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第1章-廻り会いの必然-

予告無しに、残酷&流血表現が出ますので、お気をつけ下さい。





彼、ユラージャ・カーオスは溜め息を吐く。


辺りを見回せば、どこもかしこも木、木、木。整備された道は無く、申し訳程度に獣道に見えなくもない茂み。辿っていけば、海か小さな村に出るかもしれない川も無い。


ユラージャは迷子になっていた。


思わず首を傾げる。

さっきまで、きちんと整備された道を、地図を片手に歩いていた筈なのだ。

なのに、気が付いたら周りは木。慌てて地図を確認しても、場所が全く分からない。


「どうしたものかな……」


本当についてない。

最近、自分の身に降りかかった出来事を思い出し、もともと落ち込んでいた気分が底辺を突破して、逆にハイになりそうだ。




ユラージャは、つい最近まで、とある貴族の屋敷で使用人として働いていた。


別に、仕事をサボっていたとか、主人に失礼なことをしたわけではない。むしろ、よく働くいい子と褒められていたし、主人も、父母の居ない自分を拾って働かせてくれた恩もあり、尊敬していたのだ。


だが問題なのは、主人の娘だった。

お嬢様は、本当に絵に描いたようなお嬢様だった。

気に入らないことがあれば、すぐに喚いて家の力を振りかざし、あれが欲しいこれが欲しいと我が儘を言う。

そして、その我が儘がユラージャの身に降りかかったのだ。


今、思い出しても忌々しく感じる。

お嬢様の我が儘は、とんでもないものだった。


曰く、

「貴方は、私の家の使用人ですわよね。だったら、私の物でもある。……良いこと思い付いたわ! 貴方、今日から私の奴隷となりなさい!」


……本当にとんでもない。

ユラージャは、金で買われて来たわけではない。主人は尊敬するが、我が儘なお嬢様を嫌うことはあるが、好くわけもなく、奴隷なんてもっての他だ。人権という言葉を知っているのだろうか。無論、断固に拒否をさせていただいた。


しかし、何処にでも耳や目はあるようで、主人にその出来事が伝わってしまった。


主人は、良くも悪くも親馬鹿だった。

そして、ユラージャの過去を知っているせいで、変な妄想を掻き立てた。


曰く、ユラージャが、お嬢様をたぶらかした、と。


まったく、いい迷惑である。

ユラージャはそのまま屋敷を追い出された。


使用人仲間の視線が、酷く同情と哀れみを含んでいたのは、忘れない。




ユラージャは、止めていた足を動かすことにした。このまま、此所に留まっても良いことなんてないし、むしろ餓死してしまうかもしれない。


不思議なことに、此所まで来る間、動物はおろか、魔物さえ出てこなかったのだ。最初は幸運だと思ったが、今考えると可笑しいと思う。


この行動が、道に迷った際では、とても致命的なことだと分かっていても、とにかくこの場から離れたかった。









「……ん?」


どのくらい歩いたのだろうか。

日は傾き、もともと薄暗かった森は更に暗くなり、どこか蒼白く見え、神秘的だ。木々に蒼白いとは妙な例えだが、何故かそれがしっくりときた。


「………」


だが、この光景に合わないような臭いがする。何故、今まで気が付かなかったのだろうと思うくらいに、それはとても濃い。


ザアァァ……


木々が風に吹かれ、揺れる。それと共に、ムワッと辺りに充満する。



「血潮の臭い……?」



ユラージャは、不快感で眉を寄せる。

そして、そのまま臭いのする方向へと足を進めた。






************






「一体、何が起こっていたんだ」



呆然と呟く。

彼の目の前に広がる光景は、正に地獄と言っても差し支えなかった。


地面は赤黒く、血潮で染まり草花など生えていない。濃い血の臭いが立ち込める中、周りの木々が蒼白く光、それが余計に不気味に感じた。


しかし、ユラージャが茫然自失となった理由はそれではない。


その、血の元だった。



「…ぅ…あ……」



微かな呻き声が聞こえる。

あり得ない、そう思った。


ユラージャの視線の先には、十七、十八歳くらいの少女が居た。

居ただけなのなら良かった。だが、少女の状況が常軌を逸していた。


少女は、五本の剣に貫かれていた。

少女の背には大樹があり、大樹に縫い付ける様に、右腕、左腕、右足の股、左足の甲、そして止めのように胸と腹の間に、深く剣が突き刺さっている。

少女は大樹に磔にされ、致死量を越える程の血液を流していた。


普通は、死んでいる筈なのに、ユラージャは"生きている"そう感じた。


根拠なんて無い。さっき聞こえた呻き声も幻聴かもしれない。



ただ、思った。

生きていて欲しいと。






彼は少女に駆け寄ると、迷わず剣を引き抜いた。








 




「はぁ、はぁ」



カランカラン。


べったりと血に塗れた剣が地に落ち、無機質な音が響いた。


ユラージャは、息を切らせながら最後の剣に手をかける。

少女の胸と腹の間に突き刺さっている剣以外は、なんとか引き抜くことが出来たが、どの剣も深く刺さっており、とても労力を必要とした。おかげでユラージャには、もう体力は残っていなかった。


剣に手をかけ、息を整える。

少女が生きているか、死んでいるか、その確認をする余裕さえ、今のユラージャには無い。


何故、自分がこんなに必死で生死不明の少女を助けようとしているのか。普段の彼だったら考えもつかないような行動だった。



「はあっ」



剣の柄に力を込め、少女をこれ以上傷付けないように水平に剣を引き抜く。



「あ゛あ゛ぁあ゛ぁあ゛ぁぁ!!!?」



静寂な森の中に響く苦痛に満ちた悲鳴に、ユラージャは思わず、剣から手を放してしまった。


悲鳴をあげたのは少女だった。

今まで四本の剣を抜いても、うんともすんとも言わず、生きているのも疑わしかった。


ユラージャは、少女が悲鳴をあげたことで、一種の希望を抱いた。


少女は生きている。自分の苦労は無駄ではなかったのだと。


ユラージャは再び剣を手にる。

何処からか、バチバチと何かが弾ける音がしたが無視した。



「ごめんね。痛いだろうけど、我慢してよ」



そして、持てる力で一思いに引き抜く。




森に響いた悲鳴は、直ぐに静寂に塗り潰された。










どさり。



質量の有るものが地面へと倒れる音がする。その音の元が自分なのか、それとも少女のものなのか、ユラージャには判断がつかなかった。


疲労により震える脚を叱咤し、ユラージャは少女の元へと這い寄る。辺りに充満していた血の臭いは、いつの間にか消え去っていた。



「回復、しなきゃ……」



無意識に出た言葉。それにユラージャは、はて? と首を傾げる。自分は何故、この少女を救おうとしているのだろう、と。

しかし、その疑問は浮かび上がって直ぐに掻き消された。


そして、新たに浮かび上がる思い。




"彼女を助けなければ"




ユラージャは宙に左手を挙げ空を切った。

すると、キィイィィィィ――という甲高い音と共に、今までその場に無かった筈の何かの気配が充満した。



「さぁ、おいで。我が契約せし精の霊よ」



ユラージャが紡いだ言葉と共鳴するかのように、その気配は充満していく。そして鳴いた。早く先の言の葉を紡げとせっつくように。



「さぁ、交わろう。我が愛しき精の霊よ。そして喰らうが良い、交ざれば良い。契約を要に力を解放しよう」



左手に、高濃度の魔力が集められる。その魔力に、それが集まっていく。そして喰らって交わるのだ。それが力を解放するための契約であり規約なのだから。


ユラージャは、その光景を見て思う。人は、この魔力を喰らい交わる者を精霊と呼ぶ。精霊は人よりも高位の存在である癖に、人に従っている。

その理由とは何か。謎の解明は至って簡単だった。

精霊は魔力を主食とする。そして、その魔力を宿すのが人間しか居なかった。ただそれだけだ。人間は精霊に魔力を差しだし、精霊は人間に魔の法を差し出す。持ちつ持たれつな関係。お互いに、替わりは幾らでも居るので、仲間意識などは皆無だ。


なのに、



(いつもの倍以上の魔力が取られてる……!?)



それは、いつも以上に精霊がやる気を出している証拠であり、今のユラージャにとっては致命的だった。


ユラージャは、迫り来る嘔吐感、目眩を耐えるために奥歯を噛みしめる。

魔力は、生命力と精神力を混ぜ合わせ、一つにしたようなものだ。本来なら、肉体的にも精神力的にも疲労している時に魔法を使うのはタブーとされている。いや、タブーというよりは、精霊が疲弊した人間を相手にしないのだ。精霊は魔力を求める。疲弊して、磨り減った人間のちっぽけな魔力など、お呼びではないのだ。




何故、とユラージャは思う。

彼は心身ともに疲弊している。なのに何故、精霊は力を貸すのだろうか。ユラージャ自身、これは賭けだったのだ。とてもリスクの高い博打。


今回、彼はそれに勝った。


精霊が魔力を求め、応えてくれる。なら、こちらも応えようじゃないか。



「良いよ……、魔力、君達に僕が死なない程度……なら、あげる、よ。だから、その……子、絶対に、助けてよっ!」



ユラージャが吼えると同時に、辺りは白く光り瞬いた。


光が少女を覆っていくのが見える。ピクリと指先が動いた気がした。

ホッと息を吐くと同時に、ユラージャの視界が点滅し、色彩を無くしす。


何かがプツンと切れる音がした。




ずぐり。




地面から何か黒いものが這い上がり、蠢いた。



彼の意識は限界を迎えた。






************






夢を見ている。

いや、夢を見ていた。




彼の黒髪は、サラサラしていてとても綺麗。

色素が薄くて、少し癖のある私の髪とは大違い。


彼は笑う時、眼を細めて笑う。うっすらと見える瞳は、鮮やかな紫。少し紅がかっていて宝石のよう。

色素の薄い、私の蒼い眼とは大違い。



だけど彼は私に囁く。



___の髪は優しい色をしているね、と。

___の瞳は美しい蒼穹のようだね、と。



彼はとても優しい。

残酷な程に。



「___」



あぁ、彼に呼ばれている。

行かなければ、彼の元へ、早く。



「___」



ごめんね、よく聞こえないよ。

もっと大きな声で、私を呼んで?



「___」



聞こえないよ、聞こえない。

私の名前、私、の名、まえ。









呼んでよ。


私は此処にいるから。









――セレス――





 


そう、私の名前。

やっと呼んでくれた。


じゃあ、貴方の元へ、現実へと向かいましょう。





夢を見ている。

夢を見ていた。



夢から、醒めよう―――。










プロットなんて無いですorz

ノリと勢いと設定だけで頑張ってみます(ぇ

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