未来 1
リーシアにとって未来は見えるものだった。
ふとした加減で、もしくは強く感情が動くと、意識が飛んで未来に起こる事が見えた。
友人に秘密にしているどころか国にも報告をしていないが、リーシアも異能を持っている。
大事な友人達の事を頭から外しきれず、部屋に戻って気を抜いた途端に二人の『未来』がよぎった。
二人を案ずるあまり、二人の未来に起きる不幸を拾い上げたのだ。
すぐ起きることや短い場面であれば負担は少ないが、何年も後のことや長い期間を知ろうとすれば大きな負担になる。
長い映像を見ているように感じても実際の時間はさほど流れていない。
多く力を使った後は、頭痛や発熱ならまだ軽い方で、しがみつくように能力を使えば意識不明まで陥ることもあった。
リーシアが『病弱』なのはそのためだ。
リーシアは熱を出しながらユレアノとカイに起こることを確かめた。
強く願えば力が反応するので、体力を考えなければ難しいことではない。
逆に見たくないものを抑えることはひどく難しかった。
医師を呼ぶほどまで身を削って分かったのはこういうことだった。
ユレアノとカイは魔具を使った異能の訓練をすることになる。
治癒の修得を優先させようとしたものの、カイがどうにも上手く出来ない。
そのため治癒の修得を先送りして、ユレアノの攻撃手段から学ばせようと変更される。
炎はカイが元々使える力である。
カイには使い慣れた力でもあり、力を動かすという感覚を修得するために良いとされた。
また炎は形として目に見ることができるので分かりやすく、攻撃手段としても有力である。
炎などは目立つ異能のため研究も多く、カイが見本となれるのでユレアノの訓練としても適しているとされた。
またユレアノは力を使い慣れていて心配も少ないとされた。
自衛ができない異能持ちは狙われやすく害されやすいため、ユレアノに攻撃手段を教えることも重要であった。
――どこで、どうして未来が変わってしまったのか。
リーシアはユレアノを思うと同時に、急に現れた『未来』に困惑していた。
今までこんな未来が見えた事はなかったからだ。
リーシアは自分のせいだと感じていた。
未来は視た後のリーシアの行動で変化する事がある。
前回未来を視た後にした何かが原因で、ユレアノが事故を起こす未来へ変化したのだ。
ユレアノはリーシアから借りて魔石を使用するのに慣れていた。
最近行った芝居の後にも魔石で治癒をしてもらった。
本来の病気の治癒にしろ、魔石を使った怪我の治癒にしろ、使う時は対象に向けてその場で発動しつづける。
どちらも力の作用する位置に変化や動きがない。
訓練中にこういった事故が起きたことはそれまでなかったらしい。
リーシアが貸すために魔石に使い慣れ、慣れていることで必要な段階を抜かしてしまったのではないかとは考えられた。
――あるいは指導側に油断があったかもしれない。
治癒は手違いで周囲を巻き込んだとしても目に見えた害はなく、むしろ巻き込まれた者の体調が改善する。
しかし攻撃系の異能であれば巻き込んだ関係の無い周囲を破壊してしまう。
ユレアノは力が作用する場所を制御するのに慣れていなかった可能性がある。
ユレアノが恐る恐る生み出した炎は的に向かうことなく留まり、動揺で制御を失い、慣れたように力を使い、炎はユレアノに返ってきた。
その後の騒動も視たが、リーシアが関われる事態ではなかった。
魔石の使い勝手、異能者の教育時の問題点、色々と議論されていたようだったが、リーシアには遠い話だった。
リーシアに必要なのは、近い未来に親友が怪我を負わないための道標だ。
このまま行くと、ユレアノは火傷だらけの体となる。
また重大な不手際のため事故の事実すら隠された。
都合がつかなかったのか、すぐに高い威力の治癒を使える者が派遣される事はなかった。
異能を使わない治療と同じで、傷が深いほど、時間が過ぎるほど治すのは難しくなる。
ユレアノがその後で目覚めたのかどうか、リーシアには分からない。
未来のリーシアは『国に関わる密命』を受けて姿を消したユレアノを心配することしか出来なかった。
――こんな未来は嫌だ。
半ば呆然と未来を見ていたリーシアだが、知りたくない強い拒絶の意思で現実へと意識を戻した。
ただリーシアは理解している。
変化のある未来は変えられる可能性がある未来なのだ。