3話
「これは…現段階では、はっきりと何の病気かと断定できないねぇ…」
今まで撮ったレントゲンやカルテを見ながら医者が渋い顔をしていた。
「はぁ?風邪とか…そういった類ではないんですか?」
「確かに似たような症状ではあるけど、今の状態では何とも言えないねぇ。細菌に感染しているかもしれないし…稀な病気かもしれない…いずれにせよここでの設備では原因を追究することが困難でね…はっきりさせるとなるともっと設備の良い病院でないと無理なんだよ」
「いや…あの…それってこの近くにあるんですか?」
「この県内にはないね。大きな大学病院ではないと…」
「ちょっ…なら…どうしたらいいんですか?」
「とりあえず紹介状は書いてあげるから受け入れが決まるまで、ここで一時入院という形をとって様子をみようか…」
さらさらとカルテに記入しながらそのように提案してきたので、言われるがままに従った。しかし慶太は気になるところがあったので質問した。
「あの…費用ってかなり掛かるんですか?」
「ふむ…君は公的医療保険には入っているけど…民間の保険には何か入っていないのかな?」
「それは…入っていないです…」
「それなら…まぁ…高額医療費は一般の人なら八万円を超えたものはその一パーセントだけを払えばいいってところだけど…現段階ではいくら掛かるかは予想はできないんだよ。しかし…大学病院で扱われている最新機器を使ったりしていろいろ調べてもらうとなるとそれなりの金額は覚悟してもらわないとね…」
「そうですか…」
「一週間もあればきっと大きい病院には移動できるから」
そのまま娘の由良は入院することになったのだが、慶太はこれからどうするかを考えた。
由良の様態が悪くなってからずっと仕事を休んだものだから、勤め先はとっくに辞めさせられてしまったのだ。収入がない上に万単位の金額を何度も請求されては生活ができない。そして慶太には二百万に届く借金もあるから八方塞のようなものであった。
自分で蒔いた種とは言え過去を後悔してみるがもはや手遅れであった。今更離婚した妻に泣きついたとしても無視されるのがオチだけに頼りたくはない。
実家は離縁してしまったからここに頼るのも無理であった。
「しかしなぁ…由良のことを考えたら俺のプライドなんて関係ないよなぁ…」
独り言が思わず口に出てしまった。なりふり構わず金をかき集めるのなら土下座でも何でもした方が得策なのだ。見栄など今の慶太にとって何の役にも立たないのだ。
どうしたら良いものかと悩みながら病院の側をうろうろしていると、後ろから声を掛けられた。
「あの…高木…慶太さんですよね」
「え?」
振り返るとそこにはスーツを着た若い男が立っていた。眼鏡を掛けていかにも会社員といった感じであった。
「そう…ですが…」
まさか金を借りているところが取り立てにきたのだろうか?そんな風に警戒しながらその男を見る。すると、男は表情を緩めた。
「やっぱりそうかぁ…慶太、俺だよ。西中で一緒だった竜也だよ。高崎竜也」
名乗ったことで慶太も警戒心を一気に解いた。
「竜也…あ…あの竜也?」
一瞬誰なのか分からなかったが、よく見ると間違いなくかつての友人であった。
「それにしても…変わったなぁ…お前眼鏡してたし少し太っていたから分からなかったよ」
「だろーな。高校も別々になったしあれから七年も経っているんだ。っていうか…お前時間大丈夫なのか?」
「ああ…」
「ならここで話すのもなんだからさ…近くのコーヒーショップでも行こうぜ」
夏前とは言え少し冷えてきたので場所を変えることにした。