第四幸 L-3 「正義、夢、希望、使命。そのような脆弱な『言いわけ』は我に不要」
緑昇に決意を告げるエンディック。彼は己が人権を投げ売ることで、ステージへの参加を経たモブキャラクターだった。
出発まで簡単なインストラクションを受けるエンディックであるが……
(孤児院裏側の倉庫近く)
エンディックが今立っている場所は人気がなく、子供達も滅多に寄らない広い空間。
そこで金の両籠手を付けた彼は、金槍を構え、目を閉じて集中していた。
(緑昇に教わったやり方は……機力を対象素材内部に行き渡らせて、骨組みを動かすんじゃなく、浸透した機力を柱に構造とする……。
これにより支柱となった機力を動かすことで、それに連なる材料の形が変わって……どうだ!)
少年がカッと開眼し、武器を天に掲げる。
すると円柱状の槍が素早く変形。
手元を守る鍔の部分が横に広がっていき、そこから繋がってる先端へと膨張し、内部を崩すことなく、形を成した。
それは傘だ。
槍は金の傘へと形を変え、今は使い手を覆う程の影を作ってる。
「よし……前より早く、硬く作れるようになった感じがする。大きさも即座に決められてる。形に成功してるし、これなら……作戦が上手くいくかもな!」
今までのエンディックの錬金術は、我流によるものでしかなかった。
膨大な機力で素材を包み、上から形を変える、力でねじ伏せる錬金術。
機力兵器としても、この方法では満足に稼働しないのだが、彼の強力な機力が効率を無視して無理やり動かしてきたのだ。
それを緑昇という臨時の師を得たことにより、力の使い方や知識、籠手の構造など自身という武器の引き金の引き方を学び、その欠点を解消。
新たな錬金術を覚えたわけではないが、元々の技術が正確になり、余分なエネルギー消費を抑えられ、継戦能力が大きく向上したのだ。
今のエンディックは籠手の設計図の範疇なら、違った錬金を行えそうである。
(ちょっとした知識とやり方を教わっただけで、ここまで変わるかよ……。俺は……騎士を目指すより先に、錬金術師の生き残りを探すべきだったんじゃねか?)
過去、スレイプーン王国では少数ではあるが、錬金術師達が居たと聞く。
しかし異世界の勇者を招いてから扱いが変わり、国から良くない物として排斥されたとか。
王都の錬金術師団は散り散りとなり、今は表から隠れてひっそり生きているという噂が有ったのだが。
「へー、作れるようになったんですね〜。でもそんな付け焼き刃じゃ……ね」
少年が後ろへ振り向くと、シスター服で紫の髪の長い少女が近寄ってきた。
「結局……私の声は聞いてくれなかったんですねエンディックん」
「俺の言葉もな……」
シナリー=ハウピースは再び練習に戻ったエンディックを眺めながら、かねてからの疑問を口にした。
「また危ないことをしに行くんですね……。私や義姉ちゃんの心配する気持ちも知らないで。
どうして……エンディックんは『あんな姿』をしているんですか……?」
「あんな姿って?」
「だってわざわざ金色の鎧を着てるなんて……。あんな偽物で英雄になれると夢想してたんですか?
貴方がどれだけ慈善活動をしても、全ての人を救えるわけじゃないのに。緑昇さんが言うように全ての悪を滅ぼし、全て善だけを残せるわけがない。
そんなの無理だって解りますよね? ならどうして『黄金騎士』なんて『演ってる』んですか?」
問うシナリーの声には、温情がなかった。対峙する者を貫く怜悧が込められていた。
だがエンディックは別の物も感じ取っていた。
彼女は何としても、彼を危険から遠ざけようとしている。
その機会が、今で最後かもしれないからだ。
「それは……格好いいと思ってるから……かな」
「……何ですって?」
だからエンディックは、その想いを断ち切る言葉を吐かねばならない。
己が命よりも、己が望みの為に。
「俺さ、故郷でシナリーと会う前は、山から下りて下界の学校に通ってたんだ。でも混血だって理由で色々有ってさ……。あの頃まだガキだったから、考えるのが嫌になって死のうと思ってたんだ。
そのとき俺を救い出してくれた『光』が、金色の騎士だったんだ」
突然どこからともなく現れ、礼も聞かずに飛んで行った、彼にとっての最初に見たヒーロー。
そしてエンディックはついに、自分の救いの主を見つめる。
あとから解っていた。あの黄金騎士が誰なのかと。
かの者が赤の他人を助けるような、イイモノであることを。
「俺が命を渇望するようになったのは……お前のおかげだったんだよ、シナリー。
俺が焦がれた、見つけた『光』は! お前なんだよ!」
「あまり……覚えてませんね」
「だから救ってみせる。俺が憧れたお前が、救ってくれたヒーローが、不幸になるなんて絶対に許さない。
他の奴らがシナリーを悪だと断罪しても、信者である俺がお前の不幸を許さない。
俺がお前の『勇者を殺す』ぜ」
エンディックの強い眼差しに見つめられ、幼馴染の少女はたじろいだ。
彼が抱く英雄願望と英雄殺害願望の同居。結局の所、彼女の存在がエンディックの人生を捻じ曲げてしまったということだ。
どちらも無謀で不可能で、死地に向かわせてるようなものである。
「……憧れるのは結構ですが、そんな成れもしないごっこ遊びで命を落とし、周りの人に心労を掛けてはたまったものじゃありませんね。でも悪魔との戦いは、遊びじゃ済まない」
「俺だって大人だぜ……。俺が英雄になっても世界は救えないし、この世の悪も滅せない。それでも顔を隠す仮面を被る。顔を曝す方が有名になれるとしても、俺はフルフェイスを選ぶ。
俺は黄金騎士というヒーローに『変身』する」
それは最終的な少年の心に、新たに発生した光。
己の生い立ちや復讐とは何ら関係のない、使命でも宿命でもない、黄金騎士の存在理由。
「だって……『好き』だから。俺は……伊達や酔狂で仮面を被って! 黄金騎士に変身してるんだ!」
他の少年達との違い。
それはエンディックは大人になったということ。
子供の心を持たなくても、大人になっても、『酔狂』にて変身していること。彼は英雄にも、勇者にも、正義の味方にもならない。
『ヒーローにならなくても、正しい行いや、好きな行動は出来る』のだから。
黄金騎士は救世を約束された、空想のヒーローではない。
現実に寄り添った『酔狂』の物質化なのだから。
「俺の命も家族も、シナリーの幸せも、善悪関係なく赤の他人の不幸も、『仕方ない』で諦めて良いわけねーよな。
だから俺は……目に見える範囲で黄金騎士になるよ。俺が死んで皆が涙したとしても、シナリーが不幸になっても哀しいことになるなら、誰も悲しまないよう、俺の『ごっこ遊び』の範囲で頑張ってみるぜ」
決意を確信して笑うエンディック。
シナリーは止める言葉が見つからず、顔を伏せた。
例え損が有ろうと、当たりが大きい方に賭けるのは当然だ。
そしてその悲しみの天秤は、少年によって等倍にさせられてしまった。
「緑昇がマモンの潜伏場所にアタリを付けたんだってよ……。ヴィエル農園かその先が、故郷のヴェルト村だってさ。アイツが言うには、故郷は何らかの結界で外から見えないようになってるんだとよ。
はは……見つかるわけねーよなー」
エンディックは言いながら、槍を何度か振り放ってみせ、練習を止めた。
そして槍の形を崩し、元の棒に戻すと、その場を去ろうとする。
「昼には緑昇と出発するぜ……。今度はこっちから仕掛けるってな。
絶対に父さんを助け出して、シナリーを許させてみせる。それまでサーシャ義姉ちゃん達をよろしくな……」
横を通り過ぎる少年を引き止める言葉を、シナリーは何とか紡ごうとするが、彼は待ってくれない。
いつも言ってる殺害要求、危険行為停止、それらの言葉に意味はなかった。
あと少女に残っているのは、幼馴染に隠してきた『嘘』二つのみである。
「エンディックん……私は……!」
振り返り、去っていく背を見送るしかないシナリー。
結局最後まで二人は恭順することなく、『殺し合う』ことになるのであった……。
そして元勇者の少女の元に、一通の手紙が舞い込んだ。
次回予告!
マモンを追い詰めたエンディック達。
だがそれが最悪の一手の引き金となる。
装着者の幸せを消費して輝く黄金の光は、半端者二人の二色を容易く飲み込む。
圧倒的な力の差の前に、エンディックがかき集める僅かな勝機は、勇者を倒し、友を救えるのか?
次回!第五幸!
「願望不受理の黄金の器」
この『色』だけは、伊達や酔狂でしているわけではない。




