2.秀流・彼岸(すえはる・ひがん)の日常。
「えー、ここは正弦定理を使って…」
今は6時間目の授業中。
親に言われ、習った内容。
だけれど。
一応、私はちゃんと授業を聞いている。
だって、家で勉強をするつもりなどほとんどないのだから。
「よし。今日はここまで。宿題は教科書145ページの練習19と20。後数分は自習。」
先生の声で、はっと、我に返った。後は自習、か・・・
よし。寝よう。
私は机に突っ伏すと、そのまま意識を手放した。
*
「しゅーりゅーさん!しゅーりゅーさんってば!!また寝てたの?」
「ん…授業終わった感じ?」
「そうだよ?」
じゃないと私が来られるわけないじゃん、と、隣のクラスで、仲のいい八重の声で、目が覚めた。どうやら、もう放課後らしい。
「で!しゅーりゅーさん!今日は部活くるの?」
「んー…今日は…」
「じゃあ、荷物持って先に実験室行っとくよ?」
言うなり、八重は教室から出ていった。
…私は部活に行くつもりなんてないのに…否、行きたくないのに…
「はぁ。」
仕方なく、私は部活のミーティング場所である実験室へ向かった。…。学校の廊下を歩きながら、私は考える。人間関係って本当に面倒くさい。みんなみんな、いなくなってしまえばいいのに。期待してきたり、男遊びをしたり、比較してきたりする母親も、借金をして逃げた父親も、荷物を勝手に持っていく八重も。
でも、そこで私は、その考えを否定する。
私がいるからだ。
私がいなくなっちゃえばいいのに。
って。
けれどもやっぱり、死ぬのはこわい。
すれ違う同級生に手を振りながらも、私はずっと思う。
死にたい。けれど怖い。
って。
だから、指の皮をむいてしまったりするのだろうか。
「はあ。」
いつの間にか実験室についていたようで、私は一つ、ため息をつき、扉を開けて中に入った。
「あれ?ヒガンちゃん。来られたの?」
最近来てなかったよね?と、顧問の寺西先生は言う。
「あ、はい、そうなんですけど、八重にとられたかばんを取りに来て…」
さっきまでは無表情だったのに。私の顔には嘘みたいな笑顔が浮かぶ。
最近来てなかったよね?と、顧問の寺西先生は言う。
幸運にも、今八重はいないようだ。
「そうなんだ…じゃあ今日は…?」
「ごめんなさい…ちょっと用事があって…」
そういうと、寺西先生は何かをわかったような顔をして笑い、手を振った。
「そっか、無理せず頑張ってね?」
「りょーかいです!また明日!」
鞄を背負い、寺西先生に手を振る。今日、どこに行こうかな。