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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
優しい人
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新しい道 2

 リーシアが大きな行動を起こすのを休んでいる間に、ユレアノの方が大きく動いた。

 いつもはリーシアからユレアノに頼み事をするのが多いのが、その日はユレアノから頼み込まれた。


「もしリーシア様が本当にエイゼン様を気にしていないならお願いがあるのです。

 エイゼン様の婚約者に相応しい方を一緒に探しませんか。

 そのためにルクレイス様にもお声掛けをしてみようと思うのです。

 どうか一緒に来て頂けませんか」

「えっ」


 リーシアは驚いて思わず口元を隠すように手を添えた。


 リーシアが未来に視たのは、苛められるユレアノをエイゼンが格好良く助けに入る所だ。

 それ以前にこんな頼まれ事をされるとは思わなかった。

 全てを視ていては時間も体力も損なうため、視る未来は取捨している。

 エイゼンとユレアノは放って置いても結ばれるのだから、最近では可能な限り視ないようにしていた。

 身に危険があれば半ば強制的に視えるため、不便はないと思っていた。


 リーシアは動揺を飲み込んで一生懸命に考えた。


(視なかったのだから直接の害はないはず。

 それとも力を使う内にどこかで影響が出たの?

 変化の確認は後で良いとして。

 ユレアノ様がエイゼンのお相手を探すだなんて。

 それにルクレイス様は危険よ……)


 リーシアは困り顔のまま口元に手を当てて黙ってしまっていた。

 すぐに返事が出来ない内容のため、言葉が見つからなかっただけなのだが、相手にどう見えるかは別だ。


 ユレアノは傷付いたように悲しい顔で目を伏せた。


「ごめんなさい。

 やっぱり、気にしていないはずがないですよね。

 無神経な事をいってしまって本当にごめんなさい」

「あ……違います」



 リーシアは我に返って慌てて否定した。


「エイゼンの事ではなくて、ルクレイス様の事です。

 学園では特別に扱わない建前がありますが、いきなりこちらから話しかけるのは……」

「まずいでしょうか。

 王城で何度か顔を合わせていますし、お話も何度かあります。

 困った事があれば頼って良いとも」

「そうなんですか……」


 リーシアはユレアノの知らない一面を見てまた衝撃を受けた。

 ユレアノは異能者が特別に受ける教育の内容をあまり語らない。

 異能者は学園から出て王城での説明や講習もある。

 ルクレイスと面識があった事も、考えれば分かることなのに気が付いて居なかった。

 リーシアにはルクレイスに話しかけて問題ない一線を越えているかどうかの判断は着かなかった。


「ユレアノ様がルクレイス様と御面識があるのなら悪くはないかもしれません。

 私に判断は難しいです」

「リーシア様はエイゼン様からご紹介を受けてはいなかったのです?」


 ユレアノの全く他意の無い言葉は、リーシアの胸にぐさりと突き刺さった。

 リーシアはエイゼンから友人を紹介されていない。



 学園に入ってすぐから、リーシアはエイゼンを避け始めた。

 だから勿論リーシアもエイゼンに友人を紹介していない。

 仕方の無い事だったが、未来を中心に思考しているリーシアは気付かなかった。


 親の関係で親しくなった相手は学園に入る前に知り合っているが、子供の内は社交パーティーに出れない。

 家族ぐるみの付き合いがなければ、子供が子供に友人を紹介する機会はほとんどない。

 子供連れで集まる茶会もあるが、リーシアの異能を心配した両親は、病弱を理由に参加させなかった。

 ――エイゼンは学園に入った後で、ルクレイスを含めた友人らを紹介する予定だった。


(エイゼンも無意識に必要ないと思ったのかしら。

 だって妻として隣に立つのは私ではないもの。

 友達の紹介を受ける必要はないのよ)


 リーシアは悲しくなる勘違いをしながら、ユレアノには微笑んで頷いた。


「ルクレイス様は王族ですし。

 問題行動を起こす婚約者を紹介は出来ないですよね」

「リーシア様はそこまで考えていたのですね」


 ユレアノから尊敬の眼差しを向けられ、リーシアは反応に困った。

 ユレアノが何を言っているのか分からなった。


「ルクレイス様を紹介されない事も芝居の目的としていたのですね。

 もし紹介されていれば王族公認の婚約者になっていました。

 ルクレイス様は継承権を放棄する予定と公言されていますが、関係次第では王家の顔に泥を塗った事にもなったんですね。

 今まで気付かなかったです」

「……そうなったかも、知れませんね。

 私も、気付きませんでした」


 ユレアノは異能者として王家を敬うように刷り込まれている。

 天然の善人のため距離感はおかしかったが、考え付かなかった面を指摘され、リーシアは背筋が冷たくなった。

 解消できた未来が見えたのは解消のすぐ前で、別の問題も発生していた。

 解消を目的としていたリーシアは、解消後に発生するかもしれない問題に目を向けていなかった。

 知らぬ間に回避していた問題に、気を引き締めた。


「エイゼン様のご友人方は私達にお声を掛けて来なかったですが、ご友人方はリーシア様の味方だったのですか?」

「え?」

「エイゼン様を応援していたのなら、私ならきっとリーシア様の話を聞きに行ったり、説得しようと思います」

「それはユレアノ様だからだと思いますけど……」

「そうでしょうか?

 カチュア様も手助けようとすると思います」

「でも私もエイゼン様にお話には行かなかったから、向こうも事情があったかもしれませんね」


 リーシアは目を瞬かせた。

 ユレアノは純朴な顔で頷いた。


「事情ですか?」

「私達はエイゼン様に勘違いしてもらう予定で芝居をしていました。

 私達が下手に話に行けば、芝居である事も芝居の目的も、誰に見せようとしているのかも全て伝えるようなものです。

 ……その、知られてはいたわけですけども」

「そうですね……」


 ユレアノは善人のため、リーシアは考えてこなかったため、何故なのか理由が分からなかった。



ο ο ο



 ユレアノの疑問通り、エイゼンの友人の中にもリーシアの奇行に思う所がある者はいた。

 彼らから接触が無かったのは、当事者のエイゼンが全く傷ついていなかったからだ。

 エイゼンはリーシアが将来の不安から来る甘えだと、余裕で構えていた。

 むしろ奇行を許し可愛いとさえのたまっていた。


 次第にリーシア達の演技が磨かれて見応えがあるようになると、友人らも劇団とあだなをつけて楽しむようになった。

 学生の間だけの、バカのような遊びだと広い心を持って眺めた。

 最初こそエイゼンが放って置いてと頼んだが、誰かに接触を禁じられた訳でなく、友人らは余計な口出しをして二人のバランスを崩したくなかった。

 ――友人の婚約者といえ、他人事だったためもあり、まさか本当に解消するとは思っていなかった。

 きっと何年もしたら、あの頃は若かったのだと夫婦揃って笑い飛ばすような事だと思い込んでいた。



ο ο ο



 リーシアは未来は視えても人の心は読めない。

 エイゼンの友人らの考えが分からず、ユレアノの指摘に不安を覚えた。

 リーシアが確定で掴んでいる事実は、ルクレイスが既にリーシアに対して興味を抱いている事だ。


(ルクレイス様が裏でエイゼンとの婚約解消がしやすいように手を回していた、とか……?

 いえ、あの二人はエイゼンが私に気持ちが無いと自覚して打ち明けるまで変わらず親しいはず。

 もう確かめ直す事は出来ないけれど)


 リーシアはエイゼンとルクレイスの交遊まではしっかり把握していなかった。

 変わる前の未来を見直す事は出来ない。

 もう未来では無くなったからだ。

 リーシアは手探りで間違った結論を出しながら正解も引き当てていた。


(ルクレイス様はきっとひどく冷静で友達思いな人だわ。

 エイゼンが気付かずに相談してしまうくらいだし、気付かせないくらいに気持ちを封じ込められる人。

 そんな人が婚約解消に手を回していたとしたら……理由は?)


 リーシアは出口のない迷路にはまりかけた。



 暗い顔で黙ってしまったリーシアに、ユレアノは心配そうに声を掛けた。


「終わった事ですし、そんなに気にしない方が良いですよ。

 私が変な事を言ったせいでごめんなさい。

 ……もしかして、体調が悪いですか?」

「いいえ、違うんです。

 心配かけてごめんなさい」

「心配くらいさせてください。

 ルクレイス様に相談をしても良いか、そのお伺いから立ててみようと思うのですが、リーシア様はどうします?」

「私は……」


 この場での返答はリーシアには難しかった。

 ユレアノは無礼かどうか自体を本人に聞いてみると結論だしていた。

 カチュアが居合わせていれば速攻で止めるくらいの無礼である。

 リーシアは自分の事で一杯で気が付かなかった。


 ユレアノは努力を怠らず、知識はしっかりしている。

 しかし人と人との繋がりが意識の根底にあり、稀に善人ならではの距離感無視を発揮する。

 ルクレイスは王族だが、その前に友人と笑い合う同じ人間でもある。

 ユレアノは真っ直ぐに人を見るため、相手が自分にどこまで許してくれるか本能的に察していた。

 ルクレイス相手だからこそするのであって、他の王族や高位貴族に平気で突撃するような愚かさはない。


「もし気まずければ一人でも平気なので、気にしないでくださいね。

 ルクレイス様は私から話しかけても怒るような方ではないと思いますし、とにかく私は文を出してみます」

「あ……ユレアノ様」


 ユレアノの優しい笑みを見て、リーシアは思わず声を出していた。


「私も、備えが……気持ちの準備が出来れば付き添いたいです。

 ルクレイス様は王族ですので、話しかけたり頼みごとをするのは、勇気が……

 臆病でごめんなさい」

「ええ、大丈夫ですよ。

 日取りが決まったらまたお話させて貰います。

 くれぐれも無理なさらないでくださいね」


 ユレアノの笑顔には全く恐れがなく、リーシアは輝く光を見たような眩しさを感じた。


 どうして先の事も分からないのに、明るく前向きに踏み出せるのか。


 リーシアはユレアノへの憧れと自己嫌悪を強めた。

 可愛くて優しくて勇気があるユレアノ。

 喜ばれる力を持って生まれ、満たされた未来が広がっている。

 自分の存在がとても軽く感じられて、リーシアは心を隠して嬉しそうな笑みを作った。


「ありがとうございます。

 日取りが決まる前には覚悟を決めますね」

「覚悟だなんてっ!

 本当に無理はしなくて良いですからね」

「ふふふ」


 楽しそうな少女二人の声が響いた。

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