17章 2人きりの インテ卒業制作
2人きりの卒業制作
実習棟に「女神様」は存在した。
その想いを強くする出来事に遭遇したからだ。
3年になるとインテリア科として卒業制作に入る。
少人数でのグループによる自由課題で3年間の集大成として
「インテリア作品」を創り上げるのだ。
通常の実習グループは出席番号の順に10人前後で
幾つかのクループ別けがされていて 卒業制作も
そのグループで実施されると思い込んでいた。
しかし・・・結果的に組み合わせは自由になった。
そして「N美」と「オレ」 2人だけで「卒業制作」
をすることになったのだ。
その経緯について まったく記憶に無いから不思議だが
とにかく2人一緒だった。
他のグループは真面目だ 張り切ってコンセプトを創り上げ
着実に具体化している。
オレとN美は 実習の時間になるとコンセプトそっちのけで
共通の趣味になる「郷ひろみ」のナンバーを一緒に歌っていた。
N美がひろみのファンだったのは知っていたが
オレも負けず劣らず熱烈なファンだった。σ(^_^;)
歌詞はN美より詳しかったが 第三者に自慢できないのがツライ。
その反動でN美に「歌詞 間違えてんじゃねぇぞっ」と
イジメたりしてウップンを晴らしていた。
ずっと ずっとこのまま 時間が止まってくれれば
どんなに幸せか・・・
余談だが N美からの年賀状には毎年 手書きの干支が描かれ
余白に小さな丸文字で こう書き添えられていた
「ず~っと ず~っと 倖せでありますよう 心を込めて・・・」
幸せに「にんべん」を使うのが N美のこだわりというか
思いやりなのだろう オレも お返しに永久の
「倖せ」を祈らずにはいられない・・・(*^-゜)v
2人のコンセプトは「遊び心とインテリア」で決まっていた。
的を射た表現を借りると
「自由気まま 遊びながら考えればイイやん!」
周囲から見ると「あの2人って実習時間に遊んでるだけかぃ?」
と奇異に映るらしいが本人達は いたって真面目に
「遊び」を徹底追求している。 ('_'?)...ン?
自主性を重んじる工芸スピリッツにバッチリ符合しているのだ。
うんうん・・・
N美が練りに練ったコンセプトを披露する
「おじさん こんなコンセプトどぉ?」
「コンセントの数が どしたって?」
「コンセントじゃなくてコンセプトぉ~」
「大人でも遊べる おもちゃとか どっかなァ?」
「はぁ 大人のおもちゃ かよぉ〜〜」!?(゜〇゜;)
「もぉ!! オトナのオモチャじゃなくてぇ!!!」
「オマエ声 デカぃって!」
制止しようにも後の祭りで実習室の視線が一斉に
遊んでる2人に注がれ 伴ちゃん先生のメガネが光る。
小声で「ばぁか」と頬を膨らませながら
力一杯にオレの腕をつねる。
最後に首を傾ける癖はお約束通りだ。
やっぱ遊んでるだけにしか映らないよ
これじゃ・・・(ノ_-;)ハア
N美の「オトナのオモチャ」で方向性は決まった。
本人は隣でまだ膨れ顔だが
「ただ室内に置いてあるだけじゃなくて
動いて遊べるモノとか どうだ?」
チラッと横目でN美の様子を探るものの話の流れ的に
また脱線トークに持ち込まれるんじゃないか?
そんな 不信感一杯の目でオレをチラ見しながら
「たとえば どんなぁ?」
「室内用の木製カートで 大人が乗っても楽しめるのは
どぉ〜やっ」(*^-゜)v
「それ ただのオモチャじゃない?」
「でも室内だからインテリア用品」
N美には もう一つ癖が有った。大きな目を高速で
まばたきさせる技だ。
ビックリした時や理解に苦しむ話をしたときに
やる お約束の技。o(@.@)o
今 目の前でその技を披露しているのだから
意表を突かれた証拠だ・・・
早速 エスキースに取り掛かる。
いきなり図面化するにもイメージが湧かないんじゃ進まない
2人してブルーのつなぎで実習室の床に座り込んで
「お絵書きタイム」が始まる・・・
他のグループは家具の図面作成まで進んでいて
白い視線をビシバシ飛ばしてくる。
やっぱり遊んでいる2人にしか映らない・・・
らしい・・・・(ノ_-;)ハア (ノ_-;)ハア
「全部 木 で作ろうなぁ」
「車輪も軸もぉ?」
「どっか拘りがないとさぁ」
2人の天才デザイナー達は不可能な漫画ばかり描いている
座席があったり ハンドルがあったり・・・
コンセプトの「オトナ」の重量に耐えられる木材はなさそうで
どんどん妥協?してスケールが貧弱なカートになっていき
最終的に大きな まな板に木製の車輪が4個付いただけの
「作品」に成り下がりそう。
遅れている分を取り戻したいので図面無しで作成することにした。
図面無しというより図面が不要な「シンプル作品」。
悪くいうと「手抜き作品」('_'?)...ン?
図面なしって 気楽だ。実習棟北側の大屋根の下に保管してある
適当な木材を選んでくればイイのだから。
他のグループみたいに図面と にらめっこしながら こっちの大きさ
あの厚み こっちの材質に木目・・・希望にかなう素材が
なかなか見つからない。
それを横目に トイレのフタぐらい大きさの板と
車輪や車軸用に長い角材を小脇に抱えて涼しい顔で材料調達は終了する。
巣作りを待つメス鳥の元に帰るオス鳥のように ささやかな
「倖せ」を満喫し実習棟に戻ると N美がいつもの「ヒワイ頭」
で机に座って足をブラブラさせながら待っていた。
「え〜 そんだけぇ?」「こんだけで出来るョ早よ準備しな」
座っていた N美を追い立てるようにして
リーダー気取りで こう言った
「じゃぁ オレ 道具持ってくるからさぁ
オマエは 木取り してろなぁ」
木取りとは材料を刻む前に おおよその外郭線を
木材に鉛筆で書き込む作業だ
ナゼか N美は腕組みをしたまま片足だけ突き出し
ポーズをとっている??
「アホかぁ 気取りじゃなくて木取りだっ!」
お約束通り ヒワイ頭をパチッと軽くたたく。
「たたくなよぉ〜」と男言葉で応酬。
これも 2人のお約束・・
この「ツッコミ」もそうだが「ウンコぉ〜」って
叫びながら一緒にしゃがむ芸も3年になる頃には
芸に磨きがかかり 円熟味を増してくる (*^-゜)v
他のクラスメイトの前ではしないで2人だけの空間で
「円熟芸」をやっているN美の笑顔は 底抜けに自然で
爽やかで鳥肌が立つほど輝きに満ち素敵だった。
高校在学中で2番目の「倖せ」を感じた瞬間だ。
「その笑顔を永遠に・・・・」実習棟の女神様に純粋に祈った。
「・・・・」の中身は恥ずかしくて書けないが。
♪~♪ d(⌒o⌒)b♪~♪ ♪~♪ d(⌒o⌒)b♪~♪ ♪~♪
車軸受け用に オレは2つ穴のあいた縦長の角材を2本作る。
その横でN美はボディの外周にグラインダーを掛けて角を取っていく。
車輪と車軸用に角材の角を切断し巨大な鉛筆状にした後
旋盤に固定し 回転させながらバット状の円柱にし
さらに輪切りにし大小の丸棒を作り N美に表面仕上げを委ねる。
大きな輪が車輪で 小さな輪が車軸となって車輪とボディの軸受けをつなぐ。
大きな輪の中心にドリルで穴を開け 小さな輪の車軸を片方だけ通し
接着剤を加えホットプレス機で圧着。
ボディの両端にも車軸受けが圧着され乾燥させた後に残った車輪を
圧着すると完成だ。意外に早く終わってしまった。(*^-゜)v
1番遅く取り掛かって 1番早く完成してしまった
「小学生の工作」p(・・,*)
一応作品だから名前をつけたくなるものだ。
あれこれ考えたがブッチ切る走りを願って
「ブッチー号」と命名した。(*^-゜)v
そして 発表試乗会。
☆。、::。.::・'゜\\ ̄(エ) ̄)♪パチパチ
当然2人の作品だから 2人だけの試乗会!
実習棟の中央にある廊下に出て
N美を乗せてオレが引っ張る「ゴロゴロゴロ〜」
彼女は飛び切りの笑顔で応えてくれる。
オレも飛び切りの「倖せ」を走りながら満喫している。
「どぉ?乗り心地?」「うんうん!イイよっ!」でも・・・
「ハンドルないから まっすぐ 進まないよぉ〜」
「よしっ改善会議だ!!」
幼稚園のお遊戯でやる「積み木」の要領で色んな材料を
重ねたり外したりして侃々諤々の議論?の末
後ろの車軸と車輪はそのままにして
前輪を独立させる旅客機形式にした。
ボディ先端から前輪を固定した軸を上に出しT字状態にした。
三輪車のハンドルの形状に近い。それを足で操縦するのだ。
理論上完璧なのだが全部木材で組み上げるのに苦労し
何度も何度も改善を重ねた・・・
クラスメイトや教師達の冷め切った視線にも慣れ
開き直りの境地の2人。
試行錯誤の末に「ブッチー2号」が完成し またまた試乗会。
ブッチー2号は最新鋭。足ハンドルが有るから
どこまでも まっすぐ進む。
完成までの苦労もあったが 歓声を上げて
今まで見た事のない笑顔を振りまいてくれる N美を見詰め
在学中で1番の「倖せ」を噛み締めていた・・・
感動で目頭が熱くなり「ず〜っと一緒に いようね」
N美の笑顔に向かって心の中でつぶやいた。
ここで終わると美談なのだが ちゃんとオチがつくのが 関西風
卒業制作は文化祭で展示即売され来場者に人気がある。
ブッチー1号は遊び過ぎ いや 強度テストの繰り返しで
壊れてしまったが2号は最高のコンディションで文化祭に出展されていた。
土日の2日目に見に行くと愛車が展示してない。
恥ずかしくて隠したのか?
店番のクラスメイトに聞いてみると
「あれだったら N美が買っていったよ」と
「はあっ何だって!」
翌日N美を捕まえて
「2人で作ったのに何で 相談なしで買ってくんだよ!」
「自分だって その つもりだったくせにぃ」
とイタズラっ子ぽい 大きな瞳をオレに返す。
言い当てられてるから 何の反論も出来ないオレに
「勝者の微笑」のN美 (*^-゜)v
結局2人とも同じコトを考えていて
N美が先に行動に移しただけの事だった。
2人だけで創り上げた 2人きりの卒業制作・・・・
誰の評価も要らない 2人の作品だ。