第3話でようやく主人公の能力判明。
ーー教室の中には予想通り4名の女子生徒が夕日に照らされて立っている。3人でまとまっている方が加害者側で、真ん中にいるのが主犯格だろう。
俺がガラガラと扉を開けると、3人は当然ながら一斉にこちらを見て固まった。その顔には見覚えがある。同じクラスなのだろう。
「えぇと…確か同じクラス、だっけ。こんな時間にどうしたのかな?」
思わず感嘆しそうになるほどの変わり身である。まぁ俺のクラスでの立ち位置って結構微妙だからな。こんなリアクションも頷ける。
「あー、ちょっと忘れ物を取りに。君らもさっさと帰りなよ?最近物騒だし」
「それは大丈夫。私の道具、結構強いから」
…なるほど、そういうことか。要するに強い道具をチラつかせて脅していた、と。そうなら俺の方もやりやすい。
「それなら良いんだが…」
そう言いながら俺は鞄を回収する。…よし、準備はOK。さて、そろそろ計画を実行しよう。
「あー、あと一つだけ聞きたいことがある」
そう言いながら俺は主犯格と被害者の背中を押して、教室の端の方まで移動する。2人とも戸惑ってはいるものの、なんとなく俺の勢いに流されてる感じだ。計画通り。
「聞きにくいんだが…君らって恋愛対象は?」
「えっ、当然男子だけど…それがどうかしたの?」
主犯格が答える。被害者はただただ戸惑っているようだ。おっ、確かに可愛い。この一点に関しては主犯格に同意だ。
「…わかった。やっぱそういうことなんだな」
「そういうことって…えっ、まさかっ」
「多分そのまさか。いやぁ、心配だったんだ。さっきのアレが特殊なプレイじゃないかってさ」
「…さっきの聞いてたの?」
「あぁ、だから遠慮なくいかせてもらおうか。『神祇要録・西寒田神社』」
俺がそう呟くと辺りは一瞬、閃光に包まれるーー。
「ーーここ、どこよ?」
主犯格の女子生徒はーーいい加減面倒だな。主犯さんでいいか。主犯さんは周りの景色を見て動揺が隠せないようだ。
「君もよく知ってる場所のはずだけど…一応言っとこう。ここは西寒田神社の境内ーーらしき場所だ」
西寒田神社。大分市にある、そこそこ大きな神社だ。俺の家から近いこともあり、初詣はいつもこの神社だ。
市街地にあるこの高校とは違い、ここは緑に囲まれ、川も流れている。なかなか美しい光景といえるだろう。
「西寒田って…これがあんたの道具の能力?」
「まぁそうなるな。だがそれだけじゃない」
「…っ。そんなことはどうでもいいよ。私の道具、強いって言ったでしょ?聞いてなかった?」
「聞いてたさ。さぁ、それを使って俺を倒してみなよ」
明らかに怒りを露わにしている。ポーカーフェイスってのを覚えた方がいいな、こりゃ。
「…言ったな。どうせ空間転移とかその程度の道具なんでしょ?それじゃあ…って、あれ?」
「もしかして君の言う『強い道具』ってこの帯留めのことか? …江戸初期あたりのか。確かに強いし、汎用性も高そうだな」
「いつの間に…。来いっ、私の帯留めっ」
「…なるほど。これ遠隔操作もできるのか。飛ばせるって…ますます汎用性高いな」
主犯さんはどうやら遠隔でこの帯留めを取り戻そうとしているようだ。こんなに情報教えてくれちゃって…俺としては大いに助かる。
「ーーなんで?なんで動かないの?」
「そりゃ動く方が驚きだな。だって今、この帯留めの所有者は俺だから」
「…まさか…あんたの道具って…」
「そう、『亜空間を創ってその中にいる人の道具をシャッフルする能力を持つ道具』だ。まぁ正確に言えば古書だが」
「なら今、私はーー」
「君が持ってるのは、さんざん笑い者にしていた被害者ちゃんの道具だ…それは電話か?」
「…そんな…。じゃあ私に勝ち目は…」
「無いとは言わないが、絶望的だな」
「……っ」
俺が現実を突きつけると、主犯さんは脱兎の如く逃げていく。まぁ、妥当な選択か。
「おっと、逃がすわけないだろ。行けっ」
所有権が移った帯留めを主犯さんに向かわせる。おお、思ったより速い。自分で強いって言うだけあるな。
しかし流石に自分の道具の性質はちゃんと理解しているらしく、主犯さんはあの手この手で俺の追跡から逃れる。具体的には障害物が多いところに逃げ込んだり、俺の死角に入ったり、ランダムに動いたり、だ。
俺もこの帯留めを使うのが当然初めてであることもあり、なかなか手を焼いたが、15分もすればだんだんコツをつかみ始めた。
ーーしばらくしてようやく主犯さんはお縄にーーいや
、この場合お紐か?ーーについた。当然ばっちり後ろ手に縛った上に神社の柱にくくりつけてある。いわゆる『くっころ』のシチュエーションだ。神社でくっころ。巫女装束ならなお良かったが…制服というのもなかなか需要がありそうだな。
「…あんた、私をどうするつもり?」
「うーん…ハンムラビ法典って知ってる?」
「知ってるけど…えっ、てことは…」
「なんと偶然にもここに俺のスマートフォンが」
今までの余裕はどこへやら、すっかりその表情は絶望で覆われている。
「…えっ…いやっ…。それは、それだけはーー」
「とりあえず俺が携帯してる手錠で…よっと」
嫌がる主犯さんを無理やり手錠で拘束する。これで下準備は全て完了。あとはこのまま流れに身を任すしかない。
「さぁ、これからどうしようか。君って顔は中の上くらいだし、スタイルもそこそこだな」
青ざめていた顔がさらに恐怖と羞恥で染まる。…少しぞくっときたのは内緒だ。これはあくまでも計画の一部なんだから。
「…そういえば、名前。あんたの名前って?」
「時間稼ぎのつもりなら無駄だけど…杜、杜社だ」
おお、また顔色が変わった。今度は…驚きか? なぜ驚いているのだろう?
「杜社って…まさかあの噂の『倒錯趣味の変態野郎』?」
「ちょっと待て。それどこで聞いた?」
「よく覚えてないけど…たしか『杜社が可愛い子に言い寄られているのに雑に扱っているのは、そういうプレイ中だからだ』とか『美人教師とデキててそっちとの主従プレイが忙しいからだ』とか…」
初耳だ。しかし美人教師はまず霖先生で間違いないだろう。しかも多分あの教師は確信犯だ。クラスで俺だけ名前に君付けして、よくこっちにわざとらしい意味ありげな目線向けてくるし。そりゃ噂も立つだろう。
俺に言い寄る可愛い子というのは…あいつか。確かにその断片だけ見たら…なるほど。俺は大した変態だ。
「…こほん、まぁそれは置いといて。さぁ、君は一体これからどうする?」
「あんたにエロいことされんじゃないの? それこそ倒錯した」
「それはこれから俺にどうされるか予想してるだけだろ? そうじゃなくて君がどうするか、だ」
「何? 私に自分から脱げって?そう言いたいの?」
「頭が回らないな、君は。…もういい、俺の好きなようにさせてもらおう」
「…いやぁっ、やめてっ。私こんなところで人生終わらせたくないっ」
あぁ、プライドも何も無くなったな。こうなったらもう、相手はただの生娘だ。シチュエーション的に言うと…この娘、堕ちた。
「はぁ…、そこまで言っててなんでわからないかな?
まぁいいか、とりあえず覚悟しろよ。これから君に一生忘れられない思い出ができるんだから…」
「ーーもうやめてくださいっ」
「ん?君は…被害者ちゃんじゃないか。どうした?大声出して」
「確かに私は彼女たちに酷いことをされそうになりました…。でも、だからこそ、そういうことの苦しみは誰よりも知ってる…と思いますっ。だからーー」
主犯さんはただただ驚いている。当然だ。多分彼女の目には今まで虐げていたヤツが救世主に見えていることだろう。
「…はぁ、可愛い子にそんなこと言われちゃうとしらけちゃうな…仕方ない。解放してやろう」
「ほんと?ありがとうっ」
主犯さんは被害者ちゃんをキラキラした目で見ながらそう言った。うんうん、ミッションコンプリート。
「いくぞ…『神祇要録』」
再び辺りは閃光に包まれるーー。