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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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劇の終わり 4

 未来視での行動をただなぞるだけ。

 知ってるとはいえ苦しさや緊張が消えてしまうわけではない。

 しかし決められた役を演じているような、我が身の事では無いような、リーシアの中にはそんな落ち着きが同時にあった。

 動揺するカチュアをどこか冷静な目で見つめながら、リーシアは語り始めた。


「カチュア様のお考えは間違っておりません。

 私は悪い未来を感じる事ができます」


 リーシアは嘘をつかず、真実も言わない事に決めていた。


「そしてその力は、国に報告する事に強い不幸を示しています」

「それって、リーシアに?

 リーシアに悪い事が起こるの?

 それとも、国自体に?」

「どうでしょうか。

 因果がどう絡み、どこまで不幸になるのかは」


 リーシアは様々な未来を見ていたので、最悪の場合、国を巻き込む事も知っていた。

 リーシアの家の領地が反乱を起こしたり、ユレアノという期待の異能者を失ったり、エイゼンを含む宰相一家の緩やかに離散して大きな人災を起こしたり。

 リーシア自身は国に取って重要なキーパーソン足りえないのだが、取り巻く環境は国に深く関連付いていた。

 そしてリーシアが力を使って未来が変わり、確定していないために、リーシア以外の不幸と対象も確定していなかった。

 

「私に分かることは国に知られてしまえば良くない事が起きる、それだけです。

 だから言わないように、知られないように気を付けていました。

 でも、見えてしまった悪い事を報ってはおけなくて」


 カチュアは苦しそうな顔をしていた。


「少し痛い目に合うくらい放って起きなさい。

 私以外にバレたらどうするの」

「カチュア様以外には気づかれないようですよ。

 今のところですけど」

「……あのね、リーシア。

 水を被るくらい、転んで傷を作ったって、あなたに悪い事が起きるよりずっと耐えられるわ。

 見捨てても良いから気を付けてね」

「大丈夫ですよ、私も慣れました。

 ちゃんと天秤は持っています」

「……そうかしら」


 助ける事柄と見捨てる事柄。

 助ける相手と見捨てる相手。


 繰り返し見る未来のために、全てを選べない事はリーシアの方が理解している。


 そうでなければ、エイゼンを諦めなかった。


「カチュア様の一番の疑問はエイゼンの事ですよね。

 もうエイゼン様と呼んだ方が良いのかしら」

「……もう解消できる事がわかっているの?」

「エイゼンとの婚約の先にあった悪い事が消えたんです」


 リーシアは暗に二つの回答を織り交ぜた。

 エイゼンとの婚約をあんなにも嫌がった理由。

 そして解消できたと確信した理由。


 カチュアは今聞いている事を黙ってよく考えた。

 リーシアも黙ってカチュアが口を開くのを待っていた。

 そうするのが良いとわかっていたから。

 そして次に聞かれる事も分かっていた。


 カチュアはしばらくして、ためらいがちに尋ねた。


「リーシアは、やっぱりエイゼン君の事を……?」

「不幸になると分かっていて繋ぐ出来ません。

 身を引いた訳では無いのですよ。

 私自身のためです」

「じゃあ、ユレアノの事は?」

「私、良い未来も感じられるんですよ」

「……」

「私の力は万能ではありせんが、エイゼンとユレアノ様の間に良い縁があることは最初から気付いていました」


 ユレアノと知り合う前から、二人が運命的とでも言うべき愛で結ばれているのは分かっていた。

 ユレアノと出会った時にはもうエイゼンの事は諦めていたし、実際に知り合えぱその人柄に幸せを祈るよりなかった。


「これで、本当に良かったの?」


 カチュアの問いにリーシアの中で込み上げる物はあったが、泣くわけには行かない。

 泣いてしまうとカチュアの中に強い葛藤が生まれるようで、この後の会話が上手くいかないのだ。

 だから未来視で何度も『練習』した。

 描いた筋書きになるように何度も計画を練って、会話の流れを覚えて、繰り返して、劇とも言えるレベルまで消化させたのだ。

 リーシアの心は磨耗して幾分鈍っていたし、ちゃんと耐えられた。

 予定通りに微笑んだ。

 感情に引きづられたままの、精一杯の笑みだが、これで問題がないと分かっていた。


「一時の辛さですもの。

 私これでも強いのですよ」

「リィ……」


  カチュアは一瞬沈痛な面持になったが、振り払うに顔を傾げて明るい笑顔を作った。


「なぁにいってんの!

 リィは病弱なお嬢様でしょ。

 強くなんかないわ」

「体の事ではなくて」

「体が辛くて心が弱って、先の事がちょっと不安になる。

 たまたまそれが当たってしまうのよ」

「……そうですね」


 二人は見つめ合って微笑んだ。

 リーシアはそれが事実ではないと知っているし、カチュアも力を否定した訳ではない。

 体が弱くて不安で勘が良い、そう言う事にしてしまおう。

 誰かに勘づかれたときの建前の確認である。

 そしてカチュアがリーシアの味方で有り続けるという宣言でもあった。

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