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 まだ歩きまわれるほど元気じゃないから、外の様子はわからない。せっかく、エルフの村にいるというのに、俺が知っているのはこの家と世話をしてくれている若いエルフのダルトンだけだ。

 だから、ダルトン以外のエルフを見ていないから、エルフはみんな獣耳だとは限らないのだと希望を持つことにした。

 余計な先入観が商売の妨げになるのを忘れていたことを思い出して、俺は希望を持つ。

 きっと、ダルトン以外のエルフは普通の長い耳のはず。獣耳はダルトンの固有なんだと自分に言い聞かせる。


 ダルトンが言っている低級ドラゴンというのは、正真正銘のドラゴン種だ。ドラゴンもどきの蜥蜴じゃない。

 通称ドラゴンもどきと呼ばれている蜥蜴は何種類もいて、火の中に生息しているなど普通の蜥蜴とは思えない生態を持つ蜥蜴もいる。

 だが、ドラゴンもどきはドラゴンもどきでしかない。

 俺が襲われたドラゴンは低級ながらもれっきとしたドラゴンで、それがワイバーンやワイアームと呼ばれる翼竜だった。ドラゴンの中でも飛行タイプの翼竜はその機動性で知られているから、卵の時に巣から持ち帰って育てて騎獣にする者もいる。

 ただし、低級とはいえ、相手はドラゴン種。ギルドの討伐依頼ではAランク以上の冒険者たちのチームにしか依頼を任せられない。巣から持ち帰るのは倒すというより追い払う意味合いが強いとはいえ命懸けの仕事だ。これはAランク以上の冒険者単体でも任せられるが、普通なら討伐同様チームでこなすほうがいい。竜騎士なんかは自分一人で取りに行くのが一番だと考えているらしいが、おすすめはAランク以上の冒険者たちのチームを護衛に雇って取りに行くことだ。

 俺もエルフとの交易――エルフの嫁をもらうという夢がなかったら、ワイバーンの卵を取りに行って騎獣にしたかった。


 残念。


 エルフの耳が俺が想像していた耳じゃなくて獣耳だからって、口実だったエルフとの交易は諦められない。なんたって、エルフとの交易はは商人の夢だからな。


「はい、大丈夫です」


 できる商人はどんな相手にも礼を尽くすもの。イグザード商会のマスターバイヤーである俺はダルトンが恩人でもない、ただの一村人でもこんな丁寧な対応をしただろう。

 なんせ、俺はエルフにとって未知の相手。ここは下手に対応するわけにはいかない。

 実際、エルフ相手じゃなくても、取り引き先で働いている従業員だろうが、同じ宿に泊まっている相手だろうが、俺の態度は変わらない。ジータたち冒険者相手でない限り、俺は誰であろうと丁寧に接する。

 冒険者相手に丁寧な対応をするとこちらを見くびってきたり、他人行儀だと思われて逆に信頼関係が築けないのだ。酒場で隣に座っている見知らぬ人物と仲良くなるのに、お上品でいるよりも、多少砕けすぎた人物のほうが「兄弟」と言いあえる。

 だって、いきなり見知らぬ無表情な人間に「今夜は私の奢りです。好きに飲んでください」だと裏にある理由を推測するが、「今日は子どもの誕生日だ。俺の奢りでみんな祝ってくれ」と言われたら素直に飲むだろ?


「そうか。それにしても、ここはあいつらの住処から離れているのにどうしていたんだろうな? 集団だったし、騎獣じゃなさそうだし。こんなことお前に言っても無駄だろうけど」


「あー、それは私も思いました」


 ワイバーンやワイアームと呼ばれる翼竜はドラゴンの中でも身体が小さいので、集団で暮らしている。彼らが暮らしているところはそれぞれ巣と呼ばれていて、人間が近付くこともない。


 エルフの里に来るまでには飛竜の住んでいるところの近くも通って来たから、それなりの装備は持っている。だが、一人で飛竜の群れと戦えるような装備まではただの商人である俺には必要ない。今回はエルフとの交渉を目的としているので、せいぜい出会った単体の飛竜から逃げ出せるレベルでいい。


「飛竜を招き寄せるアイテムでも持っていたのか?」


「ウェズリー、なんてことを言うんだ?!」


 ダルトン以外のエルフが部屋に入って来た。咎めるような口調から、どうやら、ダルトンの知り合いらしい。耳はダルトンと同じ獣耳。

 きっと、エルフは男だけ獣耳なんだ。

 そうだ。

 そうに違いない。

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