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「……そうか。俺、死んでるのか」
呟かれた言葉に目を丸くすれば、返って来たのは苦笑。
「いや、今まで、どうしてここいるのかわからなかったんだ。そもそも、ここがどこなのかもわからなくてな」
「あ……」
何を言えばいいのだろう。戸惑う私に首を振って、貴方はゆるりと笑みを浮かべる。
「今のでわかった。俺は、あの時波にのまれて死んだんだってな」
「祝お兄さん……」
「それよりもビックリだ。俺の記憶の中で弥生はまだ赤ん坊なのに、今の弥生はすっかり大人になってるんだな」
どこか感慨深げな言葉に、今度は私が苦笑する番だった。
理由は知らない。知ろうとも思わない。ただ、物心ついた頃にはすでに、引き籠りだった貴方。
真実一度も顔を合わせた事はない。何度も家には訪れたけれど。
「そうか……そんなに、時が経っていたんだな」
「そうよ、祝お兄さん。私、もう成人したわ」
「うわっまじか」
そう言って笑って、だけどすぐに貴方の顔は曇った。
「……みんな、死んだのか?」
「私が聞いてる限りでは、おじさん以外みんな無事だよ。本家は流されたけど、おばさんは助かったし」
「そうか。まあ、姉さんがいるからな……俺みたいなごくつぶしはさっさと死んで良かったってもんだ」
自嘲と共に呟かれた言葉が痛い。そんな事を言わないでとは、言えない。
変われる機会は、もうないから。
だから、私は別の話を口にする。聞かなければならない事。
「祝お兄さん。今、どこにいるの?」
「俺は、ここに」
「違うよ」
ゆるりと首を振れば、ああと目を閉じて。
「暗い、所だな」
「水の中?」
「いや……違うと思う」
それは貴方のいる場所。どうやら海にはいないらしい。
それなら、きっとどこかで見つけられる。
「おばさん、ずっと探してるの。私も探しに行こうと思って」
「俺を? こんな、どうしようもない俺を?」
信じられないと目を見開く貴方に、私は微笑んだ。
「祝お兄さんが誰であろうと、なんであろうと。おばさんにとっては大事な息子で、私にとっては大事な従兄だもの」
「……馬鹿だな」
ぽつりと言葉を落として、貴方も笑う。今にも泣き出しそうな顔で、笑う。
「いいんだよ、俺の事は忘れて。俺みたいな奴の事なんか――」
「忘れない、よ」
忘れられるなら、とっくの昔に。
あのぬくもりも、声も、忘れていたはずだもの。
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