友愛 2
計画の骨組みが決まるとリーシアは小さな箱を2個取り出した。
頼んで実家から送って貰ったものだ。
1つづつユレアノとカイの前に近づけた。
二人は困惑ぎみに顔を見合わせた。
「リーシア様、これは?」
「魔石です。
今年、お二人が最初の例になります。
今後異能者に魔石の贈与が予定されています。
今年は私の父から、次回からは様子を見て資産に余裕がある家や、国などからの贈与となります」
本当は何とかしてリーシアから贈ろうとしていたのだが、親しい友達に贈り物をするなんて簡単な話では済まなかったのだ。
異能者に取り入ろうとする野心、異能者の中での嫉妬心、何より友から返せない高価な物を贈られる感情とその後の関係。
「どういうこと?」
カイは首を傾げるを通り越して捻るようにして尋ねた。
「魔石での練習の機会を増やすのと、救える機会を無駄にしないために必要なのではと父に相談しました。
父も思う所があったようで、様々な繋りから国が動いてくれる前提で今話が進んでいます」
「すごいね」
マロッドが目を見開いて驚いたように言った。
リーシアのヴィジット家は爵位も中頃、国の中央政治に関わる役職にもない。
本来であれば何か発言したところで議題にも登らない可能性がある立場だ。
しかもリーシアは3人に言わなかったが、ひどく短期間で為されたことだった。
「ありがたいことで、父は色々な方に良くしていただいております」
その内の一人がエイゼンの父で、宰相として政治を動かしている。
「父の言葉に感じる所のあった方が、働きかけてくれたようです。
今は内々の動きで、準備を整えてから公式での、お仕事?、になるそうです。
どうかまだご内密に」
リーシアも裏で何があったかはよく分かっていない。
相談して、やってみようと返事があった。
それだけなのだ。
「その箱はユレちゃんとカイが1つづつ貰えるってこと?」
「はい。
今まで魔石は先生が授業のために持ち運んでいます。
それでは練習の時間が減りますし、もし何かあった時に救う機会を失う事になります」
リーシアはその失われた機会を自身で見ている。
未来視で、大事な友の怪我で。
「いやぁ、でもなぁ」
カイは苦い声を出して箱をリーシアの方へ戻した。
「先に言っとくけど俺はやらないよ?
俺はやらないけど、魔石盗むやつ出てくるんじゃないか?
普通に盗まれる事もあるだろうし、無くしたって言って売って新しく貰おうとしたり」
「ええと、これも内密にお願いしたいのですが。
学園の警備で魔石を把握できるようにするそうです。
詳細は私も分かりかねますが」
「そ、そうなんだ……」
カイは顔をひきつらせた。
やらないから関係ないことだが、動いている権力の大きさに恐ろしさを感じていた。
「救うということは、これは治癒の魔石ですか?」
ユレアノは箱をじっと見つめながら言った。
リーシアはユレアノの前の箱を開けた。
戻ってきていたカイの箱も、カイの前に戻してから開けた。
それぞれ中には濁りのある半透明の小さな石が二つ嵌まったペンダントが入っていた。
デザインとしては安っぽい。
魔石は青いものと白いものが1つづつで、質の良くない宝石のような見た目をしている。
石を固定する金属は壊れにくさ重視で装飾に使われるものでなく、首にかかる紐部分も丈夫で武骨な革で出来ていた。
「白いものが治癒、青いものが水です。
服の中に隠して貰う前提で、卒業までは非常時以外は人前で使用しないようにしてください。
次に異能者が見つかるまでに学校に魔石が贈られることになります。
その後は卒業記念に贈られるという形を取るそうです」
「私たちは強制的に卒業になったということなのですか?」
ユレアノは青い顔をして口元を手で覆った。
特殊な事情が発生すると異能者は卒業扱いで学園から出される。
卒業記念という言葉でユレアノは非常事態を危惧した。
そういった事情を知らない3人はユレアノの勘違いを不思議そうに見た。
「卒業になったわけでなく、今回は特例の贈与です。
学園に魔石を贈るのが間に合わないので、実験的に?、個人に贈ったということになるそうです。
次回からは卒業と同時に、治癒の魔石のみに変わるそうですが」
「水はおまけ?」
「町のパン屋じゃないんだから」
気の抜けるような感想を言うカイに、カチュアが速攻で突っ込みを入れた。