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第二幸(2話)「人を狩る鉄塊。鉄を殺す偽者」Cー1

二話スタートです。アニメで言えば三話ですかね?

誰かの見ている夢から始まります。これで大体の推察がとれるかと。



 男の子が手に入れた刃物。それはいつも切れ味が悪いと、義姉(あね)が嘆いていた物だ。

彼女はこれを使い、自分達の口に入る料理を作ってくれていた。




 今その刃が、女の子の体内に、侵入を果たす。



 溢れ出る赤が男の子の手を汚したとき、彼は驚いて刃を放してしまった。少女が何かを呻いている。


 かろうじて聞こえた言葉に怯えたのか、己の起こした事態の覚悟が無かったのか。男の子はたまらず家を飛び出した。









 夕方までどこを彷徨っていたのか解らない。泣き腫らした赤い顔で、手には他人の血を付けた男の子は、トボトボと孤児院へ帰ってきた。


 胸に有るのは、罪を犯した罰への恐怖と、大切な友達を殺してしまった喪失感だった。


 暗い気持ちで夕飯を食べながら、何度も隣の空席に目をやる。そこは仲良しの女の子が座るはずの場所だが、今は居ない。


彼女という形を、彼の手で突き破ったからだ。




 食事の後、育て親のライデッカー神父に呼ばれ、部屋に向かう。


 怒られる? いや、そんなもので済むわけがない。きっと騎士に引き渡されて、牢屋に入れられるのだ。そしてそこで何年も……。


 部屋では筋肉のせいでピチピチになった神父服を着た、頭髪を生やしてない男が待っていた。彼がライデッカー神父だ。


そしてその彼のベッドで眠る、女の子の姿も少年の目に入った。彼女の血の気のある顔を見るなり、驚愕と供に駆け寄る。


「シナリーッ!」


 安らかな吐息で眠るシナリーは何も異常は無いように見えた。少なくとも掛けられた布の上からは。ライデッカーは安堵する男の子の肩に手を掛け、こう言った。



「お前もこの娘も運が良いのぅ。子供の腕力で研がれてない刃、すぐワシに見つけられたおかげで、致命傷にならずに済んだわい。

人間には骨が有るんじゃぞ? 縦に刺したら確実では無いわ」



 どうやら神父は二人の会話の場面を盗み見ていたらしい。男の子が武器を持っいても止めなかったのは、行動に起こすわけが無いと、子供を信じていたからだ。


 実際にその信頼は裏切られたわけだが。





「ごめん。俺、ヒドいことしちゃった……」


「ああ、ワシは人を信じる心を傷付けられた。もうしばらくは、信じるとか優しさとか慈悲の心とかって言葉を使えなさそうじゃ。


……本当どうしてくれるんじゃ……こっんのブァッカモォオオォォォォォォンッ!」




 神父の怒りの鉄拳が男の子に見舞われる。心が不安定な少年に受身が取れるわけもなく、殴り飛ばされて壁に激突した。


 ライデッカーは渋い表情で涙を流しながら、不必要なほど拳を握り、男の子を訴える。



「傷付いたのはワシのピュアハートだけではない! シナリーを治療する為に薬や包帯、何よりコヤツが食事に居なかったことで、家族の皆を不安にさせてしまった! 

貴様の若気の勢いで起こしてしまった、各方面への損失を考えなかったのか? あぁん!」



 この神父の手口だ。口で道理を説くよりも先に、筋肉にものを言わせて、暴力で解決する。殴られて弱った相手に、それらしい説法を語るのだ。


 一緒に暮らす男の子には、彼のやり方が解っていた。だから強がって反論する。



「――オヤジは『変なの』が出来るんだろ? それで傷を治せば良かったじゃないか!」


「ドゥアホォー。『変なの』じゃない。魔言(スペル)じゃ。それに回復の技術は、体の再生を無理やり早めるだけ。

未発達なガキの体に使えば、不具合が起こるかもしれんし、再生活性化の痛みにこの娘が耐えられんわい」




 二人が言い争っていると、ベッドから呻き声が聞こえた。シナリーが起きたと思い、男の子はすぐさま駆け寄る。



「シナリー! ごめん、俺こんなことして……」

「だから……言ったじゃないですか……エンディックん?」



 目を覚ました彼女から、名を呼ばれた少年は気付いてしまった。


 シナリーが刺されたときになんと言ったのかを。





「『そんな所じゃ死なないよ』って……。今度は、ちゃんと殺してくださいね?」




 彼女の名前はシナリー=ハウピース。エンディックの故郷の人々を苦しめ、残してきた母親を手に掛けた憎い敵であり、唯一の友達だった女の子である。








 エンディックは神父に話した。二人の過去、シナリーが自己の殺害を彼に望んでいることを。


 ライデッカーは神妙に顔つきで思考し、当面の問題の解決策を提示した。



「面倒な子供を拾ってきちまったモンだのぅ。お前さんに殺られるのが失敗した今、シナリーは自分の手でケリをつけるかもしれん。エンディック、お前さんの力を借りるぞ?」


「お、俺に出来ることが有るの?……教えてくれよ!」







 その方法とはシナリーに自害防止の呪いをかけること。彼女の背中にライデッカーが魔言を使い、その効力を大天使の刺青に彫り、その絵に持続させるというものだった。





 魔言(スペル)によって呼び出された技術(テクノロジー)は、発現している間ずっと使用者の魔力(マナ)を消費する。



だから魔言は長時間使えず、効果は一瞬。武器に付加するものでも、刃の当たる部分だけというのが主流である。





CURSE(カース)』は対象に何らかの制限をかける呪いの技術。呪いを持続させる為に魔力を消費し続けるこれは、実用性が低い魔言とされている。7の階級。







 だがライデッカーはある方法を使えば、魔言の現象を形に残せるというのだ。


 行使できる者は『この世界』ではとても少なく、さらに異世界からの来訪者達によって必要性を無くした、失われし秘法。


 運良く少年は、秘法を使う為の原動力『機力』を持っていた。






 絵柄に意味はなく、あくまで力のイメージを込めやすいようにと、神父は大天使の絵を選んだ。死から幼子を守るよう願う、聖職者ならではのモチーフだ。




 エンディックはすぐさま絵の練習に取り掛かった。彼の時間は限られている。


 完全に目を覚ましたシナリーが何度も自害を試みようとして、神父の鉄拳で気絶しているからだ。起きるたびに殴るわけにもいかず、そんな事態となっては、すぐに儀式を執り行わなければならない。



 呪いを掛けるのはライデッカー、彼の魔力を少女の背中に書き残すのは、エンディックにしか出来なかった。


 そして自信がついた深夜、女の子の背中に天使の焼印が押された。










 儀式に使った部屋。その外の廊下で、男の子が呻き声をあげていた。


 熱せられた棒が柔肌を焼いていく感触と、抑えられ苦しみもがく少女の悲鳴。儀式が成功した後も残る、おぞましい感覚。


 幼いエンディックを蝕むのには充分だった。うずくまる彼の後ろから、育て親の男が抱きしめる。




「――頑張ったのぅ。これでシナリーは自分の舌を噛もうと考えることも、刃物で傷付けて出血死しようと思考することも、縄で首をくくろう思いつくことも出来なくなった。


あの大天使が呪いに反する思考を、妨害してくれるはずじゃ。

これでシナリーは勿論、孤児院の皆を、常に奴が自殺しないだろうか監視する気苦労からも、お前は救ったのじゃ」





 本来『CURSE(カース)』による自殺防止は、奴隷や犯罪者の拷問に用いられるものだが、神父は言わなかった。


 ライデッカーの珍しく優しい声音を、男の子は黙って聞いていた。

 そして考えた後に口から出たのは、疑問だった。


「どうしてだよ……?」


 その問いには涙が出るほどの悲しみと、世界に対する怒りが込められていた。


「どうしてシナリーばかりこんな目に遭うんだよ!」

「……」

「ハゲは言ってたよな? 幸福と不幸は平等に有るって。じゃあシナリーは村でいい暮らしをしてたから、皆に嫌われてたのか? 人を金の像に変えてたから、好きな人も殺さなきゃいけないのかよ? 


全部アイツのせいじゃないのに!……今日なんか俺に殺してくれってよ。それがダメなら自分を傷付けて、背中を焼かれて! シナリーは何の為に生まれたんだよ? 

酷いことをされる為に生きてきたのかよ?……アイツの幸せはいつ来るんだよ……」




 エンディックの顔からショックや悲しみが消え、代わりに怒りの感情が。男の子は憤怒している。身の回りの理不尽に、罪無き者が不等な人生を歩んでいることに。


 彼の苦悩の問いかけに、神父は言葉よりもまず、拳で答えた。




「今からじゃろうがぁぁぁっ!」




 ライデッカーの暴力がまた発動し、心の傷付いた少年を、廊下の奥までふっ飛ばす。神父は肉体的にも傷付けた相手に向かっていき、胸倉を掴み上げた。




「これから幸せになれるに決まってるじゃろうが! 確かにあの娘には悪いことが続いたやもしれん! 死にたいくらい辛いことも有った。



それがどうして幸福になれん理由になる? 



ならシナリーが幸せになれるよう手助けをするのが、ワシら家族ではないか! あの子の心の傷が少しでも癒えるように、支えてやるが友の役目ではないかエンディックゥ!」



「あ……」

「何じゃあお前? 何も考えん内から、勝手に絶望しよってからに! 

いいか小僧? 全ての人間は幸せになれる権利を持ってる。どいつもコイツも幸福を欲しがっとる。

ワシのような男でも人並みの生活を手に入れた。

死にたがりで、誰かを殺したかもしれんあの娘も、本当は死なずに誰も傷付けずに、普通の人生を生きたかったはずじゃ」




 そう言ってライデッカーは、子供を抱きしめた。この男は人の幸福と善性を信じていた。

 そして、少女の友達のエンディックもまた、シナリーの未来を信じなければならない。


「誓ってくれるかのエンディック? あの子を助けると。自身を許し、幸せに向かえるようシナリーを導いてくれるか?」








(アリギエ・孤児院・シナリーとサーシャの部屋)


 あのときの薄い壁向こうの、廊下での会話は、シナリー=ハウピースの耳にも聞こえていた。二人は己を救う心算らしい。


 お節介な人達に囲まれたせいか、死を渇望しているのにも関らず、この歳まで生き延びてる。そのうえちゃんとした職にまで就いて、自分でも私心が解らなくなる。


 完全に覚醒したシナリーはベッドでムクリと起き、背中をさする。夢で見たあの情景が気になったからだ。


「どうすればエンディックに殺してもらえるんだろう?」


 彼でなくては駄目だ。己で成しえない以上、『あの人』の息子たるエンディックの手で殺されなくては。




シナリーは恋している。

幼馴染の殺意に恋している。

孤児を引き取る心優しい神父かと思ったら、とんでもない暴力主義のマッチョマンでしたね。

イカした男なのですが、故人なのが惜しい。彼は色々な人に自分勝手な論理を振りかざしては、影響を与えているようです。結果の良し悪しに関わらず。

次回は新たな重戦士が仲間?になります

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