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ゆらゆら揺れる黒髪の少女、インデは面白そうに笑っているだけ。チウィオがどれだけ睨んでも意に返さない。
インデがなんであるのか、チウィオは詳しく知らない。
本人に聞いたことはあるが、「ラズリの管理者だ」としか答えてくれなかった。それ以上でもなく、それ以下でもないと。
チウィオがはっきりと知っているのはこのインデがラズリの”司書を選ぶ基準”であるという事ぐらいだ。
基準は簡単。インデが気に入り、インデの声がわずかでも聞こえれば合格。
チウィオにはなぜかいつでもどこでも声どころかインデの姿まで見えてしまうから即採用となったのはもう懐かしい話だ。
しかし、今回はその基準が不幸を呼んでしまった。
「異界?」
クロウディアが呟いた。
インデの声でそこだけが聞こえたのだろう。思わずといった様にこぼれてしまった。
その瞬間、検索された用紙を受け取り、本を探しに行こうとしていたテツ少年の足を止めた。
「今、なんて言いました!!?」
振り向いてクロウディアに迫り、手を握り締めて問い詰める。
「え、えっと」
「今”異界”って言いましたよね!言いましたよね!!」
キラキラと目を輝かせるテツ少年。
一緒にいた少女は面白く無さそうにクロウディアからテツの手を引き離した。
「あなた、テツ様に何をしましたの!!」
「いや、何も」
「嘘おっしゃい!何か誘導するような事を言ったのではなくて!」
「だから何も」
「言い訳は結構!この者を捕らえなさい!!」
話を聞かない少女の弁にずっと黙って護衛についていた男が剣の柄を握った。
「リディ!やめるんだ!!」
「いいえ!テツ様に仇をなすものは何人たりとも許せません!」
慌ててテツ少年がリディと呼ばれた少女を止めるが少女は止まらない。
少女の命令を聞いて護衛の男が剣を抜いたそのときであった。
『妾の司書をいじめるでない。ここから去ね』
インデのその一言でリディとテツ、そしてその護衛の男も図書迷宮から姿が消えた。
管理人であるインデはラズリから気に入らない人を追い出す事が簡単にできる。特に司書に迷惑をかける輩に関しては容赦がない。
目の前から消えたことでクロウディアはホッと息をついたが、座っていた椅子をずり落ちるように頭を抱えた。
「もー…今日もこれで残業確定じゃないのよ。何なのあの勘違いお嬢さん」
「…お疲れ様」
それ以上にチウィオからかけられる言葉は無かった。
「今聞こえなくてもいいのに…」
「そうだね…」
『すまぬの。不用意な発言をしてしまったようじゃ』
インデの声はインデが届けたいと思っても届かなかったり、なんでもない時に聞こえてしまったりしている。
インデも何とか制御しようとしているのだが、なかなかにうまくいかないらしい。制御できないものは仕方がない。が、タイミングが悪かった。
「あのお嬢さんどう見ても貴族よね。しかも位の高い」
「だね。後から何か言ってこなければいいけど」
「…しょうがない。ちょっと館長に報告してくる」
「いってらっしゃい」
席を立ち、気落ちしながら奥の部屋へと向かうクロウディアの背を送る。
(やっかいな事にならなければいいけれど)
もうこれ以上何も起こらない。と、言い切れる自信はチウィオにはなかった。
ありがとうございました。




