4話
「煙草吸ってもいいか?」
竜也はそう断ってから煙草に火をつけた。
「お前…その律儀な性格変わってねぇーなぁ…」
「え?何で?」
「喫煙席に来てるのにわざわざ断る馬鹿お前だけだよ」
「そうかぁ?まぁ…でも性格かもな。前も何人かで飲みに行って大皿でから揚げ頼んだ時に添えてあるレモン掛けていいかって断ったしなぁ…」
「それは当然だろ」
「そうなのか?」
煙草を二人で吸いながらくだらない話をしている。
「お前…今何してる?」
久しぶりに会ったもの同士のお約束とも言うべき会話であったが、竜也が慶太に振ってきた。やましい事があれば隠すのだが、特に隠す事もないと思い最近の自らの実情を話した。
「へぇ…お前が結婚して子持ちねぇ…」
以外だなといった表情でコーヒーをすすった。
「別に…珍しくもないだろ?もういつまでも若いなんて言ってられないんだ。現実を見る時期って奴だよ。そういうお前はどうなんだ?俺と違って頭も良いし、いいところに勤めてそうだよな」
「そんなことない…いくら良い大学出ても就職難のこの時代だとコネやら金やらスキルがないと厳しいんだぜ。今勤めている会社だって就職活動三十社めでぎりぎり内定をもらった二流のIT関連業者だ。職場の人間もひん曲がった人種が多くて相手の粗さがしやら嫌がらせが生きがいみたいな感じでストレスが溜まる毎日だ」
「それでもすげーよ…俺なんか明日はどうなるかわからない短期アルバイトみたいなものだからな…時給も安ければ、単調な業務の繰り返しだ…時々自分が機械みたいに感じてしまう…」
「ま…人生の大半は同じ仕事の繰り返しだからな…それも四十年以上も同じものをやっていたら俺もそうだが、どこかおかしくなりそうだ…」
「それは同感…」
「あの頃が懐かしいよなぁ…難しいことも考えなくて良かった学生時代…」
竜也はしみじみとそんな言葉を口にした。
互いに二十代前半の終わりを向かえ、社会人数年しか経験していないのに人生の空しさを感じていた。
「とこおでお前は何で病院から出てきたんだ?どこか悪いのか?」
二本目の煙草に火をつけると話題を変えた。
「いや…俺じゃなくて娘がな…厄介なことに原因不明の病気なんだよ」
「原因不明?」
「ああ、熱がもう一週間近く続いて回復する様子がないんだ。医者にも大きな病院で調べてもらった方が良いって言われた」
深刻な話を伝えるのに暗くならないように出来るだけ明るく振舞いながら口にしたが、竜也はそれがただ事ではないことを感じ取っていた。だから相手に合わせるように最低限の言葉で対応することを決めた。
「そうか…それは可哀想だな。大きな病院で検査っていったら金も結構掛かるんじゃないのか?」
「多分な…」
嫌なことを思い出して思わず遠くを見つめてしまった。そんな慶太のことを察して竜也は話題を再び変える。