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僕と重戦車  作者: からからす
僕の青春っぽいものがはじまる
5/6

魔女と重戦車が僕に始まりを告げる

僕が部室の扉を閉めた次の日の昼休み、彼女、棗いろははやってきた。



「雨澤くん、いますか」

教室にわざわざやってきて、そんなことを言うものだから、当然目立った。取り次いだ奴が、教室中に聞こえる声で「女子が呼んでる!」なんて言ったものだから、とにかく最悪だった。視線が刺さる。その辺りのメンタルはほぼ小学生だし。



ダッシュするのも恥ずかしかったし、ゆっくり歩いて行って視線を浴びるのも恥ずかしかったものだから、小走りで向かっていった。「何」というと「部活のことで話したくて」と言われる。内心で溜息をつきながら、彼女に言う。



「僕、面倒くさいことしたくないんだよね。部活もやりたくなかったし。」




彼女は視線を合わせない。きょろきょろとしながら、何か言うことを考えているようだ。少し間をあけて、あのね、と口を動かした。



「顧問の長谷部先生が呼んでるから、来てほしくて」




僕は感じた。今確実に面倒くさいことに巻き込まれていることを。






***






「あなたが雨澤くんかしら」





長谷部先生はとても有名な先生だった。噂の類に疎い僕ですら、聞いたことがあった。「妖精なのか、神なのか、うまく形容しがたいけれど、掴みどころがなく、またどこか儚げで、そしてとんでもなく美人だった。いつも少しだけ笑っていて、声もすごくか細いのだけれど、それでいて凛としていて、なんだか後光が見える」というのが小林談である。





「私ね、遊戯部の顧問の長谷部天音」




ふふっと口元に手を当てるしぐさをする。嫌味にもならず、よく似合っている。

いろはちゃんからいろいろ聞いたのだけれど、と前置きしてから、長谷部先生は続ける。




「部活は行った方が良いわね」




はあ、と曖昧な返事をする。正論を言われても面倒なものは面倒だ。




「面倒なものは、面倒よね。わかるわ。」




ふふふっとこちらを見て笑う。僕は何とも言えない恐怖に襲われる。




「ちゃんと部活に行った方が楽なのよ」




「どういうことですか」と聞くと、先生はいよいよ嬉しそうな顔になる。なんだろう、すごく美しいのだけれども、不気味だった。




「遊戯部はね、1年生が二人と、3年生が一人なの」

「はい」

「うちの学校ってね、部活に活動の実態がないと、すぐに潰しちゃうの」

「はい」

「つまりね、あなたが行かないと、遊戯部は廃部なの」

「は、」

「廃部になったら、新しい部活探さないといけないわよ。転部って目立つし。」



待ってください、と食い気味に言う。

「3年生とあと棗さんが活動すれば、解決じゃないですか」



なるほど、なるほど、とまた笑みを浮かべながら、先生はまた口元に手をやった。何を言われたわけでもないのに、僕はこの人が怖かった。



「3年生のね、部員。彼女はもう来ないわ。」



それはおかしいですよ、とすぐに異議を唱える。




「幽霊部員の3年生がただ一人なんですよね。だとしたら、部活って、僕らが入る前にとっくに廃部じゃないですか」



あんまり言いたくはないんだけどね、と先生が目を少し伏せる。



「去年まではね、その子も来てたのよ、でも、今年になったら、来ないでしょうね、あの場所には。」




そういっているうちに、昼休みの終了を知らせる、チャイムが鳴る。

僕が失礼します、という前に、先生は「それじゃあよろしくね」と教材を抱えて消えてしまった。

あれは、妖精でもなく、女神でもなく、魔女なのだと感じた。





***





授業間に合うかな、なんて考えながら、職員室を出ると、棗いろはが待っていた。






ふーっと息を一気に吐いて、姿勢を伸ばす。怖気づいた雰囲気はどこにもない。以前に一度だけ見たことがあったあの姿と重なった。




「遊戯は複数人でやらないとダメなんです」




「私と一緒に活動してくれませんか」





あの怖気づいたいつもの姿で言われたら、僕は「あ、そう」だけ言って授業に急いだと思う。

でも、目の前にいる彼女は何かが違った。




もしかしたら、別の部活を探した方が楽なのかもしれない。

もしかしたら、3年生の先輩はあっさり戻ってくるかもしれない。




でも、もしかしたら、面倒くさいじゃない何かが手に入れられるんじゃないか。




僕はなぜだか期待していた。

彼女のあの姿を見たら、何かが変わる気がした。

何かを変えたいと思った。

僕の中に眠る、僕が嫌いな何かが変わりたいと叫んでいる。




「今日の放課後」





すごく間が空いてからから僕が声を出すと、棗はうつむきかけていた顔を上げた。




「活動日、決めるんでしょ。言っとくけど、毎日とか嫌だから」




かなり棘のある言い方だという自覚はあった。だけれども、棗は目を見開いて、すぐに笑顔になった。








「ありがとう」











この日、僕は魔女に出会った。それから、ある少女に期待した。

それは、僕が彼女が重戦車であることを知っていたからなのか、知らなかったからなのか。





それを知るのは随分とあとのことになってしまった。
















次からようやく本編です

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