邂逅・悪の華と聖女 1
あれから数週間、何事も起こらず過ぎている。城の中も城下町も平和そのものに見える。
流石にカーラ、平和な日々に退屈してきたと見え、
「なあ、レイミ、暇だから付き合え」
いきなりレイミの私室の戸を開け入って来る。
レイミは机に向かい何やら書いている。
「ちょっと、困るんだけど。これから算術の先生来るから・・」
カーラ、窓の外を指し、
「こんないい天気なのに部屋に籠っているのも勿体ない、外の世界を色々見て歩くのも勉強のうちだ」
勝手な事抜かし、無理やりレイミを引っ張っていくのであった。
「少しだけだからね」
渋々カーラに付き合うハメになるレイミ。
二人が出てきたのは城の裏口だった。そこには1台の魔動車が停めてあった。魔動車というのは、魔力を充填した魔道発動機の力で動くことのできる車のことである。この世界ではかなり高度な製品であり、価格も高価であるので一般庶民が普通に持てるものではない。通常は「馬」などの家畜に頼るのが大多数なのである。
「乗れ」
運転席に座り、レイミに乗車を促すカーラ。乗ったのを確認すると音もなく走り出す魔動車。裏口詰め所に居た兵士はレイミの姿を見ると敬礼して見送っていた。
「ねえ、カーラさんその車どうしたの? 紋章書いてあるしそれうちの城の車だよね? 」
「借りてきた」
「ええ? よく貸してくれたわねえ・・」
「黙ってだけどな」
「・・・おい」
街を抜け、山間部に入り小一時間も走っただろうか。山の中の開けた場所に辿り着いた。澄んだ水を湛えた湖水がある。二人、車を降りて湖のほとりの土手に腰を下ろす。
レイミは思わず見とれ呟く。
「綺麗な景色ね。国内にこんな場所があったなんて知らなかった・・」「あなたの言う通り城とその周りばかりに籠っていたらよくないのかも」
カーラ頷きつつ
「ここは私も好きな場所の一つだ。何年も来ていなかったが変わりないな・・」
あたりに響くのは鳥や蛙の鳴き声ばかり。
「なあ、レイミ・・」
問いかけつつレイミの手を取るカーラ。
「はい? 」
今日のレイミは以前会ったときとはうって変わってブラウスにセミロングのスカートというカジュアルな服装であった。年相応の清楚さと可愛らしさがある。カーラの心に何かこみ上げる物があった。
「今日のその服、似合っているぞ、以前の剣持った戦闘装束よりいい・・」
戸惑うレイミ。
「えっ!?あ、うん、ありがと・・」
「それにしても・・」「こうしているとうちらカップルみたいだな・・」
「あ゛ーーっ!?(何言うとんだ、この人は)」
レイミ、立ち上がりカーラにヘッドロックをかますのであった。
と、
「おう、ねーちゃんたち、こんな所でおデートかい?フヒヒ・・」
「「!?」」
見れば見るからに悪そうな野郎が背後に来ていた。伸ばした髭を蓄え、毛皮のベストを身に付け、獣の頭部を加工したものを頭に被っている。そういうのが五、六人いる。誰がどう見ても堅気には見えない。
(ちっ、調子こいてイチャコラしていたもんだからこいつらの接近に気づかなかったか・・)
(賞金稼ぎではなさそうだが・・? )
レイミ、目で合図する。
(確かこいつら、この辺を根城にしている山賊集団だわ・・)(それにしても治安悪すぎだわ、うちの領地・・)
山賊の一人が、彼女らの乗ってきた魔動車に目を付ける。
「こいつら、車持っていやがるのかよ、こいつはいい得物だぜ・・ってこの紋章、ひょっとしてキルミスター王家の物じゃねえのか?」
「何だと?!」「て事はこいつら王家の者かよ? 」「なら直のこと帰すわけにはいかねえな」「こっちはなかなか上玉の娘だ、絶対処女だな、これは高く売れるぜ」「お頭もさぞお喜びになるだろうな」「大人しく来てもらおうか? 」
手に手に短剣を持ち、二人を取り囲む山賊ども。好き勝手な事をほざく。
カーラ、手をかざしつつ、「いい気になるなよ、ザコどもが! 」
すかさず、レイミ、カーラに囁く。
「待って、ここは奴らにわざと捕まってアジトに行くの、そこにはボスが居るはずだから」「そして一網打尽にしてやればいい」
カーラ、こくりと頷く。そして、
「いやーん、痛くしないでぇ」「何でもするから優しくしてね~」
(いいって、そこまでわざとらしくしないで)
腕を縛られ、山賊のアジトに連れてこられた二人。早速、頭の前に引き出される。
先ほどの子分と同じく毛皮製のベストに獣の頭部の被り物という出で立ちではあるが、鍛え上げたと思われる筋肉質の体、太い二の腕、そしていかにも残虐そうな眼付に顔面の真横に入った古傷に針金のような髭と、荒くれ共を束ねるのに相応しいであろう姿である。
「上玉の女二人に魔動車一台か、上出来だな」「若い方は売るとしてそっちの生白いのはどうするか・・」
カーラ、黙ってキッと睨みつける。(誰が生白いのだ、こん畜生が! )
「とりあえず、こいつらも牢にぶち込んでおけ」
(・・こいつら「も」? )