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目の前に広がる樹海に俺は目を奪われていた。

手にしていた荷物が音を立てて落ちたにもかかわらず、俺は気付きもしなかった。

感動がこみ上げるあまり、俺は胸いっぱいの状態で、気付く余裕がなかった。


とうとう


「着いた・・・」


幻なんかじゃない。これは本当にあるものだ。

俺のエルフの住む森。

目にゴミが入って、涙が出てくる。これは感動のあまり泣いたわけじゃない。ゴミが多すぎるぞ、ここ。

俺が商人になったのも、故郷から一番近いエルフの住む森に来る為だ。

だいたい、王都から一日中馬車を走らせて7日。そこから山を3日進まなければならないド田舎が俺の故郷。用が無ければ一生、村を出ない者が大半の村。辺境を廻る行商人が馬車道を外れた山の中にある村々に行商に来るか、数年(毎年来る労力は無いらしい)に一度役人が税の徴収に来るくらいの辺鄙なところだ。

仕事にしても村の中で就くのが当たり前。

何ヶ月から数年かかるかも知れないエルフの住む森に行くには、金も冒険の旅をする実力も無かった。

そこでエルフの嫁をもらうことを決めた俺は考えた。旅をする仕事で、エルフの住む森までいけるものはないか、と。

俺の知る旅をする職業は行商人と数年に一度しか姿を現さない役人くらいなものだ。

役人になるにはどうすればいいのかわからなかった。

とりあえず、隔週で村に訪れる行商人に訊くことにした。その時、俺はまだ6歳にも満たなかったと思う。

彼はがっしりとした手足に痩せ気味の身体、そして日に焼けた肌と髪をし、厳しい生活でいつしか年齢のわからなくなった容貌をしている。それは村の者たちと同じだと、村を離れてから知った。

行商人もその客も土と共に生きていたという証。

行商人は村を訪れると、いつも子供に干した小さな甘い果実をくれるから、子供たちは彼の来訪を待ち望む。

俺も彼から貰った小さな果実を口にしながら、訊いた。


「おじさん。おじさんみたいになるにはどうしたらいい?」


皺だらけの日に焼けた顔の中で、彼は目を大きくして驚いた。


「どうしたんだ、坊主?」

「おれ、エルフのさとにいきたいんだ。おじさんはいろいろなところにいくだろ? だからエルフのさとにも」


彼は噴出し、しばらく声を立てて笑い続けた。

まさか大笑いされるとは思わなかった俺は、馬鹿にされたと思った。

だから思わず怒鳴ってしまった。


「っ!わらうなよ!」


行商人は笑いを止めようとしたが、俺がまた怒鳴るほうが早かった。


「わーらーうーなー!」

「悪い悪い」


彼は俺の頭を宥めるように軽く叩きながら言う。


「坊主が私のことをそんなふうに思っているとは思わなくてな」


やっぱり馬鹿にされている、とその時の俺は思い、拗ねた。


「そんなふうにって、どんなふうだよ」


行商人は笑顔で言った。


「坊主にとって、私はエルフの里にすら行商に行っているように見えると思うとな~。私はそんな大した商売人じゃないよ。この山ん中の村々に街道沿いの大きな村で手に入れた品を運び、村々で手に入れた品をさっきの大きな村に運んでいるだけだ」


思惑が外れた。

てっきり、行商人はエルフの里にも行っていると思っていた。

じゃあ、行商人になってもエルフの里には行けないのか?

震える声で俺は言った。


「エルフのさとにはいかないのか?」

「残念ながら、行ったこともない。エルフの里っていうのは、ここから遥か彼方にあるからな。この国の王様ですら行ったことはない、とても遠いところにあるんだ」


行商人も行ったことがない?

行商人が廻っているわけじゃないことはわかったが、行ったこともないなんて。

王様でも行ったことがない?

エルフの里までどれぐらい遠いのか、想像もつかなかい。


「でも、エルフのさとはあるんだろ? エルフはながいみみをしているんだろ?」

「ああ。エルフの里は本当にあるし、耳も長いのは本当だ」


エルフがいることも、里があることも本当らしい。

なら、エルフを嫁にすることもできる、と俺は思った。

きっと、その時の俺の顔は目をキラキラさせながら、しまりのない表情をしていたに違いない。頬が緩みっぱなしで、痛くなったくらいだ。

我ながら、とんでもないと思う顔をした俺を、彼は温かい眼差しで見る。


「なあ、どうしたらエルフのさとにいける?」

「行商人じゃ、無理だな。大きな商人のところ、商会って言うのがあるから、そこで働けば行けるかもしれないな」


行商人は頭を掻きながら言う。

わからない単語があったので、訊く。


「しょうかい?」

「ああ。いろんな町や村に支店を出して商売をするところだ」


行商人は親切に教えてくれる。

教えてくれるが、さらにわからない単語が出てきた。


「してん?」

「行商人のように移動せずに商売をする場所を支店と言うんだ」

「???」


よくわからない。

今ならわかるが、当時はまだ幼すぎてサッパリわからなかった。

転生者でもなければ、チートも無い6歳児には無理だった。


「まだ、坊主には早かったな」

エルフどころか、スウェン以外出て来ていない・・・。

あらすじ詐欺でスミマセン。

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