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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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演目 2

 リーシアは癇癪を起こした幼児のようにわめいた。


「許しませんわ!

 謝らないと言うなら、私がこの手で断罪します!」


 顔を真っ赤にして手を振って駄々をこね、リーシアは立ち上がろうとした。


「痛っ!」


 足首を抑えて起こしかけた体を崩すリーシア。

 演技だと分かっている友人たちさえ一瞬不安を感じるほどだった。

 ユレアノは困惑したようにカイと顔を見合わせてから、リーシアの隣へ座って手を差し出した。


「大丈夫ですか?

 足を捻ったのでは……」

「触らないで!

 あなたたちのせいでしょう!」

「そんな場合ではありませんわ。

 医務室へ、誰か」


 ユレアノが腰を上げて周りを見渡す。

 マロッドたちの後でエイゼンが動いたが想定済みである。

 エイゼンは怪我をしたのが事実なら飛び出して行ったが、演技か迷ってすぐに動けなかったのだ。

 それを妨害するために集められていた彼らは、隣の友達と話をする振りで壁になった。

 そしてエイゼンたちが足止めを食らわなくても、演技だろうが早く動ける者が近くにいる。


「きゃっ!」


 リーシアは今までの大きな声ではなく、高くて細い声で悲鳴をあげた。

 カイがリーシアを抱き上げたのだ。

 

 カイの動きに周囲が静まり返っていたため、リーシアが予想した以上に声が響いた。

 余計に恥ずかしくなって、リーシアの顔は更に真っ赤に染まっていた。

 ――だから未来視で自分があんなに真っ赤な顔をしていたのだと、リーシアはその時を迎えて十分に納得した。


「お、おろしなさい」

「僕が、運びます」

「あなたごときに運ばれるなんて」

「黙ってください」

「っ!」

「怪我をした女性を放っておくなんて出来ない。

 大人しくして」


 カイに対して周囲の女の子たちから甘い声があがる。


「素敵だわ」

「逞しいのね」

「うらやましい」


 待機していたカチュアたちが少し大きめな声で誉め称えたのだ。

 カイは声に構わず医務室の方向へと歩き出した。


 怒ったり戸惑ったりしながらも、しおらしく腕の中に収まるリーシア。

 本来の静かで儚げな表情で、頬を染めて涙目になるリーシアは観客の同性達から見ても愛らしかった。

 女性を男性が単に抱き上げただけなら接触し過ぎだという批判が入ったはずだが、怪我をしたという建前がある。

 演技なのか、本当に痛んでいるのか断言出来ないのに非難できる者は居なかった。

 かつ演技だという前提が可・不可の境目を分からなくさせていた。


 一方で今まで気の弱い役を十分に演じていたカイが、紳士的な理由で強気な態度に一変して見せた。

 普段のカイは根は優しくても粗雑な部分のある勝ち気な少年である。

 演技の中としても、普段を考慮に入れても、周囲に大きなギャップを感じさせた。

 罵倒してきた令嬢でも助けようとする優しさは物語に出てくる騎士様を見ているようで、カチュアたちが小細工をしなくても、夢みる少女たちから黄色い声が上がっていた。

 しかも将来が決まっているカイは他の生徒よりも訓練が多くて体が鍛えられている。

 軽々と少女一人を抱き上げてふらつきもしない、おどおどした演技をしていないカイは、掛け値なしに格好よく映った。

 ――さらにその決まっている将来は騎士である。


 カイは女の子たちのざわめきには反応せず、しかし頬を赤くしてリーシアから目を逸らしていた。

 抱き抱えた女の子をじろじろ見ない心づかい、手慣れない純粋さも可愛さとして加点された。


 リーシアを抱えたカイが廊下の角を曲がって消えていく。

 他の者に声をかけさせないために、カチュアはユレアノの元へ駆け寄った。


「ユレアノ様、お怪我は?」

「私は大丈夫です。

 でもリーシア様が」

「自業自得ですわ。

 さあ、次の授業に遅れてしまいますわ。

 気分の悪い事は忘れて行きましょう」

「ひどい怪我ではありませんように」


 ユレアノは目を瞑って胸の前で手を組んで祈りをあげた。


「ユレアノ様はお優しすぎですわ。

 早く行きましょう」

「お待たせしてすみません」


 カチュアはユレアノの腕を引くようにして、二人は足早にその場をさった。

 カチュアと一緒に控えていた女の子たちは、カイを褒め称えながらエイゼンの様子を確認した。

 第一の壁であるマロッドたちの後ろから出てくる気配はなく、女の子たちは足止めが上手くいっているのだと考えた。

 ならば次は攪乱の役が入っているため、カチュアとユレアノが歩いていった方に移動を始めた。

 もし追いかけてきて二人がどこへ行ったか聞かれれば、違う場所を教える役だ。


 しかしカチュアと一緒にいた女の子たちの役は退場だけですんだ。

 そしてマロッドたちの最後の足止めは、上手く言ったというより、実は必要なかった。

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