第四幸 L-1 「罪を知覚するならば、喜んで苦しめ」
パソコンいじれなかった期間書き溜めたのが有るので、毎週更新を維持したいと思います(=゜ω゜)ノ
修正だけだから、時間かからんと思いたい!
(アリギエ・北区)
日の光が荒廃した街を照らす。
昨晩、突如街の北側を中心に魔物が現れ、同じく街の内側に発生した竜巻よって破壊されるまで、近隣に破壊と死をバラ撒いた。
多くの人命が失われ、生き延びた者や避難が間に合った者に関わらず、アリギエの住民は新たな恐怖に支配された。
それでも一部の人間は恐れをねじ伏せ、無事に済んだ住み家に帰り、微弱ながら復興を始めたのであった……。
「こんな……やっぱり私のせいで!」
未だ硝煙の臭いが焼き付いた家々を見て、リモネは立ち尽くていた。
シナリーはそんな友人に声を掛けず、遠くを見るように壊れた街並みを眺める。
あれから戦いが終わり、シナリー達は孤児院に戻ったのだ。エンディック達の健闘の影響か、教会と孤児院の近所まで魔物は来ておらず、家族は我が家の無事を喜んだ。
その後、疲労したエンディックと緑昇がたどり着き、今は二人とも休養してる頃だろう。
リモネは自分の物の他に魔物が仕掛けられていたことを知らず、ショックを受けたようだ。
彼女が現場を見に行きたいと申し出たので、シナリーも付き添うことにしたのだ。
「やっぱり……あたしを生かしておくべきじゃなかったねシナリー……」
「そうですねー、まさか使い捨ての駒である貴女を、再利用してくるとは、私も緑昇さんも誤算でしたー。まあ貴女が操作しようが、無差別に暴走しようが、結局たくさん死んでましたよ。
貴女が『気にする』ことじゃないですよ」
暗い顔で振り返るリモネに、シナリーは素っ気なく返す。
その返しには含みが有ったのだが、友人は気付かず語り出した。
「あたし……昔から人とは違う力が有ったの。でもそれが自分では何なのか理解出来なくて、あの悪魔に言われてしっくりきたんだ。
魔物を操れるあたしも、他人から煙たがられる自分も、『魔物』だから……なんだなって」
それは絶望の中、新たに差し込んだ闇。
リモネはその闇に従い、魔物を操る技術を修練し、手駒として、使い捨てられる準備をしていた。
その応酬に魔物で母の仇や、家族を嫌悪する者達を銃殺し、いつしか思い付いたのだ。
「どうせならって、お父さんの嘘を現実にしてあげたの。上手くお父さんが勝てるくらいの魔物を出して、全滅しない程度に屑共を殺してやった。
お父さん、喜んでた。本物の勇者が来なければ、お父さん以外は少しずつ皆殺しにしてやるつもりだったのに……。
そのうえお父さんを殺したエンディックに、命乞いをして……本当中途半端だよねあたし」
「なら辞めれば良いじゃないですか」
シナリーの視線は迷える子羊を貫いた。
彼女の声に一切の温情は乗っておらず、羊を導くどころか、解体せん怜悧さで問う。
「リモネ、確かに貴女の人生は酷く暗雲で、先が無いように思えます。でもそれはあの村に居続けた場合です。今の貴女は新天地に来て、そんな半端で楽しくない人生を捨てて、『変身』して幸福を目指すべきです」
「は……、あたしみたいな悪者が今更」
「いえ、そうやって罪を自覚し、罪悪感の有る人はやり直せます。悪い人は、省みることすらありませんから……。
リモネが悪人なら、そんなこと『気に』しませんよね?」
そう、自分のように。未だのうのうと生きてるシナリー=ハウピースのように。
自分が助かりたいなどと望まなければ、親友の両親を巻き込まずに済み、最愛の女性が死ぬこともなかった。
そのうえ育ててくれたライデッカー神父すら、あの世に連れて行った死神。今度は孤児院の家族を、アリギエの無関係な人々を災厄に近付けている。
早く死ななければ。冴虚の息子であるエンディックの手で、惨殺されねば。
もしも『嘘』がバレてしまえば、次こそ彼が壊れてしまう。
もしも自分の口から……。
「……けて……れぇ」
シナリーはハッとした。
今のが声に出てしまったのかと、錯覚したからだ。
「シナリー! 今聞こえなかった?」
リモネは周囲を見渡しながら歩いて行き、対象を見つけたのか、走っていく。
「来て! 早く!」
シナリーが後を追うと、近くの崩れかけた建物の前に、リモネがしゃがんでいた。
それは二階建ての宿屋で、二人が破壊された入り口をくぐると、さっきから引き続き聞こえてきた悲鳴の主を見つける。
「助けてくれー! 誰かー!……あ、やっと来てくれた」
その男はドントンという男で、ベットと木の瓦礫の間に挟まっていたのだ。
彼はライピッツというレースに出る為に、アリギエを訪れたのだが、そこで大負けしてしまう。
しばらくヤケ酒しながら街に留まっていたら、この魔物騒ぎである。寝ていたドントンは気付かない内に、魔物か何かの攻撃で宿の一階が崩れ、二階の彼はベットごと落下。だが落ちてきた瓦礫による重症は運良く負わず、今は足が挟まって動けない状況だった。
それを得意げにかつ情けなく語ってきたドントンは、近寄ってきた少女二人に懇願する。
「これも天の導きだぁ〜! 頼むー助けてくれ〜。金はないけど、頼む〜!」
なんだか元気そうな男であるが、リモネは躊躇せず、上に乗ってる瓦礫を取りに掛かった。
「ふ……! この!」
しかし女の細腕で、重い瓦礫を動かすのは難儀するようだ。
シナリーはなぜかすぐ助力せず、それを眺めている。
「……まあ、良いですけど。魔言『FLOAT』」
彼女は持っていた魔言杖ファイスライアを、瓦礫に向ける。
すると、魔なる言葉の技術を付与された魔力が、対象へ放射。支配化に。
シナリーが横に杖を振ると、ドントンに乗っていた重し達は、次々と浮遊し、飛んで行った。
そしてリモネが礼を言おうとすると、ピシャリと言い放ったのだ。
「何助けてるんですか?」
その後シナリーが回復魔言で応急措置を行い、正確な治療のため、教会まで二人で肩を貸して、連れて行くことにした。
シナリーは感謝感激する彼をサーシャに引き渡し、医務室の外の廊下に居たリモネに問う。
「見捨てれば良かったのに。あの人はリモネと知り合いでもないですよね?」
リモネは顔を伏せ、答えに迷う。
理由など特に無い。単なるモラルの反射だったからだ。
「……ではリモネ、貴女は罪を自覚することが出来るのに、安易な自己消滅で終わらせようとしてるんですか?
貴女がどんなに罪人でも、生きて世の中へ貢献し続けた方が、ずっと償いになりますし、生き続けた方が苦行です。
どうせ死ぬなら、身から出た汚れを掃除して、贖罪の天秤を釣り合わせて、首でも吊って下さい。
リモネの罪悪感は貴女を許さない。なら貴女の簡単な終焉も、許可されるわけないじゃないですか」
「そんなこと言われても、今更良い方向になんて、自信ないよ……」
シナリーは思い悩む友人の肩に手を乗せ、優しい言葉を掛ける。
「大丈夫。きっと出来ます。だって貴女は、今さっき良心を発揮させたじゃありませんか……」
そう言いながら彼女は、内心自嘲した。
やはり己は醜悪な人間なのだと。
(私は許します。貴女のどんな罪も。私は許しません。このシナリー=ハウピースという存在が、生まれたことそのものを。
だって私が自分を許したら、一体どこの誰が私を罰してくれるというんですか)
エンディックやライデッカーは自分を救おうとし、冴虚の夫ギデオーズはマモンに操られ、狂人となり果ててしまっている。
現状、愛する冴虚や親友の家庭を破壊された憤りを、執行してくれる存在は、罪人であるシナリー本人しか居なかったのだ。
ドントンって誰だよ…?1話に出てた人だね…。
次回は緑昇とエンディックの会話回です。




