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歩道橋のひび

作者: 汽口はると

学校からの帰り道。

家から3分ほど、帰り道にある誰も渡らない歩道橋で今日も時間を潰す。

昔作られた歩道橋は近くに横断歩道が出来たのにも関わらず壊されることなく残っており、今では殆ど使われていない。

なぜ作られたのかよく分からない歩道橋。

そこは時間を潰すのにピッタリの場所、橋の真ん中で赤いランドセルを踏み台に下を流れる車を眺める。

ランドセルいっぱいに辞書を詰め込み踏み台になるように工夫している。

おかげで毎日重いランドセルを背負うはめになる。

赤のランドセルなんて欲しくはなかった。

だが、親はそれを許さなかった。

母は赤のランドセルを奨めながら「女の子らしい・似合っている」と言った。

私は別に赤が嫌いという訳ではなかったが好きになれなかった。

嫌味な程に赤いランドセルはなんだかその鮮やかさで自分の事を誤魔化しているような印象を受ける。

まるで厚化粧して外出する母のように

まるで酔いに任せて愚痴を言う父のように

本当の自分を隠して目を背けているようで気持ちが悪くなるのだ。

私には私らしさがある。

家にいるとまるでそれを否定されている気分になる。

だからこうやって時間を潰しているのだ。

目線を車道から手元に移すと小さなひびを見つけた。

それは歩道橋の塗装の一部が剥がれ落ちて出来たひびだった。

そっとひびをなぞってみると塗装とコンクリートの感触の差がよくわかった。

ライムグリーンの塗装と黒色のコンクリート、ツルツルの塗装とザラザラのコンクリート。

何となく裏切られた気分になった。

私のすがった歩道橋も本当の自分を隠していた。

同時に少し同情した。

こんなふうに隠していても時間にバラされる。

そう思いながら、私は塗装を少しづつ剥がしていた。

私だけでも彼の本当の姿を見てあげたいと思った。

長い時間をかけ、自分の掌程の塗装を剥ぎとった。

そこにあったのはゴツゴツと無骨で黒いコンクリートの塊だった。

それを見るとなぜ私が自分を誤魔化す事を嫌っていたのかよく分からなくなってきた。

空を見ると赤が押されて黒くなり始めていた。

そろそろ帰らなくては。

重いランドセルを背負い歩道橋の階段を降りて行く。

明日はランドセルを軽くしてみようか、そんなことを考えながらいつも通り家路に着いた。


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