5話
「そういや…今年の正月に中学の同窓会があったぞ?」
「へぇ…お前出たのか?」
「ああ…とりあえずな…なんか沈んだ気分だったからちょっと変えたくってな」
「ま…お前ぐらいの優等生なら出れるかもしれないがな…俺は無理だな」
「はは…かなり無茶していたからな、お前…」
「そんな俺に付き合ってつるむお前もおかしな奴だったけどな…興味本位で近づく馬鹿がたくさんいる中でお前…本当に自然だったからなぁ」
「昔の話だろ。大体思春期ってのはそんなもんだよ。押さえきれない力ってものをどこに向けたら良いのか分からずいろんな所に発散させて、後悔すらしない…でもさ…時間が経てば気づく奴は気づくのさ…」
「何だか…お前と話してると落ち着くよ」
「そーかい?」
飲み干したカップを見ながら慶太はどこかほっとした。今まで周囲と隔絶したような生活で無我夢中だった。そんな中で竜也と偶然出会えたことは自分にとっても良い事だと思えた。
「とろろで…最近噂になっている怪しいサイトがあるんだけど知ってるか?」
「サイト?…いや…俺、インターネットとかやんないから分かんないな」
「ま…本当かどうか分からないんだけどよ、巷で『神のゲーム』とかって呼ばれているサイトがあるらしいんだ…それでそのゲームに勝つと、望みを何でも叶えてくれるらしいってことなんだけど」
そんな漫画のような話を聞いて慶太は目を丸くした。そんな与太話とは縁のなさそうな竜也の口から出たことだけに驚きも大きかったのだ。
「あのなぁ…そんな嘘みたいな話本当に信じている奴いるのかよ?そもそもそのゲームで勝ち残って望みを叶えてもらった奴って実在するのか?いたとしても言わないだろ?普通」
「それは知らないな…でもネット上での書き込みが異常なぐらい出ていて、噂だけが一人歩きしているようなものなんだ…」
「しかしなぁ…そんな何でも願いを叶えるだなんて非現実的なこと実際に起こるのか?」
「あくまでも噂だからな。でもよ…そんなものにすがりたい人間ってのも少なくはないと思うけどな…」
「どういうことだ?」
「いやいや…その…そういう何かにすがりたいっていうぐらいまいっている人間だって多くないってことだよ」
慌てて何かを否定するだけに気になってしまったが、慶太はそのまま流す事にした。そしてそんな非現実的なことを簡単に信じてしまうことはできなかった。
話しついでだったのでそのサイトのことを詳しく聞いてみようと慶太から質問をした。
「それで?そのサイトってどうやってアクセスするんだ?」
「それがな…勝手に個人の携帯に案内状が来るらしい」
「はぁ?」
「いや…俺だって信じられないよ。都市伝説みたいな話なんだから…それでな…その案内状に返事を出すと迎えが来るらしいんだ。黒塗りの車が家の前まで来て、どのようなことをするのかも会場も不明なまま連れていく…」
「マジかよ…やっぱり、ぴんとこないな…怪しい勧誘に近いぞ、それ…」
「信じるか信じないかは、その人次第ってことだ。話題にはなるからその程度で流しておいてもいいんだよ」
「そうだよな。願いを何でも叶えるだなんてことができたら世の中大変なことになっちまうしな…」
コーヒーを最後まで飲み干すとそこでその話は終わった。
それから少し談笑すると二人は携帯の番号を交換するとそのまま別れた。慶太は別れて歩いていると寂しい気持ちになった。
久々に気の会うやつと話すことができ、学生時代のことを思い出してしまったから、どこかセンチメンタルになっていたのかもしれない。
子ども、仕事…現実というものが、嫌でも突きつけられ何も考えなくても良かった学生の頃にはもう戻れない。
あの時、自分が違う選択をしていたらこんな人生にはなっていなかったかもしれない。そんなことを何度も考えてしまった。
願いを叶えられるとしたら…あの頃に戻る?
無理だよな…
思わず失笑しながら歩いていた。