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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
運命の人
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失恋 1

 リーシアの部屋でエイゼンとユレアノが遭ってから三日がたった。

 結局リーシアには、『ユレアノが優しくてあの時だけ仲良くしてしまった』という風に装うくらいしか思い付かなかった。

 その事も含めてリーシアは仲の良い友人たちと集まり相談することにした。

 影でリーシア劇団と呼ばれているメンバーである。


 「ユレちゃんとリィちゃんがイチャイチャしてるの見たならもうダメじゃない?」


 貴族にあるまじき喋り方で真っ先にぶったぎったのはカチュア嬢だ。

 さらさらの長く赤い髪が印象的な、艶と言っても良いような華のある少女だ。

 カチュアの実家は元々商家で、何十年か前に功績を認められて爵位を与えられ、トントン拍子に伯爵までのしあがってきた家の令嬢である。

 未だ貴族社会では成り上がりと白い目で見れることも多いものの、逆境も付き合うべき相手を見定めることに大いに利用しているしたたかな一族だ。

 カチュアは親しい者達の中では令嬢らしさが皆無だが、一歩外に出れば完璧な令嬢に化ける。

 普段の見た目と中身のギャップにはリーシアではわからないメリットがあるらしく、家公認だという。


「イチャイチャって何ですか?

 カチュア様の言葉は難しいです」

「私も分からないな。

 外国の言葉かい?町人言葉かな?」


 首を傾げたリーシアに続いて疑問を口にしたのはマロッドだ。

 明るい茶色の髪で、柔らかい性格が滲み出た顔立ちをしている。

 格式ある侯爵家の四男で厳しい教育を受けてはいたが、家を継ぐ予定が全くないため、同時に目を離されてもいた。

 

 リーシアは領民に近い家だが、領主のお嬢様の前で上品でない言葉を使う者はいなかった。

 マロッドは平民と接する機会がなかったため、崩れた言葉は耳慣れないものが多かった。


 カチュア、マロッド、ユレアノ、カイ、そしてリーシアの5人はとても仲が良かった。


 二人の問いにカチュアは肩をすくめてみせた。


「とっても仲が良いって意味よ」

「カチュア様、嘘を教えないでください。

 親密な恋人同士の触れ合いに使う言葉でしょう?」

「ユレちゃ細かーい」


 ユレアノは困った顔で指摘したが、カチュアは楽しそうに不満を口にした。

 ユレアノは子爵家の三女で、実家は貧しく富も権力も十分でない名ばかりの貴族だ。

 使用人も少なく自分達ですることも多いので、必然的に市井に交わることも多かった。


「私とユレアノ様が恋人に見えるということです……?」

「それくらい仲良く見えるってことだよ。

 リーシアは本当に単純だなぁ」

「カイ様、呼び捨ては駄目ですよ。

 あと私は単純ではありません」


 カイは補足しつつもからかうような事をいい、リーシアは軽く睨んで返した。

 リーシアは『病弱』で憂いのある表情を見せることも多いために儚げな印象が付きまとっていた。

 その上に人を悪く言うこともない穏やかなリーシアが睨んでも、周りの目には可愛らしく映るだけだった。

 ただ一部の者たちからは、素のリーシアの方があざとい演技であり、たまに見せるこういった仕草や芝居の方が本質だとろうと見下されてもいた。


 カチュアは小さな溜め息をついた。


「それにしてもね、リィちゃんほんと何でエイゼン君がヤなの?

 一昨日も他の子達から『浮気公認って本当か』って聞かれちゃったよ?」

「浮気なんて駄目ですよ。

 きちんと本気で、結婚を前提にしてもらわないと」

「そういうことじゃなくてね?

 婚約者であるリィが本当に怒らないのかってことよ」

「私は歓迎いたします。

 でも欲を言うならエイゼンを愛し支えられる人が良いです」

「それ欲なの?」


 カチュアは横に並んで座るリーシアとマロッドを見た。

 上品な物腰で内面の穏やかさが顔立ちに出ている二人は、並べば上流貴族の好ましき見本のようだった。

 エイゼンと似合わないわけではないが、カチュアの目からはこの二人でもお似合いに見えた。


「例えばリィがマロ君を好きだとかなら分かるよ?

 いくらエイゼン君が『買い』……いえ、押さえた方が良い優良物件でも好ーー」

「怖い言い方すんなよ。

 言い換えた意味ねーし」

「うるさいカイ」


 時間差でもリーシアはカチュアの言葉の意味を理解できたのでカイの指摘は正しくは無かった。

 しかし幼馴染みで婚約者である人を商品のように言われるのはもやもやしたので、言葉を被せるように止めてくれたのはありがたかった。

 カチュアは言い直して話を続けた。


「エイゼン君が素敵だとしても、他に好きな人がいれば結婚したくない理由は納得できるのよ。

 感情を理性で抑えるのは難しいわ。

 これは商売だってそう、利害だけでは上手く回らないの。

 一生に関わることだし、私たちはまだ若いから特にね」

「老けた言い方だなぁ」

「うるさいバカカイ」


 カチュアが真面目なことを言えばカイが茶化す、二人はいつもこんな感じだった。

 本来は異能といえ平民であるカイが、商人上がりの家でも伯爵家の令嬢にとる態度ではない。

 二人は他人の目がある所ではそれなりの接し方をしているが、親しい者だけになるといつもこうだ。


「とにかくよ、未だに分かんないの。

 面白いからずるずるやってるけど。

 いい加減に教えてくれてもいいんじゃない?

 エイゼン君、女の子に対して変な趣味でもあるの?」

「バカな話すんなよ?」


 リーシアには変な趣味の意味は分からなかったが、カイがひきつった顔で止めているので、詳しく聞かない方が良いような話題なのだろうとは気付いた。

 今までにも何度も聞かれたことだが、リーシアに答えられることは少なかった。


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