6話
病院に毎日のように通う事三日。娘の様態が良くなる事はなく、当然原因も分からずじまいのままであり苛立つことも多くなる。
慶太の頭には二つのことが常にある。金と娘の命である。
金をどうにかしないと娘の命を救うはおろか、自分自身も生活できないのである。
面会時間を過ぎた暗い院内の休憩所で長いすに座りぼーっとしながら携帯を眺める。
消費者金融でも頼ろうか…しかしまともに働いていない俺が借りれるとしたら不通の金融屋じゃ無理だよな…馬鹿な俺でも分かる…くそったれ…
住んでいるアパートを今月内に追い出されることも予想はできていたし、当面の生活をする金と言っても残り数万が限界であった。
こんな状況を打破する画期的な方法が思いつかないまま、頭を抱えていると慶太の携帯が甲高く鳴った。
その音にびくっと反応し、慌てて携帯画面を見た。
「あ?」
その時目の中に飛び込んできた画面の文字に驚いた。
「何だ…これ…」
携帯画面は黒く、白文字で『あなたの願いを叶える、神のゲームに参加しますか?はい、いいえ』と書かれていた。
誰かのいたずらかと思い、周囲を二、三度見回すが、そこには誰の姿もなかった。
いや…まてよ、あの話からそんなに時間が経っていないから竜也の悪ふざけかとも考えた。アドレス名を見ようと考えたが、更に驚くことがあった。
アドレス名がない…
完全なる空白であった。だとしたらこれはどうやって送られてきたのだ?さっぱり分からなかった。
理解に苦しんでいると、そのメールは変化を見せる。元々送られた文面の上に重なるように新たな文面が出てきたのだ。こんな機能は携帯電話にないことは承知だったからますます混乱する。
『決断まで残り二十秒…』
それはカウントダウン方式で、数字がどんどん減っていく。それが何を意味しているかは分かった。決断しなければそのままこのメールは消えるのだと。
おい、どうする?こんなことが現実にあるのか?やらせか?変な勧誘か?
慶太は慌てていた。冷静に考えようと思えば思うほど、頭の中はごちゃごちゃしていった。その間にも数字がどんどん減っていった。
残り五秒とまで迫った時、自分には選択が残されていないことにようやく気づく。
今は…何でもいい…すがるしかないじゃないか…俺には何もないんじゃないか…こんなものでも…嘘かもしれない、騙されているかもしれない。でも…すがるしかないじゃないか…
今思うと、竜也の言っていた、何かにすがりたいっていう話が分かった気がした。そのまま、『はい』の選択画面にカーソルを合わせると決定のボタンを力強く押した。すると残り一秒の段階でカウントが止まった。
何故かそれだけでほっとしてしまった。そしてそのまま画面を見ると、新たな文字が出てくる。
『後日、ご自宅へとお迎えに上がります』
竜也の話していた通りである。ここまで噂話が順調に進んでしまうと、今が現実なのかどうか怪しく感じてしまった。ゲームの世界にでも入り込んだように…
慶太はとりあえずその場を離れたい気分になり、病院を逃げ出すように出て行った。