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「まさか。いつまでかかるかわからないエルフとの交渉があるのに、余計な荷物まで持って来たりしませんよ。ましてや、飛竜を呼び寄せるアイテムなんて一介の商人が持ち歩くことなんてできません」


 どんな国でも無許可でそんなものを持ち込んだ日には、飛竜の群れを呼び寄せて侵略やら内乱を企てたとして国家反逆罪で処刑される。

 じゃあ、許可を取ればいいと思うだろうが、そういうことを考えていて、許可の出せる人物は国の偉いさんだ。よっぽど、仲がいい場合を除いて、そんな頼みを聞いて裏切られない保証はない。

 助かるあてもないのに持って行って、証拠隠滅とばかりに殺されて取り上げられるなんて馬鹿な真似をする奴はいない。

 つまり、飛竜を呼び寄せて自他国を襲わせたいような貴族と仲がいいというのは、金儲けにどんな方法を使ってもいいと思っている商人だけなのだ。


 善良なマスターバイヤーである俺はそんなことはしない。俺の働いているイグザード商会だってしない。


「交渉がうまくいかなかった時に飛竜を使って里を破壊しようと思わなかったのか?」


「?! どうしてそんなことを考えるんですか?! 新規の取り引きの場合、交渉が一度でまとまることなんかないんですよ?! 粘り強く何度も交渉をしてやっと取り引きができることが常識なんです。今回みたいなギルドの仲介すらできない取り引き先には信頼を得ること重要なんですよ」


 喧嘩を吹っ掛けられたようなもんだから、丁重には接しても、人間側(この場合、商人側なのか?)の裏事情を素直に話してやる義理もない。話が長くなるし、人間に偏見を持っているエルフたちを誤解させて更に人間嫌いにしてしまう恐れがある。


「だが、お前は人間だ。奴隷なんてものを作るお前たちを信用できない。我らがこうして魔法や森での生活に長けていなければ、お前たちは小さいのと同じように我らを奴隷にしていただろう」


「それは――」


 違うと俺は言えなかった。

 ウェズリーの言う”小さいの”というのはホビットだ。大人の男でも人間の女より小さい種族で、足の大きさと臭さで有名だ。魔法も人間より苦手としている彼らは国によっては奴隷として扱われて、他の奴隷にされている異種族と共に不毛の地の開墾や鉱山で働かされている。

 エルフの耳が獣耳であろうが、彼らの美貌は変わらない。魔法が使えないなら奴隷にされるのは想像しなくてもわかる。

 ホビットは小さくて大足で臭くても、童顔な彼らを愛玩用として飼っている人間ですらいるのだ。エルフが愛玩用として用いられないはずがない。


「いい加減にしてくれ、ウェズリー。相手は怪我人なんだぞ」


「怪我をしていようが人間は人間だ。お前が連れ帰って来なければよかったんだ」


「俺が連れ帰らなかったら、死んでいたんだ」


「それがどうした? 親切にしてやった恩を人間がどう返したのか、忘れたのか? 被害者のくせに忘れたってのか?!」


 被害者?

 ウェズリーの言葉が頭に引っかかった。

 だが、ダルトンが即座に言い返したのと、新たな人物の登場で深く考えていられなかった。


「ウェズリー!! 怪我人の前でなんてこと言うんだ!!」


 言い争いをしているところにもう一人のエルフが現れた。性別は女で、やはり耳は獣耳。


「そうよ! 怪我人相手に何、言ってんの!」


 エルフは獣耳なのか?!

 全員、獣耳なのか?!

 誰か嘘だと言ってくれ!!



 誰かといっても、ここにはダルトンとその知り合いで俺に敵意をぶつけてきているエルフだけだ。


 この女だけが獣耳だと言ってくれ!!








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