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第五幸 N-2 「今、この場で創り上げる勝機」

エンディックは事前に打ち合わせた、緑昇との戦術を発揮し、真実の富の物理防御を打ち破り、食らいついていく。


それでも両者の運動性の差は明白。

重力に囚われない斬撃は、確実に死への時間を、少年に刻み付けていく。


更に偽物の富の防御能力『金属毒光線の無効化』がバレてしまい……。

 エンディックは緑昇の教えを思い出す。

「戦いは始まる前の準備で決まる。待ち構えられた方は、後から勝ち目をかき集めるしかない。そして不利な側が敵を倒す最善手は『奇襲』だ。有利な相手の反撃も許さず、一方的に攻め勝つしかない。

 だが敵の陣地で意表を突くなど、至難の兵法だ。敵との戦力差、策にハメられた状態、相手がこちらの勝機を残してくれているわけがない。

 それでも……敵との差を埋めて勝つには……」


「経験の差異……ってか」

 今回の黄金騎士の戦闘は、あくまで緑昇の支援だった。

 だから彼自身の対空攻撃がマモンに通用しないし、頭の王冠を狙うなんて難し過ぎる。

 エンディックは空中戦の心得なんて有るわけがないし、意表を突くにしても、あの老獪な悪魔の知らない戦法など、若人の彼が知ってるはずないのだ。

 ましてやここからは、切り札の一つだった『効かない金属毒光線越しの攻撃』が通用しなくなり……。

「グフフ、とっておきがバレて動揺してますなぁ? そろそろ攻撃してもぉ?」

 マモンは再び空から急降下し、離れようとするエンディックの背を狙う。

 黄金騎士は迎撃の為に右曲がりを続け、正面に迫り来る黄金の勇者を捉えた。

 突きの構えで、斜めに降りてくる鳥人間。だが両者が交錯するその手前で、早めにマモンの槍が突き出さた。

「魔言『SHOT』」

 両刀槍先端に青い魔力円が発生。

 生まれた極太の魔力の塊が三つ、近距離で少年に放たれた。

「な……! ちくしょ!」

 急に上から繰り出された青い光弾を、エンディックが完全に避けきれるはずもない。

 一発目はすぐ後ろの地面を抉り、二発目は左斜め前の地を叩き、ヴァユン諸共ふわりと浮かせてしまう。

 そして無防備になったその身に三発目の魔力弾が。

「受け止めたらぁァァァ!」

 少年が選んだ防御は、槍による突きだった。

 だがその槍に異変が発生する。形が瞬時に膨張して変形。手元より先が広がったそれは、金の傘だ。

 前に出された傘と光弾がぶつかる。

「うぅ……!」

 前へ加速する金獣と、後ろへ飛ばそうとする衝撃で身を裂かれそうになるも、エンディックが練度した傘は光弾を受け反らすことに成功する。

「へ……ざまぁ」

 しかしそんな高揚したエンディックを冷ますように、勇者の槍は上昇しながら少年の左肩を、構えた傘ごと切り裂いた。

 血を振りまきながら、再び交差から離れていく両者。

「今のに反応したのは偉いですなぁエンディック様。さぞワタクシメと戦う為に、練習したのでしょう。で……何か変わりましたかぁ?」

 上昇しながら笑う悪魔と、苦痛に耐えて肩を抑える黄金騎士。

 相変わらず異世界から来た勇者と、異世界の住人の力関係は変わらない。

(ちぃ……痛みで握る力が弱まりそうになる……。槍の接近戦でも勝てず、そこに魔言を絡ませられただけでこれかよ。

 経験ならあっちが上だ。俺は魔言を使った上手い戦い方なんて、出来っこない。奴が知らない手を、俺に見出せるのか……?)

 そう。こうやって弱気になりつつある時点で、勝ち目は遠のいてる

 空を自在舞うあの羽をむしり、地に落として狩る。

 地面を這いずり回る己には、天上の勇者を相手にするなど、不可能だったのではないか……?

(いや……待てよ? 俺が空を飛んだことがないように、緑昇が地面に隠れてるなんて思いも寄らなかったように、奴も経験が少ないことが有るんじゃないのか?)

 エンディックが見てきた限り、あの黄金の勇者は常に空を飛んでいた。

 それは……地上戦の心得が浅い、ということではないか?

「グフフフ、おやおやエンディック様。そんなに苦悩されて。ワタクシメに勝つ方法が思いつきませんがな?

 こうしてる間にも、貴方様の機力はどんどん減っていくというのに……」

 笑う悪魔の声に耳を貸さず、エンディックはヴァユンを走らせながら長考していた。

(奴は俺達をここに誘い込んだ……。それは遮蔽物のないこの草原を、マモンが有利と判断したからだ。地の利は奴に有る……。

 でもここに『敵が気付いていない有利性や戦い方』が隠されているとしたら……それを見つけられたら、勝ち目に出来る!)

 離れていく敵を見下ろすマモンは、今ある勝ち目を摘み取りに、少年とは別方向へ移動した。

 エンディックは右に回り込みながら、いずこかへ下降する勇者を観察する。

(あっちは……俺が落とした金球の位置!)

 黄金の勇者が振り下ろした槍の先には、草の間を転がるお供が。

 先端で小突かれた金球は、飛び上がった主に再び忠義を示すべく追従する。

(再接続した……のか? あぁ! もう一つも……。く、どこだ? 奴が思いつかない、勇者を殺せる要素は……ちくしょー! 本当に何もねー所だなここ。

 草しか生えてねーぞ。所々に木や岩が有っても、盾にもな)

 これは幸運なのだろうか?

 有ったのだ。絶対敵が想定しないだろう戦法が。

 脳を駆け巡ったその思い付きに、黄金騎士は苦笑する。

(そりゃそうだ。効くかどうかも解らねー、しかもやった奴のデメリットはデカい。これを選ぶ奴は、相手がやるかもと身構える敵も、揃って狂人なんだからな)

 エンディックがアリギエに着て、最初に戦ったこの草原。

 一度は緑昇に敗れ、今再び敗北せんとするこの地は、彼にとって縁起が悪い。

 それでも……。

(緑昇の野郎が言ってたな。騎乗錬金戦闘法は、機力を無駄に使い切るだけの、自殺戦法だって。……良いじゃねーか。俺の矮小な命で、お高い勇者様から勝ちが拾えるなら。

 父さんや義姉さん、シナリー達家族の安全が勝ち取れるってなら! 喜んで俺のタマ賭け金にしてやらぁ!)

 金獣は歩みを止めて、操者は空を見上げる。

 離れた距離で黄金の勇者が中空に鎮座していた。同じく浮遊する随伴機を四つ連れて、ほとんど消耗してない圧倒的な力の持ち主が、だ。

 きっと思い悩む少年を嘲笑い待ち、かつ近寄ろうものなら、勇者の強大な魔言で圧殺せんとしているのだろう。

「おやエンディック様、諦めてしまいましたか? 抵抗し苦しんで頂かないと、御嬢様の『大切な者を失いたくない』という欲が、集まり難いのですがぁ。

 それとも何ぞ、勇者を殺す策でも思いつきましたかなぁ?」

 もはや勝負はついたとばかりに、余裕の電子音声。

 対して挑戦者は、その身に宿す『二つ』の力の混ぜ合わせに集中していた。

 異なる二つを一つの技とする。それは正に勇者鎧の如き所業。悪魔の補助もない。ましてや真っ当な魔言使いでもない彼には、それは至難の技。

「おうよ、破れかぶれを閃いたぜ。今からテメーを」

 なので彼に出来るのは、ごく単純な魔言に機力を含ませる程度でしかない。

 黄金騎士が勇者殺しに選んだ、その作戦とは。

「炙り焼き殺すっ!」

『火刑』である。

 だが空飛ぶマモン相手にどこを燃やそうというのか?


 己の足元だ。


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