表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ドベ×チワ(企画版)

作者: 長月マコト

● 企画名 》 もしかして:かわいい

● 企画概要 》 かわいい高校生の女の子を書く

● 文字数 》 2000文字以上3000文字以内(空白改行含めず)

● ジャンル 》 現代学園物。剣と魔法のファンタジー世界や近未来を含むSF世界は無し。

 


 人が落ちる切欠なんて些細な事が多い。しかも落ちる瞬間はあっけない──


 あの日、俺は住宅街の路地で小学生ガキ共が六、七人集まってるのを見かけて足を止めた。もともと俺は他人にあまり興味がない。普段なら無視するんだが、男児ガキ共の真ん中に一人だけ丸くしゃがみ込んでる少女がいたら、さすがの俺も気にはなる。

 未熟な独占欲にしちゃ性質タチが悪い……と思ったところでタイミングよくガキの一人と目が合った。

 俺、高校二年。しかも185センチ。驚きのデカさ。かたや平均身長150弱の小学生。身長差、約40センチ。

 慄いたガキ共は蜘蛛の子みたいに散った。残ったのは、ヤツらにいびられてたまい少女だけ。

 数秒後、少女は警戒しつつも顔を上げた。

 大きな目が印象的な子だ。くるんとした睫に縁取られた瞳が、怯えからかしっとりと潤んでいる。身体の大きさに比例して鼻も口も小作りだ。高めの位置で二つに結われた髪はふわふわで、少し乱れたスカートの裾から延びる白い脚がやたらと眩し──ってコイツ、俺と同じ高校の制服着てるじゃねぇか。

 高校生か? とてもそうは見えないが。てか、ガキ相手に何やってんだ。

 答えはすぐにわかった。少女の腕の間から小汚い子犬が顔を出したから。

 くぅん、と甘えて少女の頬を舐める子犬と擽ったそうに眉尻を下げる少女を見比べて、俺は思う。

 ああ、バカだコイツ。野良犬を庇って自分がやられてたのか。

 視線に気付いたのか、少女の瞳が俺を捉えてびくんと震える。顔を真っ赤にしてあたふたと立ち上がろうとする少女は、さっきのガキ共よりもまそうだ。なるほど、舐められるわけだ。

 一見した所、腕と脚に擦り傷ができてるくらいで大きな怪我はない。放っておいても大丈夫だろうと踏んで、俺はその場を去った。


 同じ高校らしいがあんな奴いたか? ま、偶然見かけたくらいで俺が覚えてるわけないんだが。


 だが『偶然』とやらは案外いろんなところに落ちてるものらしい。


 翌日の放課後、部室に向かう途中の廊下を曲がったところで、鉢合わせた女子生徒とぶつかった。

 軽く接触しただけでお互いに被害はない。相手は急いでいたらしく、謝罪と共に走り去ろうとして「きゃん」と小さな悲鳴を上げて止まった。見ると、俺の制服の第二ボタンにふわふわした髪の毛が絡まっている。この高さに引っ掛かるとはまい奴だなと思えば。

 なんだ昨日の小娘か。

 焦っているのか小娘は碌に首を動かせもしないのに、すみませんと何度も謝りながら髪を外そうと必死だ。見えてもいない癖に無理に触るな。余計酷くなるだろうが。ほら見ろ。ああ面倒だ。貸せ。

 びくんと震える小娘の手を掴んでボタンから引き剥がし、絡んだ髪を少しずつ解す。摘んだ房を動かす度、艶やかな髪からふわりと甘い香りがした。

 大人しくなった小娘を窺うと、まい身体を萎縮させ潤んだ瞳で俺を見上げている。その姿が妙に被虐的だ。危害を加えるつもりはないんだが。

 まぁいい。ちょうど髪も解けた。もう関わることもないだろう。


 ところが人間ってのは不思議なもので、一度認識した相手が近くにいると自然と気付くようできているらしい。


 その後、構内で件の小娘をよく見かけるようになった。

 購買部の人だかり、登校する生徒の波の中、全校集会……他より低いふわふわの髪がいちいち目に留まる。くそ。

 小娘は俺に気付くと、目を潤ませておどおどした視線を寄越してくる。近づくでもなく、離れるでもなく。

 何だ。何がしたいんだ。俺が怖いなら見えない所に行けばいいだろうが。

 俺を苛つかせるな。


「お前、最近何かあっただろ」

 それから数日後。教室で突然肩を組んできた悪友は、俺に向かってニヤリと笑いかけてきた。寄るな暑苦しいと睨んでも「さすが三白眼、迫力あるねぇ」と軽く往なされる。

 この悪友とは性格こそ正反対だが幼馴染の腐れ縁だ。他人に無関心な俺をドーベルマンよわばりしつつ、平然と話しかけてくる数少ない輩でもある。

 その悪友がのたまうには、ここ最近、俺が常に纏っている冷たいオーラが絶対零度にまで下がっているらしい。

「恋でもしたか?」

 何故そうなる。意味がわからん。お前が一番俺の性格を知ってるだろう。

 反論したところでコイツは応えまい。無駄な努力はしないのが俺の主義だ。目を眇めるに留めた。悪友が隣で「つれねぇなぁ」とか呟いているがそれも無視し、視線を窓の外に移す。

 ちょうど見える渡り廊下を数人の女子生徒が歩いていた。内一人、まいふわふわ頭に見覚えがある。間違いなくあの小娘だ。

 小娘は笑っていた。友達と一緒に。俺に気付くことなく。

 なんだ、笑えるのか。

 あまりに楽しげで何故か癪に障る。

「──なるほどね。お前が誰に惚れたかと思ったら、チワワちゃんか」

 耳元から聞こえた悪友の声に俺の眉間の皺が一層深くなる。

 顔寄せるな。勝手に視線盗むな。

 それと何故そうなる。ふざけるな。確かにあの小娘がチワワっぽいのには同意するが。

「可愛いよな。いつも笑顔だし」

 知らん。俺はその表情かおを見たことがないからな。

 悪友は苦笑し、さらに小娘情報を並べた。身長146センチ、動物好き、クラス、成績、部活動、血液型に誕生日、等々。放っておくとスリーサイズまで言いかねん。と言うか何故お前がそこまで知っている?

 悪友は俺の質問には答えず、下品な笑みを浮かべた。

「ま、ちょうどいいんじゃね? ドーベルマンとチワワ。落ちちまえよ。フォーリン・ラブだ」

 本気マジでシめるぞ。

「メイク・ラブのがいいか?」

 ──死ね。


 まったく苛々する。俺が恋してるだと? しかもあの小娘に? 冗談も大概にしろ。

 まぁいい。無視だ、無視。


 それなのに何故あの子犬の鳴き声が聞こえてくるんだ。気になるだろうが本当にムカつくな!

 様子を見に通りがかった公園に入れば、子犬が樹を仰いでいた。

 まさかと見上げた俺の目に入ってきたのは、3メートルはある高さの枝の上で、左腕に震える子猫を抱え、右腕を跨る枝に添えて絶妙にバランスを取る小娘の姿。ふわふわの髪が風に揺れて何とも心許ない。大方降りられなくなった子猫を助けに行ったんだろうが、いくら何でも制服で木登りは無理があるだろう。

 俺に気付いた小娘は瞳を大きく開くと、慌てて右手でスカートの裾を──ってバカかお前は!

 支えを失った小娘の身体が大きく傾く。

 咄嗟に足が動いた。

 悲鳴と共に落ちてきた小娘をギリギリで抱き止める。子猫が緩んだ小娘の腕をすり抜けて走り去ったのが視界の隅で見えた。

 したたか打った両腕の痛みを感じながら、詰めていた息を吐く。腕の中の小娘は、驚くほどまく柔らかく繊細で軽かった。震えているのが酷く頼りない。女ってこうなのか? 下手すると壊してしまいそうだ。

 閉じていた目を開けて、状況を把握した小娘が涙目で懇願してくる。

「ごっ、ごめんなさい! 降ります立てます降ろしてください大丈夫ですっ!」

 煩い。暴れるな。落ちるぞ。とても立てそうにないだろうが。安心しろ、居た堪れないのは俺も同じだ。

 小娘が俯く。オイ泣くなよ?

 とにかくすぐそこのベンチに座らせようと歩き始めたところで、小娘が「あの」と声を発する。何だ。

 ふわふわな髪を揺らして顔を上げた小娘は、潤んだ瞳で俺を真っ直ぐに見つめると微笑んだ。

「ありがとう、ございました」

 再び呑んだ息が、ストンと俺の胸に嵌まった。


 ──最悪だ。どうやら俺は、落ちたらしい。


 

 お読みいただきまして、ありがとうございました。

 3000文字って長いようでいて短いですね……あと500文字くらい欲しかったです。


 ──続き、書こうかしら?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ