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第六幸 O-2「人も殺さない無能が、戦士に、勇者になれるわけないでしょ?英雄とは殺戮者のことなのだから」

モレク達悪魔の正体こそ、この世界の旧支配者『妖精』。


データの海を飛び回る電子生命体。

他者や感情を制御し、一方的に3次元存在に干渉する、機力の担い手。



少年と同じく復讐者である彼らは、黄金騎士と戦う運命にあるのだった。




(ちくしょ、足回りを強化しただけで、ヴァユンについて来れるってか!)


 真っ直ぐに金獣を逃走させる黄金騎士。


 その後ろから緑の勇者が両脚の魔力を噴射する踏み込みで、どんどん距離を詰めて来ていた。



(一直線に加速すれば引き離せる……だが反撃に回り込もうとしても、その横っ腹にあのヤバい武器を突っ込まれちまう。

 奴が二刀流になってから、こっちの攻め手が回ってこねぇ!)



 本来、大食勇者モレク=ゾルレバン2は風の勇者なのだ。


 風の魔力調整を得意とするモレクにとって、高起動戦は得意分野である。


 先ほどから繰り出されるグロ・ゴイルによる二連撃は、一合毎に黄金騎士を追い詰めていった。



(このまま持久走をしてりゃ、先にこっちのコントロールが切れる! やってみるしかねぇ!)



 エンディックは走りながら槍を伸ばして下ろし、横の土を抉って線を引き始めた。


 しばらく直進した後、右にカーブ。緑の勇者を正面に捉えようとする。


「あら、迂闊ですわね」

 だが後ろを捉えていたモレクはそれよりも早く、側面を見せてるエンディックに突進した。



 しかし勇者よりも早く、彼女『後方』より攻撃が飛来する。


「素材登録して金に変わった土よ! 槍に集まれ!」


 黄金騎士の引いた線。

 そこでは槍の機力が付着した土と石が金に強制錬金され、素材となるべく彼の槍に集まろうと飛び上がった。


 当然、少年を追っていた妖精もまた、線を踏み越えて進んでいる。

 弾丸のように高速飛翔する素材達が、進路上にいるモレクの背後から殺到した。




「挟み撃ちとはやりますわね。まあワタクシのマントに、バックアタックは通じませんが」



 マントがひるがえり、裏面の唇から舌が吐き振り回され、飛来する金のつぶてを自動で切り落としていく。



「でもテメーの注意は攻撃を確認する為に、後ろに行ったぜ?」



 エンディックはまたも傘状に槍を膨張。斬りかかってくる風の刃を迎え撃つ所存だ。



「……これまたよく考えた浅知恵ですこと。マモンの守りを崩すのに、使った手段ですわね」



 モレクは両手で攻撃せずに無理やり脚を打ち下ろし、前に進む勢いを大ジャンプに変える。


 空中で一回転しながら、女性的に優雅に着地した悪魔は後ろへ走っていく黄金騎士の企みを確認した。



 傘の裏側で光り輝く、透明な翼を。



「愚策を見せびらかし、失敗したと騙し、正面から本命の罠をぶつける……坊やは緑昇よりも戦術の才が有りますわよ」



「あの冷酷無比な策略家の勇者様よりも? アイツの悪辣さには負けるぜ」



 エンディックは槍を元の形に戻し、鏡面装甲の翼をヴァユン内部に移動させながら謙遜する。


 彼は長めの助走距離を取って、再び敵を正面に睨んだ。



「いいえ、緑昇が己で仕組んだと『思い込んで』る計略の数々は、実際ワタクシが考えてますのよ? この人は本当に『無能』ですからね……」



 対峙した女妖精は怪しく笑いながら、少年の人物像とは真逆の答えを発する。



「緑昇はね? 人々を守る為に戦いたいと思いながら、戦う気概もなく。全ての悪を滅ぼしたいと言いながら、命を奪うことを恐れる。

 知恵も勇気も何も持ち合わせず、ただ実験に耐えられるほど体が頑丈だった、数合わせの勇者なんですの。

 ほぼ自力で勇者を殺して見せた貴方様に比べれば、緑昇は偽物の英雄ね」



「……え? いやだって」

 エンディックは彼のことを詳しく知らない。


 短い間で知り得た緑昇という男は、何を考えてるか解らない真顔で、悪人を殺すという目的の為なら、無辜の犠牲をいとわない冷たい英雄。


 彼のモラルは少年と相容れぬが、ピンスフェルト村の選択やアリギエでの魔物を全滅させた手際など、戦士として一目を置く点も多々あった。


 アレらが本人の力では……無い?



「この人は今のように完全に人格を支配される前から、肉体や意思決定の大部分を、悪魔との取引で売りまくってるんですのよ?

 罪人殺害の日課も、魔物との戦闘も、ほとんどワタクシが代行して、体を動かしてますの。緑昇はただ勇者鎧を着れる体を提供するだけ。

 あとはワタクシがこの人の倫理に沿って、望んだ行動を実行させてあげてる……。

 だって全ての命を守りたいのに、誰かを傷付けたくないなんて考えで、彼の『憧れた英雄』に成れるわけがないでしょう?」



「憧れてる……? 一体何に……?」


「悪と戦う仮面のヒーローにですって。正義の味方になりたくて、『成れなかった』無様な普通の大人、それがこの緑昇を『名乗る』男の素顔ですわ」






(その男の子の過去)





『緑昇』という名は、マシニクルのTV番組の、架空の登場人物の名前である。


 緑昇は仮面のヒーローに変身し、日夜悪と戦い続けるのだ!



 マシニクルの男の子達にとって憧れの的であり、いずれ大人になると興味も失せる偶像。

『彼』と他の子供達との違いは、大人になってからもフィクションに近付こうとした愚者であったことだ。





 無能で無力で何も出来ないその男は、埒外な正義感だけはあった。


 だが善良過ぎるその性根は、暴力を嫌い、嘘を嫌い、血を見るのも無理だ。


 ただの男に異常に正しい心が有っても、それを実行する力はなく、人を守る為にと徴兵を受け入れても、荒事の才覚のない彼は底辺のままだった。



 一つだけ、魔力という使い道の解らない、謎のエネルギーをその身に秘めていた。


 新たに適正を認めた軍は、来るべき異世界戦争の為に、彼を育成及び調整改造する。


 ヒーローに憧れた男の子はむしろ喜んだ。特別な人間になりたかった、無能だった彼には、人生の逆転。


 これで世界を救えると。異世界だって良い。


 英雄になりたかった。自分が価値のある人間だと思いたかった。


 そして軍で親しい者達に名乗り始めたアダ名は、緑昇。


 緑昇とは、どこぞの子供が焦がれた黄金の騎士と同じく、彼にとって英雄の名前なのだ。


 そして偽者から本者になった少年は、壊れた。





緑昇はモレクと会話して、己で意思決定してるように見えるシーンが有りますが、戦闘に関わる事柄ではモレクが決めた内容を、彼が口に出してるだけですね。


今まで緑昇の冷酷な行動の数々は、お人好しの彼ではなく、計算高いモレクの作戦だったと。


まあ彼女も戦い以外はからっきしだったわけですが……。

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