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「どうして、俺の事なんて覚えてるんだか」
「わからない。でも、優しい声も優しい手も、確かに覚えてるの」
馬鹿だな、と貴方はもう一度呟く。
「……もっと早く、弥生にもう一度会っていたら。俺は」
それ以上の言葉は続かない。続かなくても、わかるから。
『もしも』なんて存在しないのが、こんなにも、哀しい。
「祝お兄さん」
「……なんだ?」
「大好きだよ」
私から贈れるのは、言葉だけ。想いだけ。
もう二度と、共に時を刻めぬ貴方へ。
「大好きだよ……!!」
精一杯の言葉を、贈ろう。
それだけが、私に出来る貴方への慰めだろうから。
「どうしようもない俺でも、いいのか?」
「関係ないよ、祝お兄ちゃん。だって、私達従兄妹なんだよ?」
「……そうだな」
ありがとう、と笑った貴方の身体が淡く光り出した。
――ああ、時が来たのだ。
「なあ、弥生。ひとつだけ、ワガママを言っていいか?」
「なに?」
「……母さんに、伝えて欲しい」
今じゃなくていいから、と。いつかでいいからと。
そう言われたのは。
「……わかった。絶対に、いつか、伝えるから」
「おう、頼んだ」
じゃあな。そう言って、目を閉じて。
幸せそうに、満足そうに、微笑みを浮かべて。
ふっと、かき消えるように、貴方の姿はどこにもなくなった。
「……祝お兄さん」
もう、私の声にも答える事はない。
旅立ったのだとわかっていた。
それでも、終わりだとは思いたくなくて。
「祝お兄さん、祝おに、さ……」
何度も何度も貴方の名を呼んで、私はしばらく泣き続けた。
夢のような奇跡が、そこに確かにあったのだと信じられるのは、ただ託された言葉だけ。
いつか。
いつか、伝える、貴方の言葉だけ。
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