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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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親友 3

 リーシアはエイゼンたちが去ったのを見届けると、がくりとその場に座りこんだ。

 少し離れて立っていたユレアノとカイが慌てたように手を伸ばした。

 ユレアノはリーシアの肩をあやすように撫で、カイは片膝をついて支えになれるように手を取った。


 リーシアは目を潤ませて、儚げというより情けない顔で二人をみた。


「いつもごめんなさい、本当に」

「大丈夫ですよ。

 それより体の調子はどうですか?」


 ユレアノは心配そうにリーシアの背をさすった。

 リーシアは淡く微笑んで返した。


 先程言い合っていた二人には見えないほど親しげだった。


「緊張しただけなので大丈夫です。

 力が抜けてしまって」

「無理するなよ、リーシアは体が弱いんだろ?」


 カイもリーシアを心配する言葉を口にした。

 罵られていた時とうってかわって、ハキハキと自分の言葉を口にした。

 リーシアは困ったようにカイを見つめた。


「異性を呼び捨てるのはあなたのために良くないのですよ」

「そうですよ」


 ユレアノも微笑んで同調した。

 カイは苦笑して返した。


「はいはい、お嬢様がた」


 3人の親しげな様子に不審がる生徒はほとんどいなかった。

 いつもの光景だからだ。



ο ο ο



 リーシアがエイゼンが来るのを見計らって奇行を始めるのは、今では有名な話だ。

 リーシアはエイゼンの前で悪役を演じている。

 二人は学年が違う上にエイゼンは親友として王族と共にいる。

 二人の行動予定が被ることは少なかった。

 リーシアはその少ない機会を調べ調整し、または作り出して悪い女と見せかけようとしていた。

 ――有名だと知らないのはリーシア本人だけだった。


 また3人を含めた仲良し集団の存在も中々に有名だった。

 ユレアノもカイも希少な異能者で、腫れ物のように扱われるのが『普通』の反応だった。

 しかしリーシアはすぐに二人と親しくなり、そこから二人は異能者ではない他の学生らと同じように周囲に馴染んでいった。

 彼らが突然罵り合っても周囲には違和感しか沸かないし、すぐ仲直りしているのだからすぐに演技と知られた。


 そしてリーシアは知らないが、リーシアが悪く言われるのを恐れた友人たちは、関係各所にそれなりの説明をしている。

 リーシアが騙したいのはエイゼンだけだが、そう上手く行く話ではなく、人の口に戸は立てられない。

 結果的には、エイゼンには言わない、リーシアにはバレバレだと気付かせないようにする方向性に姿を変えていった

 

 完全に失敗している上に誉められる行動ではないものの、生徒や教師たちにもそれぞれ思惑や利害があり、あえて口を出すものは居ない。

 ちなみに手助けをする何人かの友人たち(エキストラ)と合わせてリーシア劇団と称されている。

 ――知らぬはリーシアばかりである。



ο ο ο



 リーシアは申し訳なさそうにカイに向かって頭を垂れた。


「ごめんなさいね。

 こんな嫌な役回りをさせているのに。

 倒れた所に怪我はないでしょうか」

「ちょっと痛むがこれくらい平気だ。

 受け身を取らなかったからアザくらいできるかもしれないが」

「それはいけませんわ。

 ユレアノ様、お願いできますか?」


 リーシアは右手につけた指輪をユレアノの方へ差し出した。

 ユレアノは優しく笑み指輪に触れて目を閉じた。

 温かな光がカイとリーシアを包んで、しばらくしてから消えた。

 リーシアは体が軽くなったのを感じ、カイの体の痛みが消えていた。

 異能と呼ばれる力の内の、治癒である。


「私まで良かったのに、ありがとうございます」

「いいえ、念のために、私の心を安心させるためですわ。

 リーシア様が倒れてしまわれたら後悔しますもの」

「ま、頑丈な俺よりリーシアを、様を、回復すべきだからな」


 カイは呼び捨てにしかけて言い直し、ユレアノと視線を交わして笑んだ。

 


ο ο ο



 各機関における異能に付いての研究の成果は魔石の発見と利用という形で現れていた。

 リーシアは幾つかの装飾品を身に付けており、それらは全て魔石が使われている。

 魔石は石ごとに能力が決まっている。

 ユレアノに差し出した指輪には治癒の魔石が使われ、傷を癒すことができるものだ。


 魔石は異能者にしか扱えない。

 研究はされているものの、異能者以外が使える見込みは立っていない。


 異能という力は万能でなく、例えばカイは炎を出せるが他の能力はない。

 ユレアノは聖女と喜ばれる治癒の異能で、毒などの状態異常は治せるものの、魔石なしで怪我は治せない。

 身一つで使える力は限られていて、対応する魔石があれば出来ることが増える。


 なので本来は異能者自身が持つべきアイテムだが、異能者でない貴族たちが好んで身につけている。

 理由は大まかに二つある。


 まず高額であること。

 富を印象づける手段に使われるほど高額で数が少ない。

 その時の任務に必須でない魔石をどれだけ持ち歩けるかには個人差があった。

 平民出のカイが良い例で、異能者が金持ちとは限らない。

 魔石を使える異能者が金額のため個人で所有出来ず、使えないの富裕層が義務かの様に求める歪さがあった。


 二つ目は安全対策しつつ名誉を得る機会を狙えること。

 例えば攻撃能力しかない異能者と共に事件に巻き込まれた時、大怪我を負っても治癒の魔石を持っていれば命が助かるかもしれない。

 自身の無事に対しての保険にもなるし、解決に貢献した名誉も得られる。

 

 逆の視点から言えば魔石を身に付けるのは近くに異能が居るとわかっていて、事件に巻き込まれる可能性がある者たちだ。

 いわゆる高位貴族や重職に就く者、それから出費を厭わない富裕層だ。

 てんで関係ない場所に居る、政治・経済に関わらぬ者が持つにはコストが高すぎた。

 国で保護されている異能の関係者、また関連する場所に出入り出きる役職や家柄の人々――結局は権力者たちである。


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