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ありとあらゆる本が取り揃えられている図書館「ラズリ」。
その蔵書の数は一度きりの人生では読み切れることは無い。
ラズリにはその人が求める本が必ずあると言われている。
しかし、求める本に出会えるかどうかは分からない。
さらにはせっかく見つけた本も一度きりの出会いで終わることもある。
何故ならばラズリは図書館でありながら迷宮でもあるから。
昨日あった場所に見つけた本が無いなんて日常茶飯事。
手に取ろうとした瞬間に目の前で消えるなんて通常運転。
ここはラズリ。図書迷宮である。
「貸出を頼む」
「畏まりました。貸出ですね。では貸出カードをお出しください」
「ああ」
置かれた本と差し出されたカードを受け取る。
カウンターに置かれた3冊の本をチウィオ・ティーチは慣れた手つきで貸出準備をし始めた。
体術の本に剣術の本、英雄譚の3冊。
見た目は駆け出しの冒険者っぽくはない。伸び悩みをしているから何か別の技術を模索中。英雄に憧れているからそこからヒントでも得ようとしているのかもしれない。でも、こういったことは本を読むより実戦で学ぶほうが良いとチウィオは思う。思っても、決して声には出さないが。
『――本で学んだことは実戦では上手くいかないのが世の常ではないのかえ?』
そんなチウィオの気遣いを無視した発言が耳元でされる。
だが目の前にいる話題にされた冒険者らしき人には聞こえていない。
表情を変えないように努めてチウィオは貸出手続きを進めた。
「貸出カードは緑ですので期間は10日間となります。貸出期間内に延長を申込みして頂ければ延長も出来ますが、貸出期間が過ぎれば本は勝手に当館へ戻り、どこかへ保管されております。再度探す場合には基本的に自力になりますのでご了承ください」
「わかった」
淡々と事務的に注意事項を述べて貸出カードと本を渡す。
借りた側も初めてではない為素直に頷いて本を持って去って行った。
剣術と体術に関しては会得するのに一週間では無理のはず。延長申請を忘れなければいいのだが。と思いながらも無言でその背を見送った。
『ふむ。英雄譚はまだしも体術と剣術は10日では無理であろうに』
せっかくの無言が台無しである。
「インデ」
他の人に聞こえないようにチウィオ小さな声でつぶやいた。
『なんじゃ。何を不満げにしておる』
「あまり利用者がいる前で話しかけないでって言ったよね」
小声で抗議をするチウィオの目には黒髪の少女が浮かんでいた。
ゆらゆらと風もないのに黒髪が揺れ、大きな瞳を瞬かせるその姿は見ることが出来れば誰もが振り向く美少女。
そう、それが誰にでも見えるのであれば。
「インデ。君は他の人は見えないのだから。僕が反応したら僕が変人になってしまうんだよ」
『良いではないか。変人になれば妾ともっとずっと一緒に籠れるのであろう。籠って本に埋もれて暮らせばよい』
「魅力的な話なんだけどね、ラズリは人手が足りないし、変人になったくらいじゃ辞めさせてもらえない。周りに遠巻きにされるだけで終わるだけだよ。僕のストレスが増えるだけ」
『で、あるか。つまらぬのぉ。妾が見える人など、何百年ぶりかというのに』
「それに、僕は人だから。本だけじゃ生きていけない。働いて、稼いで、ご飯を食べなくちゃ」
『そうであるな。そなたが死んではもっとつまらぬ。自重しよう』
「そうして」
ゆらりと揺れた少女はそのまま掻き消えた。
「すみません」
「はっはいっ」
インデが消えてすぐに声をかけられたためにチウィオは声が裏返ってしまう。
声をかけてきた利用者も何事かと怪訝な顔をしていた。
これでは本当に変人扱いされてしまうとチウィオはすぐさま顔を引き締めて対応に移った。
「ご用件はなんでしょうか」
「えっと、貸出期間の延長を」
「畏まりました。貸出カードと本を出してください」
「はい」
テキパキと行動を始めたチウィオに利用者は安心したように本を渡した。
見切り発車な所もありますが、よろしくお願いいたします。
ありがとうございました。




