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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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親友 2

 ルクレイスやエイゼンたちは溜まり場としている場所まで移動した。


 学園の裏庭の端で、塀を背にした小さな広場となっている。

 塀の反対側は背の低い木や花で整えられて見張らしも悪くない。

 設置された椅子や机は古くさいが、溜まり場としては上等だ。


 調和しない設置物はルクレイスたちが準備したためだ。

 学園では不必要な物品を持ち込むことは禁止されている。

 そのため『学生生活における自主的な活動の一環として何たらかんたら』と御大層な名目をつけて、学園で廃棄になる机や椅子を集めて設置したのだ。

 手直しが必要な物ばかりなため、様々な人にアドバイスを求めながら、彼ら自身の手で補修を行った。


 身分を考えるとかなり常識外れな集団だ。

 だがグループ内に嫡子がほぼいないための緩さだと周囲は黙認し、或いは微笑ましく見守っていた。

 ルクレイス達は誰でも使って良いと公言しているが、王族を含む身分の高い家柄の子息たちが手作りした休憩所を使う勇気の有るものは居なかった。

 そこの辺りも予定通りである。




 溜まり場に着いて周囲に余計なものがいないことを確認してから、少年らは姿勢を崩した。

 まとめ役のルクレイスが一々指示を出さなくても、彼らは各々の行動を自分で切り替えられるくらい親しく理性的だった。

 少年らは気を抜いて自由に振舞い始めたものの、礼儀作法を叩き込まれているため、見苦しいほど姿勢を崩す者は居なかった。


「今日もすさまじかったな」


 ルクレイスの言葉に皆が頷いた。

 逆らわぬための相槌ではなく、本心からの同意だった。

 続くように何人かがそれぞれの感想を述べていった。


「まさか突き飛ばすとは思いませんでしたね。

 教師陣が見たらどうなるのか」

「黙認している様子もあるし、平民を排除したい派閥もあるそうだ」

「しかし高飛車な様がああも似合うのは皮肉だな」

「あの醜い言葉をどこで習ってくるのだろう」

「それにしてもユレアノ様は素敵だったな。

 にじみ出る優しさはさすがの聖女様だ」

「今も可愛らしいが、数年後には更に美しくなるだろう」


 ユレアノの話に移り熱が混もってきた輪から外れ、ルクレイスは黙ったままのエイゼンに小声で話しかけた。

 エイゼンは会話に加わらず、遠くを見て口元を綻ばせていた。


「未だにお前はあれを婚約者として繋いでいるのだな」


 エイゼンは片眉をあげてみせた。

 思い出し笑いは消えて、少し不機嫌そうにルクレイスを見やった。

 公衆の面前で行えば不敬と問題になる行動だが、親しい仲間しか居ない場では誰も気にしなかった。


「リーシアは私の婚約者です。

 幼い時から彼女は私のものです。

 これからもずっと」


 エイゼンの威嚇するような言い方に、ルクレイスは鼻で笑って肩をすくめて見せた。

 王子様がすれば品がないと問題にされそうな所作だが、騒ぐものはここには居ない。


 ルクレイスは話題を変えた。


「それで、異能の彼はどうだったんだ」



ο ο ο



 世界のどこかで、稀に異能と呼ばれる者が生まれてくる。


 異能とは炎や水を操ったり、傷を癒したり空を駆けたりなど不思議な力を持つ者のことだ。

 2年に1人見つかれば良い方で、どの時代を見ても50人を越えない位の少なさでしか存在していない。

 研究や保護のため、建前を抜けば能力の独占や敵国に奪われない事を目的として、彼らは国の監視下に置かれる。

 彼らは高い能力を生かして王族の護衛や王室直属の研究者等になる。


 この学園は貴族の子女の教育だけでなく、異能が国の中心部に関わる前の緩衝材としての役割も持っている。

 異能者が見つかれば、それまでの身分や学歴に関係なく就学となる。

 王城で勤めるための礼儀や知識を教えるには適した機関だった。


 また異能の力を誰でも使えるようにと研究が進められているものの、力を生まれ持たない者が使うことは未だに出来なかった。



ο ο ο



「カイという者と接触するために割り込んだのだろう?

 わざわざ参加した成果はあったのか」


 ルクレイスは尋ねると言うより報告を促すような口調で言った。

 エイゼンは頷いて返した。


「そうですね。

 体はやはり鍛えられていますね。

 手も剣を握り慣れていると分かる硬さでした」

「ふん、それなら体重も有るな」

「私のリーシアが突き飛ばしたくらいで倒れないでしょうね。

 不意をついても少し揺れるくらいでしょう」


 ルクレイスは呆れたように溜息をついた。


「あれだけ避けられて、嫌われて、どうして離れないんだ」

「嫌われてはいません。

 それに私は彼女に惹かれてたまらないのです」


 いつもののろけが始り、ルクレイスは聞き流すことに決めた。


「幼い頃から彼女は美しく可憐でした。

 優しくて、可愛くて、光がさすようだった。

 しかし彼女は謎へと変わったのです」

「はいはい。

 婚約が決まって嫌がって寝込んだ事件だろう」


 ルクレイスは聞き飽きたと言わんばかりに話の先を言った。


「そうです、おかしいでしょう?

 私たちは子供ながら好きあっていたのに。

 一週間寝込むほど嫌がられたことは悲しかった。

 ですが弱った彼女を見て、私が守らなければとより一層心の底から思ったのです」


 エイゼンは愛おしそうに遠くを見つめた。

 エイゼンは普段は賢く誠実で尊敬できる男だが、同時に残念でもあるとルクレイスは評価していた。


「そして彼女の謎をこの手で解きたい。

 婚約を嫌がる理由も、今の彼女の奇行についても。

 彼女が変わってしまったことを。

 この手で解き明かし、全て自分のものに」

「好きって前提が違ってるんじゃないか?」

「数年前まではちゃんと好きだと言葉にしてくれていました」


 確信を持って言いきるエイゼンを見て、ルクレイスはこれ以上会話しても無駄だと返事をやめた。

 平常運転である。

 内容を進展させるより話題を変えてしまう方が簡単だった。


 会話が途切れたことで他の友人達の話が二人の耳にも入ってきた。

 皆もまだリーシア達の話で盛り上がっていた。


「しかしあんな様子で将来どうするつもりだろうな。

 侯爵家はどう動くのか」

「追い出される覚悟が有るのかもしれない。

 今日の迫力なら外でも生きていけるだろう」

「しかし次はどういう事件を起こすんだろうな。

 『劇団リーシア』は」


 その言葉を聞いた瞬間、エイゼンは発言した者の前に割り込んだ。

 不機嫌な表情に、睨まれた少年は息を呑んだ。


「私の婚約者を呼び捨てにするな」

「あ、はい」


 学園の人気グループは今日も概ね平和だった。 

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