2話
この三年間慶太は由良のために変わった。
以前は妻の話にあったように街をふらふらして、頭脳ではなく力でいろんなものをねじ伏せた。若いというだけで何も怖くはなかった。そしてそんな純粋な力に憧れて擦り寄る女もたくさんいたのだ。
毎日が新鮮で刺激的ではあった。自分を頼ってくる友人もたくさんいたからその手助けをすることで使命感も感じていたのだ。自分は必要とされている、自分がいなくては困る人間もいる…そう信じていたのだ。
しかし周囲の人間も時間と共に変わる。いつまでも馬鹿をやっていられなくなるのだ。親を頼らず生きていく…そんな生活のことを考えると無計画な毎日を送ることはできなくなるのだ。社会的にも未成年ということで護られることがないこの現状では無鉄砲だった人間にも制限と言うものが加わる。そしてこの先何十年と続く自分の将来のことを考えると、現状をどうにかしなければならないという結論に達してしまうのだ。
現に数年前から一人、また一人と慶太の周りの人間は何かしらの定職を得た。中には道を踏み外し警察に捕まった者もいたが、慶太の周りからはどんどん人が離れていった。
だからこそ定職につけなかった慶太にとって巨大な空しさを感じることになる。自分には未来がない。今はこのままでもいい…このままこの生活を続けたらどうなるんだ?
そんな焦燥感を抱くようになった時に子どもができたということを聞いたのだ。
これは何かの啓示なのかもしれない。自分が変わる機会かもしれない。根拠はないのだが勝手にそう解釈してしまったのだ。
生活は楽ではない。それもそのはずで、慶太には資格もなければ学歴もない。今まで積み重ねることもなく自由に過ごしてきたつけが出てしまった。
生活を支えているのは短期のアルバイトばかりであった。元々働くことに慣れない慶太にとって我慢ということは難しくもあり気性の荒さも加わることでくびになった職も数多く存在した。
それでも最近は落ち着いて一つの所で働けるようになった。幾度と重ねる短期のアルバイトが彼の忍耐を強くしていったのだ。そしてもう一つは由良を養わなければならないという追い込まれた状況で支えられた。
毎日自分の意思とは関係なく働かされているような感覚に陥りながら家を出て、帰ってくるの繰り返しであるが、娘がいるというだけでそんな不安もかき消され生きているということを実感させられた。しかし現状が厳しいということは変えることはできない。
先の見えないことには違いなく焦燥感だけは拭えずにいた。
「はぁ…」
知らず知らずに吐き出すため息の数も増えていた。子どもの寝顔を見ながら安い発泡酒を飲み、テレビを見ている時だけがささやかな幸せでもあった。
以前の自分だったらこんな些細なことで充実感を得られるなど考えられないな…
そんなことを呟きそうになりながら思わず笑みを浮かべていた。
金はないがこれからは二人で精一杯生きていこう…
多少酔いは回っていて普段よりも気が大きくはなっていたが、自分を励ますかのように密かに誓っていた。
それから数ヶ月後、生活は大分落ち着き娘も妻の存在を気にしなくもなっていた。
「さぁ…由良…保育園に行く準備をしようか…」
慶太がいつものように由良を起こしに行くと、いつもと違う娘の様子に驚いた。
顔が異常に紅く呼吸も乱れている。
それを見るなり慌てて病院に連れて行ったが、医者は風邪の症状ではないかと診断をしてその日は帰った。
しかしそれから数日経っても一向に治る様子がなかった。薬を飲ませ、寝かせてはいるものの回復に向かっていることはなく辛そうな状態のままであった。
流石にこのままではまずいと判断し、再度病院へと連れて行き、薬の効果がないことを話した。
すると同じ医師から驚きの言葉が飛び出した。