6
「何度見ても不思議だなぁ」
「そうですか?私はもう慣れましたが」
「便利さに慣れてしまうと先には進めませんよ」
「はあ、そうかもしれませんね」
どう見ても年下のテツ少年に諭されたが、なんだか噛み合っていない会話にチウィオは適当に相槌を打つ。
おざなりにしているつもりはないが、変に言い返してまた問題が起こるのは避けたいのだ。
「でも、本の題名が一言一句あてはまらないと探せないのは不便ですよね」
「本当は単語で検索出来ない訳ではないのです」
「そうなんですか?」
「出来ない訳ではないのですが、意味がないのですよ」
「というと?」
「例えば料理に関係する本を探すために『料理』という単語を記入し検索したとしましょう」
チウィオは手の中にある手のひら大の用紙をテツに見せる。
「検索をかけたと同時に、この紙は目に見えないほどに細切れになります」
「えっなんで」
「料理に関する本というだけで何冊該当すると思いますか」
「えっと…多い、ですか」
「記録として残されている題名だけでも約40万冊分あります」
「40万…」
「仮に40万、この紙が該当の本へ向かおうとすれば」
「…その数の分だけ紙が分散する?」
「ご理解いただけだようで良かったです。しかも、ちりじりに各本の場所へ向かいますから、追うに追えません」
「なるほど…」
そのため、単語での検索は出来るが意味がない。
「じゃあ、単語を組み合わせて検索はできないんですか?」
「単語を組み合わせる、ですか」
「例えば先程の料理に関係する本でも『どこの国』『どの地方』『利用する食材』とかだけでも結構絞れると思うんです」
「なるほど」
確かにそういう検索の仕方はしたことがない。
(これも異界の知識なのかな。面白いことを考えるものだ)
感心しているチウィオに警告をしたのはインデであった。
『してはならん。それは危険じゃ』
のんびりとマンガを読んでいたはずのインデの硬い声にチウィオは瞳を瞬かせた。
何故危険なのか、目線でインデに問うが首を振るだけで理由は返ってこない。
おそらく今は言えない理由があるのだろうと、テツとインデならばもちろんインデを信用しているチウィオは疑問に思いながらも今は適当に流すことにした。
「面白い考えですが、気軽に試すことはできません。後で館長に報告しておきます」
そう言って会話を中断させ、ひらひらと舞っている用紙へ目線を戻すと地下へと続く通路へ吸い込まれていった。
地下へと続く通路の前には常に警備員が配置されている。顔見知りの警備員に軽く会釈をしてチウィオは後ろにいる2人へと顔を向けた。
「ここから先は地下の危険区画になります。今回は一般開放区画のみの案内になりますので先には進めません。申し訳ありませんが、今検索した本は今日は諦めてください」
「この先にも本がたくさんあるんですよね」
「ええ、数えきれないほどに」
「ティーチさんならいつでもこの先も行けるんですよね」
「それは、司書ですから」
「じゃあ、ティーチさんと一緒なら行けるんですよね」
「はぁ、まあ」
何を言いたいのかがつかめず、チウィオは首を傾げる。
「じゃあ、行きましょう!!」
「は?」
「この迷宮は他と違って強い魔物は出ないってリディから聞きました。だから行きましょう!」
こいつは何を言っているんだ。と、チウィオが思ったとして誰も責めることはない。
案内する前に今回は一般開放の区画のみと話はしてあるし、しかも領主の娘であるリルデリアが一緒なのだ、危険区画へ連れて行けるわけがない。
「御2人に何かあってはいけません。先に行きたいのならば所定の許可を取得してからお願いいたします」
呆れる気持ちを抑え、事務的に返答をする。
だが、それではテツに伝わらなかったのか、さらにチウィオへ訴えてきた。
「少しだけですから!何かあっても大丈夫。俺、これでも強いし!!」
「テツさんが弱いとか強いとかの理由ではありません」
その自信はどこからくるのか、呆れを通り越してきたチウィオだが事務的態度を変えずに返す。
そんな態度が気に入らなかったのか、今度はテツの腕に絡んでいたリルデリアまでもが口を開いた。
「テツ様が大丈夫と言うのですから良いではないの。案内なさいな」
「許可がありません。案内できません」
「わたくしが許します。案内なさい」
「僕からもお願いします!」
「…できません」
チウィオの声はだんだんと低くなっていることにテツとリルデリアは気づいていない。
チウィオはテツがなぜ異界の知識を持っているのか知らないし、どういう生活をして経験を積んできたのかも知らない。
けれど、ラズリを甘く見ているというのだけは、理解できた。
ありがとうございました。




