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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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未来 3

 ローレッタはリーシアに質問をしながら額や手首に触れた。


 リーシアの体調不良の原因は体が弱いためとされ、どんな医師も体力をつけるようにとしか言わなかった。

 国にすら隠している異能のことは伝えられないし、寝込みがちで体力もないため間違ってもいない。

 リーシア本人と父母は力を使わないことが解決に繋がると気づいていたが、本人が望まなくても発動する力だ。

 感情を抑えたり力の流れを感じ取れるように努力し、少しなら制御できるようにもなった。

 しかし完全に使いこなすことは出来ず、視ざるを得ない事態もある。

 気を付ける以外の対策はなかった。

 

 エイゼンは診察する間にと、花瓶を用意しに部屋を出ていた。

 女子寮で男性が気軽に使える水場は遠いため、すぐには帰ってこれない。

 ローレッタは机に置かれた箱へ視線を向けた。

 リーシアも釣られてそちらを確認すると、中・小ほどの箱が5つあった。


「あなたへの荷物を届けてくれたのよ。

 彼からの花以外の贈り物もあの中にあるわ。

 素敵な婚約者ね」


 ローレッタはやけにエイゼンの事を誉めて見せた。

 好奇心で首を突っ込んでいると言うよりは、誰かに『頼まれた』のかも知れない、とリーシアは考えた。

 ローレッタは思いやりがあり親しみをもって生徒たちに接するが、健康以外の問題に踏み込んでくることは普段ないからだ。

 そんなことを考えながら、考えまいとしていた。

 リーシアにとって強い思考や感情は力が発動する原因となる。

 力を使えば強制的に体調悪化するので、エイゼンを追い出すには丁度良いのかもとリーシアは迷ってもいた。

 しかしすぐに自身で否定した。

 こんな気持ちではエイゼンの未来を深く見てしまうと知っているからだ。


 答えないリーシアにローレッタは苦笑した。


「他に好きな子でもいるのかしら?」

「エイゼンが嫌なの」

「どうして?」

「誰に頼まれたのですか?」


 ローレッタの返答は一瞬だけ遅れた。


「確かに頼まれたわ。

 けれど私も気になっていたの。

 もし思い悩むことで体調に悪影響が出ているのなら、それを何とかしないとどうにもならないから。

 考えすぎて頭やお腹が痛くなったり熱が出たりはしてない?

 エイゼン君の事を何か考えすぎたりしてない?」


 意外な返答に、今度はリーシアが反応出来なかった。

 ローレッタは食が細くなったり、気鬱になって体の働きが悪くなったりしていないか、そういったことを心配していた。

 リーシアが多感で傷つきやすい、繊細な子なのでは無いのかと考えていた。


 一方リーシアにとって悩みと力の発動と体調不良は直結している。

 バレたとまでは思わないものの、隠しているやましさからの動揺があった。

 しかも野次馬根性などではなく、リーシアの体調を思いやっての発言だ。


「エイゼンと離れられれば私は元気になれますの」

「生理的にダメ、という感じかしら。

 彼を気持ち悪いと感じる?」

「そんなこと!!」

「ほら」

「……」

「さっきもそうだけど、彼を嫌いなようには見えないのよ。

 しまった、って顔してる。

 嫌いなフリをしているだけなのよね?」


 ローレッタはリーシアが演技しているだけだということをユレアノたちから聞いて知っていた。

 しかしリーシアは自分の友達が根回しと言う名の暴露をしていることは知らないため、ローレッタに見抜かれていると思い込んだ。

 多少の演技は見抜かれてしまうだろう、と。

 リーシアは未来を変える事に懸命になるあまり、今の自分を取り巻く環境を深く考える事はなかった。

 今の結果が未来に繋がっているため、未来を見れば自然と今も分かるのだと思っていた。


 エイゼンを騙し嫌われて婚約を解消する事が目的で、演技がばれているかどうかは別の問題だった。

 リーシアが視える範囲で、誰一人それは演技だと追求しない。

 最悪エイゼン以外にばれても良いとも思っているため、リーシアはそこが浅慮になっていた。

 リーシアに視えた未来は『娘は変人』と噂される程度で、家に悪評がつくほどではなかった。

 もしリーシアの持つ異能が未来視ではなく過去視ならば、この瞬間に友人たちの行動に気付いていただろう。


「嫌いとまでは言いません。

 でも愛してもいません」

「愛ねぇ」


 ローレッタはまだ若いリーシアが愛を語ったことに苦い笑みを浮かべた。

 若い内は愛だと信じこんでいた情が、ただの若さゆえの熱だったと気づかされる大人も少なくない。

 ローレッタはリーシア達が愛を語れないほど幼いとまで言うつもりは無かったが、愛を知っているという前提で語り合うことも出来なかった。


 ローレッタは『愛』について思うところが有っただけだが、リーシアは別の意図に受け取ってしまった。

 目を伏せて言い訳のように説明した。


「家の関係は大丈夫です。

 父同士が友人で政治的な絡みでもありません」

「そういうつもりでは無かったのだけど。

 怒られないの?」

「父はエイゼンが頷けばそれで良いと。

 お互いの気持ちが育たなければ解消すると、最初から約束していたそうです」

「それなら何故解消できないの?」


 リーシアは墓穴を掘ったことに気付いた。

 リーシアはエイゼンと別れたいと公言している。

 それが通らないのには理由があるのだ。


「好きだからでしょう?

 どうして別れたいフリをしているの?」


 リーシアはうまい説明が思い付かずに困った。

 

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