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第一話Aー2 「親孝行不能」

旅から帰ってきたエンディック。成長した姿を変わらぬ形で迎えてくれた家族。

だが、一番見せたかった相手は既に...

(アリギエ・オープンカフェ『イカリャック』)


 そのテーブルに座る男女は、ずっと注目の的だった。

 一つ理由は男の大きな体だ。百九十はある身長の体を椅子に預け、女性と話す男。


店に入って来た時から、注目を浴びている。ボサボサの黒髪にどこか疲れた目で冴えない印象。

歳は二十代後半だろうか。地味な黄土色のコートを着ている彼は、とても低い声でボソボソと女性に話しかけている。


 彼の名は緑昇。

昨夜、アリギエにやって来た男である。


「おい……涎を拭け。モレク」

「だってちゃんとしたお料理は久しぶりなんですもの! 前の町の料理ときたら、どれも激マズでした! 

昨夜なんか身の程知らずの盗賊を、ツマミに平らげてしまうところでしたわ」


 テーブルを不満げに叩く女性はモレク。

綺麗な緑色のショートの頭と、細い目。痩せた体に着ている豪奢なドレスは、視覚に痛いくらいドギツイ桃色。人の歯茎を模した不気味な青い髪飾りを付けている。


二つ目の理由は、彼女が店の男達の視線を釘付けに出来る程の気品のある美女だったから。


 貴族が付き人を伴って来たのだろうか? いや高貴な人種がこんな所に食事に来るはずが無い。

二人は何者なのだろう……? そんな予想を周囲に抱かせていた。




「俺は……この町は初めてだ。知っているだけの詳細な情報を教えろ。お前はここに来た『記録』が残っているのだろう?」



「貴方様の前任者の時ですけどね。このアリギエは王都の周りに展開している、四つの商業都市の一つですわ。


これから回るクスター地方では一番大きい街。魔言の解析と流用がかなり進んでいて、特に建築の『完成度』が高い街ですの。

国王が貴方様の世界の技術を広めて、なんとか再現しようとしてますし、近い将来『真似』くらいは出来るんじゃないかしら」




「確かに他の地方と違って、崩れそうな家……という物は無いと見える。魔言か。この世界における魔法や魔術のような物だったか」



「緑昇……散々あれこれワタクシで酷使してきた癖に、何か解ってないような口振りですわね」




 モレクの半眼に彼は、悪いともふざけているともとれる素振りで謝罪した。



「すまない。マニュアルは読む方だが、物覚えが悪い方だと自負しているのでな」



「いいですこと? この世界『シュディアー』の空間には、人類の先祖が残したと言われている『技術銀行』(テクノロジーバンク)が存在しますの。


今では実現できない超技術が貯蔵された、どこにでも()る奇跡の(くら)と言えばいいかしら。

そこからスンゴい力を引き出す為の暗号や発音が、魔言ですわ。魔言を正確に発音できる才能を、技術を行使するのに必要な魔力(マナ)を持つ者を『魔言使い(スペラー)』と呼びますの。


まあ昔は誰でも使えたそうですけど、今じゃ中々いないのが現状。魔言使いなら公職の騎士と同じくらい、安定した職に就けるって話しですしね。


あの……何で今更、貴方様にこんな事をレクチャーしなくちゃいけないんです? 緑昇、ちょっと聞いてますの?」




 長々と語っていたモレク。対して緑昇は、コーヒーを運んできた『女性』店員に会釈し、黒い液体を口に含み、一息ついて街の人々を見ていた。

数分してモレクに目を戻すと、平坦な声で答えた。



「いや、あまり」

「なぜですのおぉーっ!」


 激怒する彼女を尻目に、緑昇は昨夜の出来事を考えていた。



異形の獣を乗りこなす黄金騎士(ゴールデンナイト)の事だ。

 噂によると、金色の武具と獣を駆って現れては、その場の弱きを助け、強きを挫く正義の騎士らしい。

様々な街に目撃談があり、賊や賞金首をほとんど殺さない事から、童話の中の英雄のようだと語り広まっているそうだ。




「ふふ、同じ穴の(むじな)としてどう思いますの?」

「変態だな」

「はい?」



「奴が不殺を誓おうとも盗賊や反王族主義者の末路は、拷問、死刑、犬の餌と決められているのだ。直接手を下さず、公開された処刑会場に血走った目で朝から待つ。

自分が捕まえた罪人が、他人の手で殺されるシチュエーションを生き甲斐とする変態だろう。


魔言に(すい)(らい)(ふう)といった属性があるように、人にも眼鏡属性やオトコノコ属性、東西(左ハミ・右ハミ)南(・下)北(・上)半球属性と様々あるのだ。

奴は生粋のNTR者(ネトラーター)だろう」


「そ、そうなんですの……?」




 緑昇は黄金騎士の乗っていたアレについて検討する。

あの金属の鹿は何だったのか?




「あれは鹿じゃなくて、レイヨウのプロングホーンという、動物の形に酷似していますわ。記録によると、チーターとかの次に早いとかなんとか」




「ならアレは本物さながらの早さというわけか。だが、なぜ金属の体なのだ? 奴は魔物を使役しているというのか?」



 魔物。どこの冒険者か発掘家が言い出したのか、金属で出来た怪物の総称である。


魔力か何かの未知のエネルギーで動き、縄張りに接近した人間を襲う『物』。


街道に現れる盗賊や、街で人々を苦しめる悪徳騎士よりも、さらに上位の脅威である。

それは彼らの攻撃方法が、理解不能だからだ。


魔物に見られただけで殺される。魔物から逃げても殺される。肉や物でも注意も引けず、命乞いをしても殺される。

なんでも、魔物の体が光ると、穴だらけの死体が出来るそうな。



立ち向かうにしても、彼らの精錬された平たい装甲には剣も槍も弓も効かない。

雷属性の魔言が多少効くと噂される。彼らは森や海、廃墟を住処とし、そこから滅多に出ない。幸い縄張りに近づかなければ、害は無いが。



それらの情報が広められたのには、理由がある。かつて数多の戦士や魔言使いが、名声欲しさに魔物に挑み、殺された瞬間を第三者が記録したからこそである。







「奴が何かの偶然で操作端末(コントローラー)を手に入れたか。あるいは」

「あぁっ! やっと来ましたわ」


 モレクを見ていた男性客たちがギョッとする。彼女達のテーブルに大量の料理が運ばれてきたからである。男が食うのであろうか?


 緑昇は並べられた料理を見て、ため息をついた。一つ一つ丁寧に盛り付けられた料理と綺麗な皿。高価でないながらも凝らされた料理人達の技。

 それらが今、無に帰すのである。




「毎度のことながらお前を維持するのには、金が掛かるな。まあ、『(ほか)』に比べたら『食欲』なんて安い方か。モレク、なるべく上品に頼む」


 強い酸性の液体がテーブルの上に垂れた。モレクの涎である。


 そして……『暴食』は始まった。

 目をカッと見開いた彼女の両手のナイフとフォークが、次々と料理を突きたて、口に運んでいく。

肉を切り分けたりしない。食べていくではなく、料理を飲んでいくモレク 。

その食い方の汚いこと汚いこと。汁と油を撒き散らし、道具を使うのももどかしくなったのか、手を悪魔のように伸ばし、口に入れてゆく。


そう、それは肉食動物の捕食に似ている。もしくは餌に群がる家畜か。




この惨状は見ている何人かの気分を害するのには充分だった。


気品を漂わせる貴婦人のあまりの豹変に、店内の誰もが呆然とし、連れの緑昇だけが静かに自分に必要な分をよそって食べている。




「あ、そうそう。一年前に出た賭けレースを覚えてます?」


笑いながら食事をしていたモレクが、不意に言った。



「マーツォの街での事か。お前の燃料補給に金が尽きて、仕方無しに出ようとしたアレか」


 そのときは乗り物何でもありの賭けレース『ライピッツ』に出ようという話になったのだ。

何でも有りと言っても大抵は馬なのだが、緑昇は自らの足で走り、優勝した。




「そのライピッツがこの街でも有るんですの。今日は物好きな方達の、大会の決勝レース有ります。

ほら、途中で見かけたあの円形の建物はその為の施設ですの」




「ほう。だが今はそれほど路銀に困ってはいない。それにスポーツに出るなら、前のような裏技は用いたくない。

いくら大雑把な規則でも、俺達も馬か何かに乗るべきだ。例えば」




 緑昇はそこまで言って、ある可能性に気が付いた。

例えばあの黄金騎士の金属レイヨウに乗れれば。

例えば自分と同じような反則的な速さを、躊躇わず使い続ける者が居たら。

 その大会に黄金騎士が出ている可能性は高い。






(アリギエ・教会・墓地)


 三人の子供達が墓石に隠れながら、遠くの男女の姿を観察している。

彼らの視線の先にはエンディックとシナリー。二人はある墓石の前で話をしているようだが……?




「ナンダカオニィチャンオコッテル」

「でも見つからないぐらい離れてると、何て言ってるか聞こえないね」

「早くも別れるってやつー? 変なカップルー」

「何してんのアンタ達?」




 コルレとキリー、スクラが驚いて振り返ると、サーシャが袋を抱えて立っていた。

彼女は墓地の管理人のナバロ爺さんに、届け物を渡すところだった。




「ボクタチハフタリノカンシダヨ」

「あぁ、あの子達ね。エンディックも苦しいわね。特に神父様に懐いてたみたいだから」

「あの人ってどんな人なんですか? どちらかと言えば真人間(まにんげん)みたいですけど」



「そうね。エンディックはちょっと口が悪いけど、とっても真面目でお利巧な子よ? ただ気負いすぎる所があるというか、幼馴染のシナリーと一緒に居ると、暗くなっちゃうのよね」



 サーシャは語りながら、知ったかぶる己に苦笑した。どれだけ二人を知っているのかと。

知っていると言っても二人が孤児院に来た以降の姿だ。


多分あの奇妙な関係はその前が原因。きっと自分は助けになれないのだ。




「あの子達が互いを想い合っているのは解るの。エンディックはシナリーのことがとても大切。

あの子が怪我したりすると、血相変えて飛んでく感じね。それはシナリーも同じなの。エンディックに付きまとって何か手伝ったり、たまにご飯を作ってあげたり、お付きの使用人みたいだったわ」


「でもでもー、それって変だと思うー。だってシナリーお義姉ちゃんあんだけ胸おっきいんだよ? 

お付き合いしたい男の人がいないわけないじゃん!」






 突如もたらされた情報に、サーシャは苦い顔をし、コルレとキリーは興奮する。


「タシカニフクノウエカラデモ、オオキイトオモッテタケド!」

「それって本当かい! きっと神様って奴の仕業だよー!」



「うん。この前にアタシ、お義姉ちゃんが脱いでるとこ見たの。なんかもうゴゴゴゴ……ズドンッて感じだったのよ。

空気そのものが揺れてたみたいな」

「いや……その例えじゃ解らないわよ」




 呻くサーシャを二人の男の子がクスクスと笑う。

「マア、オネェチャンジャイッショウワカラナイヨー」

「大人になったら育たないんだよねー」




 青ざめた顔でスクラは二人の口を塞ごうとするが、先に保護者の殴る蹴るの暴行。


「もう、男の子の前でそういう話をしたらダメよスクラ? ほら鼻血出してるじゃない」


 サーシャは拳に付いた血を拭いながら、エンディック達を見る。エンディックは怒っているようだ。

何度か言葉を交わし、彼だけ墓地を去っていった。シナリーはその後ろ姿を見つけ続けている。


 ため息をつきながらサーシャは独り言を言った。

「朝ご飯で言ってたけど、あの正義感の強いエンディックが騎士になるとはね。騎士道を振りかざし、弱い者を助けるのは童話の中だけ。

本当のアイツラは難癖と徴収のプロ。適当な理由で何でもぶん取り、大金さえ貰えば罪人も逃がす悪漢供。そんな奴らの中にいて大丈夫かしら」


 彼女の独り言に足元で転がっているキリーが反応する。彼は興味を持って聞く。


「……お義兄さんって、よくある騎士とか勇者とかの物語が大好きだった子供でしたか?」

「神父様がそういう単純なお話しが好きだったから。その影響かしらね」


 キリーはムスッとして、エンディックが去った方向を見た。

それは失望の眼差しだ。


「なぁんだ……あの人、もの凄い……バカじゃん」




旅の終わりは人生の終わりだった。


「――何でだよぉ」

夢が(つい)えるのを感じた。希望が消えるのを見た。自身の意味が霞んでいくのを知った。

もし結果が解っているのなら、絶対に自我を捨てていた。


どちらか選べと云うならば、例えつまらなかろうと、満たされぬ人生を送ろうと、『彼の傍』を選んでいた筈だ。


「何か喋れよ……」

奴隷として扱って欲しかった。くだらない傲慢な意思や夢など、教えなければ良かったのだ。

結局『見つけられなかった』自分の選択は、眼前の結果に比べれば間違いだったのだから。


「ほら……殴れよ……」

 朝の曇り空の下、緑の丘に立ち並ぶ先人達の名前と石。

エンディックとシナリーはその中から、よく知っている人物の名を見つける。


「なんで死んでるんだよぉッ……!」

 石の名はライデッカー。元は王国の魔言師団員で、一年前まではこの教会の神父をやっていた。

捨てられたり、育てられなくなった家庭の子供を孤児院に預かり、町の人々にとても好かれていた豪快な男。

 そんな男の墓が建てられていた。


「俺はなあ、このハゲにもの凄い借りがあるんだよぉ……」


 エンディックは墓の前に泣き崩れながら、ポツリポツリと話し始め、シナリーは黙って聞いていた。


「誕生日の日に父さんに言われたんだ。今日から一緒にご飯を食べられなくなるって。その頃ガキだったから、なんだか解らないままアリギエに連れられて、ハゲの変なオッサンに会わされた。

親父に置いて行かれて、帰り道を知らない俺にソイツはこう言った。自分はお前を誘拐した。父親にまた会いたければ、自分を倒してから行けってさ」


 子供が大人にケンカで勝てるわけがなく、かといって本当に彼が誘拐犯ではなく。

その禿頭の男はエンディックに部屋を与え、服と毎日の食事を用意し、他の孤児院の子供達と友達になる機会をくれ、教育を与え、そして親の愛をくれた。


 大量に売られた恩に対して彼に出来たことは、よく食べて、よく寝て、少しでも陰り(かげ)のある所を見せまいと、健康に元気に過ごすことだけだった。


 エンディックはよく神父に襲い掛かっては返り討ちにあっていた。

ライデッカーが自分の故郷の場所を、決して教えなかったからである。かといって神父はよく彼の体を鍛えてくれた。


 三年前、エンディックはついに、ライデッカーに膝を着かせた。

神父の老いか、あるいは長年の努力の成果か、実の両親を追いかけていい強さを手に入れたことになる。


 だが、ライデッカーは(かたく)なに口を割らなかった。


 二人は言い争いの末、エンディックは自分の力で探すと言い放った。

他の家族達に心配をかけない為に、騎士学校に通うと言い、故郷の街が大体有ると思われる地点へ旅に出た。


場所は曖昧に覚えている故郷から父に連れられてきた日数と、故郷の風景と一致する噂話しと地図の情報などを頼りに、村や街を回った。


「でも結局見つからなくてよ。このまま戻るのもアレだから、ルトールの街にある騎士学校に行ったんだ。そこで立派な騎士になって見せれば、少しは面目立つかなと思って」


 父親を見つけるという希望は叶わなかった。恩返しに大成した自分の姿を見せるという夢も終わってしまった。

彼に助けられたこの命の意味を、彼の為に見出す前に死んでしまった。


「オヤジはどうして死んだんだ?」

「それは、病気で……その」


 シナリーは顔を伏せ、言いよどむ。

エンディックはもしやと思い、さらに問いをぶつける。


「自分の死んだ理由も、『俺には』話すなって言われたんじゃないだろうな?」

「エンディックんは……昔からカンがいいですねー」


「それは俺の故郷の事と関係が有るのか? 例えば、『今も』俺の故郷が教えられないような危険な所で、オヤジもそこに行ったから死んだなんて言わねぇよな? なあ!」


「――どうしますか?」

 語気を荒くしてシナリーに掴みかかるエンディックは、彼女の変化に気付いた。

 笑っているのだ。シナリーは朝食の時と同じくヘラヘラと笑っていた。

悲しみ、憤る彼を見て、彼が言うであろう答えを期待して、笑みを浮かべている。


「もしお義父さんが誰かに殺されたのなら、復讐でもしますか?」


 それは以前にも投げかけられた問い。

思えば、この問いで彼の人生の指針が決まったのだ。


「それなら『先約』の方を済ませてくれませんか? 私の方の復讐を」


 以前エンディックはシナリーとある約束をしてしまった。彼女の大切な人を、彼にとっても大切な人を殺した『黄金騎士』にエンディックが復讐するという約束だ。


 二人にとって『黄金騎士』とは、世間で言われている謎の英雄の事ではない。

禍々しい輝きを放つ金色の全身鎧(フルフェイス)の怪物。

それが二人にとっての黄金騎士の意味だった。


 しかし今のエンディックなら言える。あの約束はしてはいけなかったのだと。

あのとき、幼いエンディックが出した答えが、彼女をずっと苦しめることになったのだから。


「おい! テキトーなこと言ってんじゃねぇっ! 『奴』は関係ない!」

「お義父さんがピンスフェルト村から『運ばれて』来た時には、体はもう治癒不可能な猛毒に侵されていました」


 ピンスフェルト村はアリギエからさほど遠くない場所で、のどかな農村である。

エンディックも立ち寄ったことがあるが、家々が完全な木造で、人同士の争いや犯罪とは無縁な平和な場所。


 シナリーはもう笑ってはいない。

固い表情から冷めた声を出して、エンディックには無視できない病名を口にした。


「『金属毒(アイアンヴェノム)』ですよ。帰ってきたお義父さんの体の一部が、金属になっていたんです。

それが徐々に広まって、とうとう心臓に達したのか、息を引き取ってしまいました。この死に方を私達は知っていますよね?」


「……ああ、『奴』の得意技だ」


 魔言は技術を取り出すだけではなく、使い手の魔力によって別の方向性を与えたり、他の技術と組み合わせる事も出来る。


『POISON』は猛毒付与の技術で、詠唱時の魔力量に応じて、対生物用の毒素を呼び出す魔言である。

単体ではあまり使われず、『SMOG』と同時に唱え毒煙に、『AQUA』なら魔力で作られた毒液を生成する。


『METAL』は対象の一時的な金属化。

使い手の魔力が続く限り物質を硬化させ、鎧などの物理防御の底上げに使われる防御用魔言(ディフェンススペル)


 魔言には1~8までの階級があり、上の階級ほど発声の正確さや多くの魔力が求められる。

前述の毒と鉄の魔言は4と5の階級。落第者や野に下った無資格者では制御の難しい中級魔言で、主に公的機関の魔言使いが使用している。


「魔言『POISON』の猛毒は教会で作られた薬品や、回復の魔言『RECOVER』による解毒をし、肉体を回復させれば治せます。

しかし『POISON+METAL』の合成魔言(コンボスペル)の毒は金属毒と呼ばれ、対象がなんであろうと無理やり金属に変えてしまいます。

金属化が心臓に達するまで時間がかかりますが、相手を確実に死に追いやる治療不能の猛毒。

わざわざこんな殺し方を、こんな魔言を使う存在は私の知るところ『黄金騎士』だけです」


「でもよ……オヤジはシナリーを孤児院に連れて来たとき、言ってたんだ。あの村の事件はもう終わったって。

あの『悪魔』はもう封印されたって!」


「私達を安心させる為の嘘ですよ。多分あの村の脅威をそのときは解決出来なくて、後から自らの手で、なんとかするつもりだったんじゃないでしょうか? 

そして失敗したお義父さんはご覧の通りです」


 シナリーの語る可能性に、エンディックは項垂れながら考えた。

過去からの因縁が頭を占めてゆく。養父の死と黄金騎士。眼前の少女との約束。そして今までの旅で得てきた力と意味。

なるほど、これは避けられそうにない。


 エンディックは顔を上げてはっきりと意思を伝えた。


「『今』の黄金騎士がどこのどいつか知らねぇ。それにオヤジはコレを望んでない。でもあの化物を放っておくことは出来ないし、故郷への手掛かりかもしれない。

手始めにピンスフェルト村に行ってみようかと思う」


故郷の出来事がまだ終わってないんだとしたら、ライデッカーが一人で行動していたのなら。

今や真相を知り、事件を解決できる者が、誰も居ないことになる。


ならば息子のエンディックが引き受けるしかない。


「俺の腹の内は話した。さあ、次はお前の番だぜシナリー?」


 養父は自分を遠ざけようとした。当然それに従う形で、彼女も情報を出し渋るはず。

なのに今の状況があるということは……。


 案の定、シナリーは見返りを要求した。

 両手を合わせ祈るように。待ち焦がれた恋人にやっと会えたように。

 最高の輝きを放ちながら、笑顔でエンディックを求める。


「貴方の仇であり、私の憎き存在である、黄金騎士を殺して欲しいんです。

貴方に殺される。ただそれだけの為に生きてきた醜い生き物、

シナリー=ハウピースを殺して欲しいんです」


 旅の終わりは因縁の清算だった。

ネコ、トラ、チーター!不殺系主人公の不定です。ただ手を汚したくないだけだろう、という文句。

旅に出てたら親が死んでいた。こういう経験がある方には辛い内容です。しかもエンディックは目的を果たせなかったわけですから、悲しい。

ここで黄金騎士のもう一つ意味が出てきます。一体どちらが本物なのか?

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