10話
「さて…時間ですので、いよいよこのゲームについてご説明をしたいと思います」
空想上でしか起こりえない出来事をまるで当たり前のように話すからその場の人間も黙っていられない。
「ちょっと待て…これって…本当にあの『神のゲーム』と世間を騒がしているものなのかい?いや…そもそも…願いを叶えるって現実的にあり得ないんじゃないかな?これは何だ?ネット上の話題に便乗したどこかの金持ちの余興みたいなものか?」
四十代のひ弱な男が口を開いた。
「それは違います…本当にあなたがたの願いを叶えることができます。そう…心の底から叶えて欲しいと思う自らの命に匹敵する強い願いをね…」
「それをどうやって叶えるんだ?金か?しかし…金で叶えられないような願いも存在するんじゃないのか?」
ひ弱な男は不安でいっぱいなのか次々に質問をした。しかし答える包帯男は淡々としていた。
「大丈夫です…何故なら…我が主は神ですから…不治の病を治すことだろうが、不老不死だろうが、死んだ人間だろうが生き返らせることまでも可能です。これには嘘偽りは決してございません」
「死んだ人間も生き返らす?」
「はい…何故なら、これから行われるゲームも現実ではあり得ないことばかりなのですから当然の結果とも思われます」
「一つ聞きたい…このゲームに参加するといっても我々はメールに返事をしただけだ。ここで降りると言っても問題はないんじゃないか?」
別の男も質問をした。それには慶太も同じ意見であっただけに答えを聞きたかった。
「それは無理です。あのメールでの返事は絶対であり契約成立のようなものなのです。誰ひとりとして今からお帰りいただくことはできません。ゲーム終了次第お帰りいただくということで…あ、心配しなくても帰りの車もお出ししますよ」
質問する側との温度差がかなりある返答の仕方なので緊迫感が失われつつあるのが、そんな中でも声を荒げる者もいた。
「そんなの法的には無効じゃないか!契約も何もサインもなければ捺印した訳でもない」
「そうだと思います。説明を聞いてからこのゲームをやるかやらないかは自由なんじゃないんですか?」
それぞれが口々に不平不満を話すが三十代の鋭い目をした男と、二十代の男たちは黙っていた。
「ふふふふふ……あなた方は何を言ってるんですか?この期に及んで法律を持ち出すとは…人外の力によって願いを叶えると話している時点で法など無意味だとは思いませんか?この場所こそが外界とは隔絶された空間といっても過言ではありません。つまり外界のルールなど適用されません。ここでのルールに従ってもらうだけなんですよ…それに…メールの返事のボタンを押す時…あなた方は何を考えましたか?分かっているはずです…縋るところはここしかない…我が身を賭けたとしても…と…必死に願ったはず…そしてその想いそのものが産んだ結果がここにあると思ってください」
誰しもがその男の話すとおりにメールの返信ボタンを押したから何も言えなかった。沈黙が空しく流れ、それをゲームを了承したこと判断し包帯男は話を戻した。
「それでは説明いたしましょう。これから始まるゲームについて」
包帯男がぱちんと指を鳴らすと空中にスクリーンが現れる。天井につるしてあるわけでもなく、突如現れたスクリーンはまるで魔法のようであり、近未来映画のワンシーンのようでもあった。