたら仕方ない。

 なんせ、ハリス様と王子様が結婚したからね! 婚約破棄された王子様か、別の王子様かは知らない。興味ないし。一度は対立したのに、どうしてこうなったかも知らない。高貴な方々の考える事なんて、元末端貴族令嬢に理解出来るわけがない。


 心当たりがあるとすれば、お父様に伝えた王家の暗部情報ぐらいで。

 王家に怨みを持つ幽霊たちから得た情報と、ギルが王様に憑依中に得た情報。お父様と親族を助けていただいたお礼として、お父様経由でハリス家に渡ったはず。

 お母様のお姿をお借りして夢枕に立ったら、腰を抜かして驚いてたな、お父様。二回目なのに。


 裸踊りは関係ないし……って苦っ! 野菜炒めの、どの野菜か分かんないけど苦い! え、これ二十回噛むの? スープで流し込んだら駄目?

 

 冤罪のお礼に裸踊りをプレゼントしたけど、ちゃんと弱みになるけど口止めが利く親友の前でのお披露目にしたから関係ないと思う。

 厳密には、服を脱ぐのが難しかったから上は諦めて下半身露出踊りにしたってギルが言ってたけど、やっぱり関係ないと思う。

 高貴な方の服って、一人で着られない複雑な造りだから仕方ないよね。ただ気持ち悪さが増しただけで。


 憑依されてる間の記憶は無いのが残念だけど、親友なら起きた時に教えてくれるよね! 必死に裸踊りを止めようとしてくれたぐらいだし。

 ただ、中身がギルだから人間に止めれる訳もなく、応援に何人も駆けつけたとか言ってたけど、親友が呼んだ人だから大丈夫でしょ。

 うん、どう考えても全く関係ないね!

 プレゼントを受け取ったのは地位の高い人たちばかりだから、口止めなんて容易いし。領地没収を含めて冤罪を容認した王様たち数名とか。バレてたら社会的に死んでるだろうけど。


 そんなことより、この苦さ、どうにかならない?

 あ、そうだ。 食べ終わったら、どの野菜か店員さんに聞いてみよう。で、その野菜をお父様に贈ろう。


 お父様には十四年間育ててもらった恩があるけど、浮気については娘からも言いたいことある。

 私と義妹、ほぼ一歳違いなんだよね。お父様、最低過ぎ。本当に。 


 一応、浮気の代償を払わせたけど、あれで許せるのはお母様しかいない。

 お母様が昇天される前――幽霊の時に、浮気を怒ることも愛情表現の一種だと何とか説得して、お父様の寝室に忍び込んで金縛りにし、お尻百叩きを決行。……の筈が、生粋の箱入り令嬢で暴力とは無縁のお母様に出来るはずもなく、十回に変更。……しても、優しすぎるお母様には無理だった。酷いこと言ってごめんなさい。

 そもそも、素手でお尻に、まして異性のものに触れることが無理で、クッションで優しく当てただけ。それも一回。


 本っ当にお母様は優しすぎる! 妊娠が分かった頃に浮気したんだよ!? お母様のお身体が実は病に侵されていた事も分からず、嫡男の為に第二婦人が必要無かった時に!

 浮気が発覚してもご自分を責められるばかりで、お父様に怒りもしない。それどころか、最期までお父様のことを愛していらっしゃったし。

 ……まぁ、サーラが言うには、恋に恋してる状態で、ある意味幸せだって言ってたけど。どれだけ腹が立っても、夫婦のことに娘が口出しするなとも言われたけど。

 でも、お母様が流した涙を娘は忘れませんからね、お父様。


 とはいえ、お父様の事は嫌いじゃない。好きでもないけど。

 自分本位だけで評価するなら、百点満点中、百二十点だね! ちゃんと衣食住を保証してくれたし、勉強だってさせてくれた。

 親なら当たり前の事だけど、当たり前の事だからこそ、ちゃんと評価しないと。特に、私が毎食五人前食べても、うるさく言わなかったのは有難かった、本当に。私だって、それが可笑しい事ぐらい分かってるけど、霊力に取られてるなんて言える訳もないし。

 お母様の治療費を惜しまなかったし、言えばお母様との時間も取ってくれた。

 

 お母様には絶対言えないけど、浮気の事だって都合が良かった。家出をする以上、お母様と一人っ子の私が居なくなった後のリベラ家には跡継ぎを含めて必要だし。

 親不孝者でごめんね、お父様。でも安心してね、ちゃんと策はある。

 

 ふぅ、残り一口。

 ここまで長かった。


 予想に反して内乱が回避されたから、一ヶ月様子見してお父様と義妹が大丈夫なことを確認できてから、グルメ旅行に出た訳だけど。

 道中で幽霊絡みのトラブルに巻き込まれたり、自分から首を突っ込んだり。旅は道連れ、世は情け。旅の醍醐味ってやつだね!


 さて、残るはパンのみ。

 ……これ、バターとかジャムとかないから単品で食べるの?いや、不味くはない。それどころか美味しいけど、薄味で物足りない。

 そうだ、これが食べ終わったら、白身魚のフライとサラダをパンに挟もう。絶対美味しい、食べなくても分かる。よし、残りは美味しく楽しく頂こう!






「完食おめでとうございます。

 食後のお茶です、消化に良いですよ」

 

 お茶を一口呑んでみる。

 うん、やっぱり苦い。白身魚のフライにかかってたソースも、お肉の串焼きのタレも苦かったからね、そうじゃないかと思った!


 これがこの国の普通なのか、大食いに対する嫌がらせなのか判断に迷う。後者でも分からなくはない。なんせ医療大国だからね、此処。大半の外国人は、治療目的で来ている。なのに、暴飲暴食。

 うん、怒るね! ……なんで大食いメニュー作ったんだろう? 利用客として訊かないけど。


(完食の賞品が食後のお茶が無料になるだけとは、変わった国ですね)


 今まで挑戦してきた大食いメニューは、時間内に完食すれば飲食代が無料の上に賞金があったりしたからね、ライラの感想もご尤も。

  

(でも、こっちの方が好き。今までのって、一つの料理を巨大化したり大量に盛ったりしただけで味に飽きるし、何より品が無い)


(言われてみれば、大食いならメニュー全てでも良いですよね)


(お客を呼び込むための見世物だから、インパクト重視なんだろうけど……)


(机を埋めつくす程の料理も、十分インパクトがあると思います)


(大量のお皿洗いが面倒とか?)


 ライラと話に花を咲かせつつ、苦いお茶をちびちびと飲む。

 このお茶も絶対お父様に贈ろう。 

 

(この後はどうするのです?)


(屋台巡りとスイーツを楽しみつつ、冒険者ギルドに寄って伯父様夫婦の居場所を教えてもらう予定)


(前に言っていた跡継ぎですね)

  

 お父様のお兄様の息子――従弟なら、リベラ家の跡継ぎとして文句無し。

 義妹はライト家の秘密が暴露されたら無理だろうし。

 後継者教育には時間がかかるから、夫婦で冒険者をしてる伯父様一家を早く見つけないと。


 なんとか飲み終えて、お会計と苦い食材の情報を得てから店を出ると、春のぽかぽか陽気が気持ち良い。

 そういえば、母国の新しい王様の即位式って今月じゃなかったけ? 天気も良いし、目的地に着いたお祝いも兼ねてご馳走にしよう!


 冒険者ギルドがある方向へ足を進めつつ、さっき訊いた苦い食材がありそうな店に目星を付けていく。

 確か、平民は初めてのお給料で親に贈り物をするんだよね。家出して貴族令嬢ではなくなったわけだから、私も見倣って翻訳で稼ぐしかない! 医療大国で外国人が多いし、外国語は幾つか習ったし。勉強させてくれてありがとうございます、お父様。跡継ぎ探しが最優先だし、王様に貰った慰謝料はたっぷり残ってるから、親孝行はもう少し待ってね。

 

 あ、忘れてた。


(ライラ、冒険者ギルドに着いたら、この変装解いて)


(家出中は変装するのではなかったのですか?)


 血眼で探してるだろうハリス家対策に、あの脱獄以来、常に変装している。今は、顔立ちと瞳の色と声を変更中。


(伯父様一家の居場所を尋ねる人物が、姪とは全く違う容姿をしていたら怪しまれるでしょ?)


(サーラの歌でギルド責任者を魅了し、聞き出せば良いのでは?)


(実力行使は一番最後にしようね!)


(とても穏便な方法だと思いますが……)


 心底不思議そうにしてるけど、ライラって一見真っ当に見えて実際は物騒だよね! あの非常識幽霊三人が、絶対に逆らわないだけのことはある。どうしても教えてくれなかったら実行するけど。

 ……って、あれは!!


(ライラ、ライラ! 背が伸びるジュースだって!)


(そうですね、背が伸びるかもしれないジュースという看板が出ていますね)


 医療大国、万歳!

 急いでお店へ向かい店員に話を聞くと、ハリス様に教えていただいた背が伸びる食材が幾つも使われたジュースだと判明。本物だよ、これ! 注文決定!

 なんせ、ハリス様に教えていただいた背が伸びる体操を続けた結果、小指の爪ぐらいは伸びたからね! 

 侯爵家の情報に間違い無し!

 他にも、背が伸びるクッキーとかお茶がある。全部買い占めたい!


(このジュース美味しい! 毎日飲んだら、頭二つ分くらい伸びるかな!?)


<ない。文字通りの無駄遣いだ>


<ねぇな。現実を見ろ>


<ないわねぇ。バランスよく食べないと、お肌が荒れるわよ>


(ないと思います。先程の昼食代と同じ金額内でのお買い物にしましょう)


 私の希望を、エド、ギル、サーラ、ライラが無情なまでにバッサリと切り捨てた。

 今の今まで腕輪の中で寝てたのに、起きてすぐに人の希望を打ち砕き、好き勝手に町の散策に出るエドとギルとサーラ。

 うん、知ってた。失礼幽霊たちに、配慮も遠慮も考慮もない事なんて。私の美味しい霊力欲しさに、身長を伸ばす情報を手に入れてきてくれることも。そこには一切の思いやりも優しさもなく、ただただ美味しい霊力が欲しいだけということも!

 ……人ってこういう時に人肌が恋しくなるんだろうね。

 今更あの失礼幽霊たちが優しくなっても気持ち悪いだけだし、有益な情報を持ってきてくれる方が遥かに嬉しいけど。


 いや、そんなことより!


(ねぇ、ライラ。こういう健康食品って見た通り高いでしょ? 昼食代だけじゃ少ないから、今日の晩御飯代にしよう)


 予算を引き上げないと、伸びるものも伸びない。女性の成長期は今が最後。なんとしても、ここで伸ばす!


 ライラを言いくるめたまでは良いけど、問題はこの数ある商品の中からどれを選ぶか。店員が色々と勧めてくるけど、笑顔がとっても胡散臭い。地元幽霊たちの素直な声が拾えたら楽なのに、普通の幽霊は昼間に居ないから無理。借りたかったな、幽霊の力。

 ……ライラはね、頼めばどれに効果があるか正確に教えてくれる。くれるけども! 正確すぎて、今まで何回希望を木っ端微塵にされてきたことか! 病は気からって言うし、信じる者は救われる! 


 よし。嘘の見抜き方は、馬鹿にされながらあの言い逃げ三人に教えられたんでね。

 お手柔らかにね、店員さん。

 さて、どれにしよう?



主人公

・アン(アンジェラ・リベラ)

 処刑の身代わりにされかけた、男爵令嬢。

 膨大な霊力を持ち、規格外幽霊たちのご飯。

 やろうと思えば、威圧だけで王城を制圧できる。

 食べても栄養が霊力にとられ、身長と胸が成長しない。

 売られた喧嘩は、精神攻撃でお支払い。重度のマザコン。


失礼マイペース非常識幽霊たち

・ギル   

 物理攻撃関係なら大体何でもアリな規格外幽霊。

 脳筋に見えて、実は頭も良い。


・サーラ    

 音楽関係なら大体何でもアリな規格外幽霊。

 歌や踊り、演奏で、相手を眠らせたり、麻痺させたり、回復したり出来る。


・エド

 魔法関係なら大体何でもアリな規格外幽霊。

 口数は少ないが、表情だけは豊か。


・ライラ   

 幽霊というより、たぶん神話よりの超規格外なお方。出来ないことの方が少ない。

 なぜかアンの身長と胸囲だけは好きに変えれないことが、長い生涯における最大の謎。念話は、ライラしかできない。



・お母様

 アンの母親。故人。出産を機に体調を崩していた。

 もし生きてたら、処刑の身代わりはもとより、内乱回避の為に王家とハリス家の対立自体を『無かったこと』にしていた。お母様に余計な心配をかけさせません。


・国王

 目覚めたら、なぜか全身筋肉痛で起き上がれない。

 更に腹心から、全く身に覚えの無い自分の失態と痴態を聞かされて、白目を剥いて二度寝した。


 退位に追い込まれた要因

 4割:ハリス家に売った喧嘩

 3割:王家の暗部情報

 1割:失態と痴態

 2割:その他、大人の事情


・クリスティ・ハリス   

 優秀だから処刑するのは勿体無いと王の駒にされかけた侯爵令嬢(本人談)。

 胸ではなく、身長に栄養が回ってほしいのが切実な悩み。

 アンが王に回し蹴りをしたり、威圧に屈しなかった事を気に入り味方にしたかったが、逃げられた。


・ハリス家

 建国に尽力した四大侯爵家の一つ。魔法の名門一家。

 売られた喧嘩は、右手で握手したまま左手で握った杖を相手の口に突っ込んでから、仲直りする。

 ライト家の隠し事は全て把握済み。


・ライト家

 義妹の母親の実家。王都に店を構える中堅商人。

 この母親は、リベラ家の嫡男を期待された第二婦人。 

 

 アンが十歳の時、アンの母親を毒殺しようとしたがバレた。

 アンが出した条件を呑む事で、黙認されている。

『実行犯をライト家が、衛生的な環境下で保護する。ただし、餓死や自殺、毒殺・撲殺などの殺害、拷問や暴力は禁じる』。

 この条件を破れば、ライト家にとって不幸な事が起きるかも?と、アンが威圧たっぷりに忠告。

 毒殺計画を知る者たちは、この条件を出した時の事が、月に一回ローテーションで夢に出る。おねしょレベルの悪夢の模様。


・毒殺未遂の実行犯

 リベラ家の元使用人。人の弱みを握って強請っていた常習犯。

 本来なら、毒を混入した後で口封じされる筈だった。

 時々規格外幽霊たちが訪れては、不調を治していく。

 ライト家の秘密の地下牢で、今日も元気に図太く喚き散らしている。

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