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運命の人は七人ですか?  作者: 都宮アキ
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エピソードⅠ〈運命の人、一人目〉

 七星ローザ、十五歳。

 ここ学校法人七星学園セイントマリア高等学校の理事長の一人娘だ。

 父は日本人、母はフランス人のハーフ。

 母親譲りの黄金色に光る長い髪をポニーテールにし風になびかせ、父親譲りの漆黒の瞳は大きく、ハムスターのような愛嬌がある。日本人離れした顔立ちは西洋人形のそれで、幼少の頃から彼女の周りには人が集まった。

 しかし、彼女はただ可愛らしいだけではない。その名前の由来である〈薔薇〉のような棘を隠し持っている。

 古風で厳しい祖母に躾けられた彼女は、礼儀作法は当然のことながら、勉学に護身術とすべてを叩きこまれた。彼女は厳しすぎる祖母に反発を抱いた時もあったが、基本的に根が素直で真面目なので祖母の態度に愛情を感じ取り、おとなしく祖母に従った。

 文武両道、才色兼備を絵に描いたような完璧なお嬢様だったのだ。

 彼女は自信に満ち溢れていた。それは常に弧に描かれた口元に表れている。

 そんな彼女は今日である四月七日に高校生となった。

 もちろん、自分の父親が運営をしているセイントマリア高等学校に入学した。中等学校までは別の私立の学校に通っていたのだが、高等学校に上がる際、父の元で学びたいという意識が高まり、進学を決めたのである。

 彼女の知り合いは誰一人としてこの学校に進学した者はいなかった。

 それに少々の不安と期待とを彼女は抱いた。

 友達が出来なかったらどうしようという不安。

 それと同時に、新たな出会いに期待し興奮もしていた。

 家から学校までは離れていない。

 というより、学校の隣に家が建っていた。

 大きな敷地の大きな屋敷。築百年は越える煉瓦造りの歴史的建造物に、広々とした庭には赤、白、黄色と、様々な色や種類の薔薇が植えられていた。

 持ち主を知らぬ通りすがりの人は、皆一様に『薔薇屋敷』と認識していた。

 その『薔薇屋敷』が自宅である彼女は、わざわざ正門から表へと出て隣の敷地にある学校へと向かった。

 そのあとを黒服の男性三人が付いてくる。彼女の護衛だ。

 本来であれば車での通学か、『薔薇屋敷』の敷地内にある学園への出入口を使うべきであるが、彼女がそれを拒否したのである。

 折角の高校生活だ。車という小さな世界に押し込められたのでは堪ったものではない。

 彼女は清々しい気持ちで舗装された道を歩く。そうすれば左手に学校の塀が見え、その向こう側から桜の木が枝を伸ばしていた。

 桜は満開だ。

 ちらちらと花びらが風に舞う。

 彼女はそれを見て最高だ、と思った。

 半分だけではあるが体を流れる日本人の血が桜の美しさに見惚れる。

 空は晴天。

 今日はいい入学式になりそうだ。

 正門には人だかりが出来ていた。皆、正門に飾ってある『第百五十七回 入学式』という看板が目当てだったらしい。親子で、あるいは友人同士で賑やかに騒ぎながら写真撮影を行っている。

 それを微笑ましく思いながら彼女は正門をくぐり抜ける。

 これからはじまる新しい生活に喜びを感じて。

 笑顔の彼女。しかし、その直後、笑顔は消え去る。

 いきなり頭が痛くなった。ひどい頭痛だった。今まで味わったことがない痛みに、彼女は眉根を寄せ呻いた。あまりの痛みに立っていられない。彼女はバックを取り落とし、膝をつき頭を抱えた。

 誰か、助けてほしい。

 そう思うも痛みは一向にひく気配はない。

 そんな彼女の異変に当然、周囲の人間は気が付いた。

 いきなり地面にうずくまった少女に驚き、周囲は一瞬呆け、遠巻きに見ていた。

 いち早く駆け付けたのは後方からやってきた彼女の護衛だ。

「ローザお嬢様、大丈夫ですかっ!?」

「救急車を」

「いや、先生を呼んだ方が早い。恐らく、医務室にいるだろうから呼んできてくれ。でなければ校内放送でもなんでもいいから呼び寄せろ」

「はっ!」

 三人の護衛の内、一人は校舎に向かって駆け出して行った。

 その後も残った二人の護衛は彼女に声を掛け続ける。

 しかしそれに構っていられない。

 彼女はとにかく頭が痛かった。

 何も考えられないぐらい。

 しかし、ふっと楽になる瞬間があった。

 彼女は恐る恐る目を開けた。

 そして、視線をゆらゆらと動かし、ようやく見つけた。

 前方に自分と同じように地面にうずくまる人がいる。

「あっ……」

 彼女はその人を見て、頭痛が一瞬にして無くなった。

 それから彼女は思い出した。

 自分はその人を知っている。

 そう気が付いたとき、居ても立ってもいられなくなった。

 パッと立ち上がると周りの目も気にせず、彼女は走り出した。

 その人目掛けて。

「お嬢様?!」

「お待ちください、お嬢様!」

 護衛の二人からの声。

 しかし、そんなものに構っていられない。

 彼女の顔に喜びが浮かんだ。

 目はきらきらと輝き、頬は赤く染まった。

 まるで恋でもしているような表情だった。

「あなたっ!」

 彼女はうずくまるその人の前で立ち止まると、そう声を掛けた。

 その人は少年だった。

 真新しい体のサイズに合っていない制服からして同じ新入生なのだろう。

 彼女はこの幸運に感謝した。

「見つけた……見つけられて……よかった……あなたにまた会えて、よかった……」

 そう彼女は感極まり泣いているような震える声で言葉を発した。

 そしてうずくまるその人に視線を合わせるように跪き、そのままギュッと抱きしめた。

「嬉しい……嬉しいは……ブレイド……」

 彼女はついに涙を流した。

 彼女の中では様々な記憶が今、駆け巡っていた。

 それは前世と呼ばれる記憶。

 遠い遠い過去。

 おとぎ話の中のような古い時代。

 そこでは自分はとある国の姫だった。

 おとなしくて可愛いお姫様。

 そんな彼女が唯一愛したのは、自分を守ってくれる騎士だった。

 名前はブレイド。

 国に戦火の中で離ればなれになってしまった愛しい人。

 許されぬ身分違いの恋に身を焦がしながら、それでも愛を誓ったその人。

 最後の別れの時。

 その人と誓ったのだ。


――生まれ変わっても、また恋人に……私を愛して……


 彼女は生まれ変わった。

 そして、目の前の彼は前世のその人だ。

 今まですっかり忘れていたが、これも愛する人に会えたので記憶が蘇ったのだろう。

 よかった、会えて。

 思い出せて、よかった。



「私の、運命の人……」



 ローザは腕の中の彼の耳元でそっと囁くのだ。




エピソードⅠ・END

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